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食品工場

食品ロス削減推進法;SDGsへの取り組み

2019-12-10

1. 食品ロスの現状

食べられるのに廃棄される“食品ロス”は、農林水産省の最新の集計(平成28年度推計)によると643万トンです。このうち55%を占める事業系の食品ロスの中で、食品メーカーから発生する量は約40%を占めます。これは食品卸売業・食品小売業・外食産業を上回り、業種別では最大です。2019年10月1日に施行された「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称:食品ロス削減推進法)は、食べられる食品の廃棄を減らすため、国の基本方針を踏まえて各自治体が削減推進計画を策定し、企業に協力や取り組みを求める内容です。
日本では、消費者庁・環境省・農林水産省が、共同で食品ロスの削減に取り組んでいます。

「10月30日は食品ロス削減の日」という見出しを市区町村の広報で目にされた方も多いと思います。食品ロス削減推進法により、10月が食品ロス削減月間、10月30日が食品ロス削減の日と定められたことを受けての消費者向けの啓発活動です。

この食品ロスへの取り組みは欧米が先行しています。フランスは食品廃棄物の削減を定めた法律「食品廃棄禁止法」を2016年2月に制定し、2017年2月に施行しました。これにより2025年までに食品廃棄物を50%削減する計画です。イタリアも同様の法律を2016年8月に制定しました。アメリカ・イギリス・デンマーク・スペインなどでは、余った食品・食材を必要な家庭や貧困層に渡す「フードバンク」、「連帯冷蔵庫」、「(食品廃棄物)専門スーパー」などの仕組みを作り、国・自治体・企業が食品ロス削減に積極的に取り組んでいます。

このように欧米では、食品ロス削減の推進について積極的に取り組んでいますが、日本国内では食品業界、特に流通系において独特の商習慣があり、食品ロス削減の推進に当たって一つの厳しい現状があります。それは、いわゆる“3分の1ルール”という商習慣です。これは製造日から賞味期限までの品質保持期限を3分割し、それぞれの期限を超過すると廃棄扱いにしてしまうというもので、食品メーカーから小売店舗に届くまでの「納品期限」、小売店舗から消費者の手に渡るまでの「販売期限」、消費者が食べる期限としての「賞味期限」の3分割設定です。経済産業省はこの3分の1ルールの緩和方針を出しましたが、なかなか浸透していないのが現状です。

食品廃棄物等の発生量(平成28年度推計)

出所:農林水産省及び環境省「平成28年度推計」

国連食糧農業機構(FAO)「世界の食料ロスと食料廃棄(2011年)」では、世界の食料廃棄量は年間約13億トンで、これは人の消費のために生産された食料のおよそ3分の1に相当します。先進国での過剰供給や、新興国での保管手段の不足などを理由に廃棄されることで発生するCO2排出量は、世界の総排出量の8%を占め、国に換算するとインドの排出量を上回ります。

日本は、食料を大量に生産、輸入しているにも関わらず多くを廃棄しています。大量の食品ロスが発生することで、食品ロスを含めた多くのごみが発生するため、その処理に多額のコストがかかり、また可燃ごみとして燃やすためCO2排出や焼却後の灰の埋め立てによる環境負荷もあります。経済的観点でも、食料を輸入に頼る一方、多くの食料を食べずに廃棄する無駄が発生しています。さらに、日本は多くの食品ロスを発生させながら、7人に1人の子どもが貧困(*) で食事に困っているという状況が生まれています。

(*) 厚生労働省「平成28年国民基礎調査/貧困率の状況」より

2. 食品ロス削減推進法とSDGs

国連が2015年に定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」では、2030年までに食品廃棄物を半減させることが盛り込まれました。

食品ロス削減推進法とSDGs

目標「12:つくる責任 使う責任」(持続可能な消費と生産パターンを確保する)のターゲット12.3では、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」と述べられています。このように各国の政府主導でSDGsに関し てさまざまな取り組みが展開されています。

政府は消費者向け、食品小売事業者向けの啓発を積極的に行っており、飲食店向けにも好事例などを提示し啓発活動を展開しています。“3分の1”ルールの商習慣に関しては、食品小売り事業者に対して納品期限の緩和等の見直しを促進しています。

自治体および地方公共団体では、「フードドライブ」を継続的に推進しています。「フードドライブ」とは、家庭で余っている食品を持ち寄り、地域の福祉団体等に提供する活動です。受付対象の食品は、未開封のもの、賞味期限が明記され(お米・砂糖・塩等を除く)その期限まで2か月以上あるもの、包装や外装が破損していないもの、冷蔵・冷凍でないものとしています。ビューローベリタスジャパンでも、過去数回にわたりこの「フードドライブ」キャンペーンを展開し、所定の「フードドライブ」受付窓口に提供しています。

先程から述べているSDGsについて、このコラムでは食品製造、食品小売、外食・中食事業者に焦点を置いています。しかし、SDGsはその目標達成につながる製品・サービスの開発による新規市場開拓や事業機会創出をもたらす可能性があり、投資家評価の向上、顧客にもより良いイメージのブランディングとなり、企業で働いている従業員の意識やモチベーションも向上させるCSRの一つの取り組みでもあります。

3. 食品メーカーによる食品ロス削減の取り組み

サプライチェーンの川上である食品メーカーも、この食品ロス削減推進法をにらみ対策を講じています。ニチレイフーズは、唐揚げなどに使用する包装前の鶏肉加工品で、除去しきれない骨をAIで識別する技術を開発し、19年度中に国内外の工場に順次導入します。従来のX線検査器は肉の形状や置き方によって、骨がなくても誤作動することがあり一定量を廃棄していましたが、AIにより検査精度を向上させる歩留まり改善により、2022年までに鶏肉の加工および原料処理に伴う食品ロスを8割減らす計画を発表しました。 他にも、食品メーカーによる食品ロス削減の取り組みを簡単にご紹介します。

食品メーカーおよびサプライチェーンの食品ロス削減への取り組み

ニチレイフーズ AIで鶏肉加工品の骨を識別し、無駄な廃棄を削減。
キューピー子会社 千切りキャベツの洗浄方法を見直し消費期限を1日延長。
味の素 賞味期限1年以上の調味料、加工食品、コーヒーで「年月」表示を採用。
カルビー 原料や工程を見直し主力商品のポテトチップスの賞味期限を従来より2
か月延長し、あわせて賞味期限表示を「年月」に変更。
キッコーマン食品 しょうゆを開栓後120日保存できる容器に見直し。
ミツカン 野菜の種や皮まで使う新素材の菓子をネット販売。いろいろな料理に使える「カンタン酢」シリーズで初の業務用商品を発売。
山崎製パン 形などが悪く店頭で販売できない規格外の果物をクリームやジャムに使用した菓子パンや総菜パンを増やし、歩留まりが向上。
相模屋食料(前橋市:豆腐) 日本気象協会のデータを活用し、気温の上下に左右される豆腐の需要予測精度を高め、作りすぎを抑制。
サッポロビール ビール・発泡酒・第三のビールの味・品質を確保しつつ、原材料見直しと品質劣化原因となる酸化を防止することで、賞味期限を9か月から3か月延長。製造表示も「年月旬」から「年月」に切り替え。
クラダシドットジェイビー
(通販サイト)
賞味期限が近づいたり、傷ついたりしたパスタやゼリー、缶詰、飲料から生ものまで、希望小売価格よりも6~7割引で販売。最大で9割引。売上の一部が福祉団体などに寄付される仕組みとし、メーカーが嫌う安売りによるイメージ悪化を抑制。供給企業は600社に増え、月150トン以上の食品ロス削減につながっている。
コークッキング 「TABETE」というサービス名で、約340の飲食店などがまだ食べることができる売れ残りや廃棄予定の食品を出品し、買い手(消費者)とをつなぐプラットフォームを運営。
バリュードライバーズ サイト「たべるーぷ」には、農家や水産業者などが規格外の農水産物を出品し、飲食店やお弁当、惣菜を扱う中食業者などが買い手として登録。買い手が消費者ではなく、企業や団体などBtoB向けのサービスであることが特徴。

 出所:各社ウェブサイト公表の情報

また、サプライチェーンの川下にあたるイオンは、世界の大手小売業10社と協働で、SDGsに盛り込まれている2030年までに食品ロス削減を半減する取り組みにサプライヤー20社とともに参画しています。

これらの食品ロス削減推進法に対応した取り組みは、製造工程の手間も省けるため人件費削減につながり、さらに人手不足感が高まっているサプライチェーンの川下であるホテルや外食店からの需要が高い、業務用の「時短食材」が開発される契機になっています。

ところで、これらの企業の多くは同時にISOまたは食品安全に関わるGFSIの各マネジメントシステムを導入し取り組んでいます。ISO9001(品質マネジメントシステム)、ISO14001(環境マネジメントシステム)、ISO22000また は FSSC22000(食品安全マネジメントシステム)と呼ばれるものです。マネジメントシステムは、食品の安全・安心および品質面に関わる法規制である食品衛生法・食品表示法・JAS法・食品リサイクル法・食品ロス削減推進法をはじめ、水道法・産業廃棄物処理法・消防法・省エネ法・フロン排出抑制法・水質汚濁防止法などの環境関連法令および自治体の条例などの各種規制にも順守義務を果たし、本来の事業目的との統合を図ることが必須の要求事項となっています。

特に環境ISOへの取り組みは、いわゆる“紙・ゴミ・電気”の削減に焦点を置いたマネジメント中心の組織・事業所が多く、今までは蛍光灯・水銀灯をLED照明に変更する、デマンド契約し消費電力を低減する等の努力を重ねてきました。しかし、この食品ロス削減を推進するためには、歩留まり向上、原料・材料の見直し、製造工程の見直し、製造技術の改善、製品のライフサイクルを考慮した開発段階からの品質規格の見直しなど、経営戦略的な取り組みを展開するという本来業務そのものが環境ビジネスとなります。

環境省が平成31年に発表した統計(平成30年度環境にやさしい企業行動調査)によると、上場企業の75.9%がISO14001などの環境マネジメントシステムを構築・運用しています。食品ロス削減推進法に対応することは環境ビジネスの一つであり、今後はすべての食品メーカー・食品卸売業・食品小売業・外食産業が食品ロス削減に取り組むことが義務化されました。いわゆる“ISOのためのISO”ではなく、事業統治、食品安全の取り組み、品質規格の維持、歩留まり向上、人手不足への対応、業務の最適化、生産効率向上などは食品ロス削減推進と切っても切り離せない関係にあり、戦略的事業経営、企業統治が求められています。

今後、中小企業においても食品ロス削減推進法への対応が必須となり、マネジメントシステムの役割と運用効果は大きくなっていくと思われます。

システム認証事業本部 小田 徹

 


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