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食品工場

改正食品衛生法;HACCP義務化に当たって

2019-08-09

1. HACCP最新の動向

2018年12月に発効したTPP11(アメリカを除く環太平洋経済連携協定)、2019年2月に発効した日欧EPA(日本・EU経済連携協定)により、日本の食品輸出が加速しています。米国に対しても、ワシントンで2019年6月10-11日に開かれた日米貿易交渉の事務レベル協議で、アメリカへ低関税で牛肉を輸出できる枠を拡大することが協議されました。さらに2020年までに国が推進する「世界に注目される日本」をアピールし、訪日外国人4,000万人の目標達成、東京オリンピック・パラリンピックの開催およびそれ以降も、2030年に6,000万人の訪日外国人を目指すなど、国境を越えたグローバルな経済的結び付きが強くなるなか、国際基準と整合性のある食品衛生管理の必要性が強くなり、HACCP義務化は必然の流れとなってきました。

まず、現在のHACCP普及状況は図1のとおりです。中小零細、大手組織と差異はありますが、年間売上5,000万円から100億円を超える組織までの包括したデータです。

現在のHACCP普及状況

(出典:平成30年6月 農林水産省食糧産業局食品製造課「平成29年度食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査結果」)

上記のとおり、2017年の日本におけるHACCP導入済み食品事業者は約3割で、おおむね大企業がその大部分を占めています。食品の製造・加工・調理・販売などを行う全事業者に対してHACCPを義務化する「改正食品衛生法案」は、2018年に衆議院で可決され、法案公布後から2年後の2020年6月に本法案の施行、経過措置期間を経て2021年6月から義務化されるというものです。すなわち、食品関連事業者は、遅くとも2021年6月までにHACCPによる衛生管理制度を導入しなければなりません。 本法案の概要は次のとおりです。

(1) 広域的な食中毒事案への対策強化

国や都道府県等が、広域的な食中毒事案の発生や拡大防止等のため、相互に連携や協力を行うこととするとともに、厚生労働大臣が、関係者で構成する広域連携協議会を設置し、緊急を要する場合には、当該協議会を活用し、対応に努めることとする。

(2) HACCPに沿った衛生管理の制度化

原則として、全ての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求める。ただし、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理とする。

(3) 特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集

健康被害の発生を未然に防止する見地から、特別の注意を必要とする成分等を含む食品について、事業者から行政への健康被害情報の届出を求める。

(4) 国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備

食品用器具・容器包装について、安全性を評価した物質のみ使用可能とするポジティブリスト制度の導入等を行う。

(5) 営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設

実態に応じた営業許可業種への見直しや、現行の営業許可業種(政令で定められる34業種)以外の事業者の届出制の創設を行う。

(6) 食品リコール情報の報告制度の創設

営業者が自主回収を行う場合に、自治体へ報告する仕組みの構築を行う。

(7) その他(乳製品・水産食品の衛生証明書の添付等の輸入要件化、自治体等の食品輸出関係事務に係る規定の創設等)

2. 食品製造業としての取り組み

食品製造業向けの第三者HACCP認証の主な枠組みとして、次のデータがあります。

HACCPの種類 直近の認証取得全体の割合 年間売上5億円未満の認証取得率
① 総合衛生管理製造過程:厚生労働省が食品衛生法により定めるHACCP認証で、6つの製品に限定して取得可能 約12% 約8%
② 地域認定HACCP:各自治体が独自に定めた基準で審査しているHACCP認証 約20% 約42%
③ 国際標準のHACCP:FSSC22000、ISO22000など 約45% 約8%

(出典:農林水産省食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査)

特徴的な傾向として、FSSC22000、ISO22000の認証登録組織は比較的規模が大きな組織が取り組んでいるのに対し、自治体HACCP認証は年間売上が5億円未満の組織で多く取り組まれています。

3. 飲食店、弁当仕出し、給食業の取り組み

実際の食中毒に焦点を置くと、厚生労働省の2018年の統計は次のとおりです。厚生労働省に届出されているデータで、図2は、食中毒の発生件数と患者数の推移です。図3は、それらの発生場所です。平成30年の死亡者3人は、いずれも70才以上で、家庭における植物性自然毒(イヌサフラン2、ニセクロハツ1)によるものでした。

食中毒の発生件数と患者数の推移食中毒の発生場所


食品製造業起因の食中毒はわずか1%未満であるのにに対し、飲食店・旅館・学校・病院・仕出しは合わせて60.9%と、消費者が喫食する最終プロセスで食中毒が発生していることが注目点です。このことから、HACCP義務化の対象組織の中でも、消費者が喫食するプロセスに関わる組織がHACCP導入を検討し取り組むことが必要です。
図4・図5は厚生労働省の統計です。HACCPを導入済みまたは導入を検討している組織は、「飲食店営業(仕出し、弁当)」において全国で最も数字が高い北海道・東北で9.4%です。また、「飲食店営業(給食施設)」においては、同じく最も数字が高い北海道・東北で35.6%です。2020年のHACCP義務化で舵取りの方向性の決断を迫られるのは、喫食の最前線の業態であるこれら飲食店営業の給食施設・仕出し弁当・レストラン・ホテル・中小規模飲食店舗です。
HACCPは、既にEU、アメリカでは義務化されており、カナダ・台湾・ブラジルでも一部義務化されています。先進国を中心にHACCPは義務化され、その国々への輸出にはHACCPは必須の条件となっています。世界から注目され訪日客が増加する東京オリンピック・パラリンピックの2020年、またそれ以降も経済連携協定の締結による食品輸出入のグローバル化が進むなかで、HACCPは安全・安心を担保する取り組みとして必須となりました。

地域ブロック別のHACCP導入状況地域ブロック別のHACCP導入状況

 

4. HACCP規格の動向

2項で述べたとおり、HACCPに取り組むに当たって、第三者認証にも、自治体HACCP認証・国際標準FSSC22000・ISO22000があります。FSSC22000はVer.5が2019年5月に発行され、ISO22000は2018版が2018年6月に発行されました。FSSC22000の一つの軸はISO22000ですが、そのISO22000は2018版で「事業プロセスと食品安全マネジメントシステムの統合」を要求しており、ISOのためのISOではなく、経営・事業とマネジメントシステムは統合して取り組むように改正されました。
HACCP義務化によりその導入は避けて通ることができず、導入によって、食品製造業も飲食店営業も消費者に安全で安心な食品を提供することが責務です。その取り組みは、世界と国内の取引先からも消費者からも期待されています。

システム認証事業本部 小田 徹

 


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