QHSE

有効な是正処置のとり方

2019-12-17

主任審査員 伊藤 康雄

はじめに

前回のコラムでは、是正処置の“有効性レビュー”についてご説明しました。
これまでの審査の中で、内部監査・外部監査(審査)・市場クレーム等の、あらゆる“不適合”に対する是正処置の例を多く見てきましたが、残念ながら、規格の意図に沿って適切にとられた処置というのは、あまり多くないように思えます。今回は、こうしたよく見られる不適切な例を、我々審査員が行う審査における不適合を中心に紹介し、是正処置はどうあるべきか、有効な是正処置とは何か、について考えたいと思います。

1. 不適切な是正処置の例

1) 原因の除去がされず、“修正”にとどまっている

是正処置は、“原因を除去し再発を防止する”のが目的ですが、処置が“修正”に留まり、“原因の除去”に至っていない例が多くみられます。“修正(correction)”とは、“検出された不適合を除去するための処置”です。修正の結果、不適合の状態が適合した状態になっても、それだけで“再発防止”にはなりません。

例えば、設計の不備によって製品が市場クレームを起こした場合、設計変更をしてクレームにならないようにしたような例、これは一見再発防止となるように思えますが、市場クレームになるような設計の不備が、なぜ市場に出る前に検出できなかったのか?と考えた場合、“設計検証”または“設計の妥当性確認”の仕組みに不備があったと考えれば、同様の不適合の再発が防げるのではないでしょうか?単に、設計上の不備に対策しただけでは、再発防止にはなりえないと思います。

2) 原因と処置が一致しない

原因が「…の仕組みがなかった」なら、是正処置が、「…の仕組みを作った」となればよいのですが、「…を知らなかった」ので「毎月確認することとした」では変ですよね。

3) ルール化、文書化がされていない

一番よく目にするのが、「…することとした」という表現です。これ自体は問題ありません。しかし、「…することとしたのは、どうやって皆さんに周知するのですか?」と聞くと、誰と誰に“教育”をした、との説明があり、教育・訓練記録を見せてくれます。とにかく是正処置に“教育・訓練”が出てきたら要注意です。是正処置は、未来永劫、同様の不適合が出ないことを目的にしていますが、教育・訓練はある期間関連していた人だけが対象ですよね。それでは再発防止になりません。ただし、「要員にこのルールを徹底するために、新人が配属された場合は必ずこの手順を説明すること」というようなルールを明確にしておけば、再発防止になり得ると思います。人が変わっても継続される、文書化したルールを作る、フォーマットを定めることが必要かと思います。「明日から皆で守ろうね」だけではダメです。

2. 不適切な是正処置になる原因

以上のような、不適切な是正処置がとられる要因は、すべて“真の原因がわかっていない”ということに尽きると私は思っています。原因さえ正しく把握されていれば、それを除去するのが是正処置なのですから、除去の仕方もおのずと明確になるはずです。それは、さほど難しいことではないでしょう。それができないのは、原因を正しく把握していないからに他なりません。これは認証審査でも内部監査でも、市場クレームでも共通することだと思います。原因の把握がうまくいっていない例を以下に示します。

1) 不適合の原因を、人の意識・理解に帰結する例

「規格の要求事項を理解していなかった」や「…を守るという意識が希薄だった」ことが原因だと認識していると、正しい是正処置にたどり着きません。人の“理解”や“意識”は、仕組みとしての処置に繋げられないでしょう。こういう“原因”が先ほどの“教育・訓練”の是正処置に繋がる訳です。

2) 「発生した原因」と「流出した原因」が適切に認識されていない例

不適合には、それが“発生”した要因と“流出”した原因があると思います。“なぜそれが起きたのか”と“なぜそれに気づかなかったのか”ということです。どんな不適合でも、事前にそれが不適合と分かり、防止されていればそれはそれで良いはずです。何か決めたことが守られなかった場合、それ自体を防げなくても、守られなかったことが検出できればよい、という例もあると思います。原因分析時、「発生」と「流出」という二つの見方は有効だと思います。

3) 現象そのものが原因になっている例

これも結構多いのですが、指摘された事項のオウム返しが結構あります。原因が「~しなかったこと」というのは、「それはこっちが指摘した事項そのものですよ」という例です。

3. 正しい原因の把握の仕方/有効な是正処置のとり方

我々審査員が行う、いわゆる認証審査における不適合に対する是正処置を行う際、前述のように“適切な原因把握”が必要だと思います。よく、“なぜなぜ分析”を行う組織がありますが、残念ながら、これまで審査を行ってきたなかで、“なぜなぜ分析”を上手に使っている組織は非常に少ないように思えます。決して手法を否定するつもりはありませんが、事実だと思います。

不適合の原因を突き止めるには、まず、指摘された不適合を適合とするために、自分の組織はどういう仕組みを構築し、実践しているのだろうか?と考えることが必要だと思います。「マネジメントレビューのインプット項目が、規格の要求事項を満たしていない」と審査で指摘された場合、自分たちは要求事項を満たすために何をしているのかをまず考えます。

マニュアル・規定にはどう書いてあるのか、インプット事項の書式は適切なのか、そのとおりやっているのか?“なぜなぜ分析”はシリーズですが、この疑問はパラレルです。結果として「こういう仕組みでこうやっているのだから間違いない」となったら、不適合の指摘は出ないはずです。それでも指摘されるというのは、仕組みのどこかに綻びがあるはずです。その仕組みの不備を突き止めて、それを是正するのが、正しい/有効な是正処置だと思います。

結論として、不適合の原因を、仕組みとしての不備に見いだし、それを除去する処置をとることが有効な是正処置のとり方だと私は思います。そして処置を確実にするためには、何らかの文書化されたルール、書式(これもルール)が伴うものだと思っています。


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