QHSE

組織の知識”とは?

2020-08-05

主任審査員 K.G

審査員コラム:“組織の知識”とは?

いろいろな企業に審査で伺うと、ISO9001:2015の規格要求事項の箇条7.1.6“組織の知識”の理解が不足しているため、仕組みや活動が十分とはいえない企業が少なくありません。この要求事項は2008年版にはなく、2015年版での新しい要求事項です。そこで今回は“組織の知識”についての理解を深めていただき、その仕組みと活動が企業にとって“役に立つ仕組みと活動”になるための足掛かりになればと思います。

規格要求事項とそのねらい

規格では次のような要求事項となっています。

  • 組織は、プロセスの運用に必要な知識、並びに製品およびサービスの適合を達成するために必要な知識を明確にしなければならない。
  • この知識を維持し、必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。
  • 変化するニーズおよび傾向に取り組む場合、組織は現在の知識を考慮し、必要な追加の知識および要求される更新情報を得る方法またはそれらにアクセスする方法を決定しなければならない。

特に日本の製造業や建設業界では、経験や知識の豊富な年配の方が定年・高齢化で離職しなければならない状況や優秀なスタッフの離職等があり、その方たちが持っている豊富な個人の技術・知識(ノウハウ)が次の世代に上手く引き継がれず、その方が行なっていた業務が継続できない等の問題が発生しています。これらを事前に防ぐために、これらの方の技術、知識(ノウハウ)を企業として残し、次の世代の人が継続して一貫した品質の製品およびサービスの提供ができるようにするのが狙いです。

間違った事例

企業に伺い、実際の審査の場で組織の知識についてどのような仕組みと活動がされているかを確認すると、個人の力量表やその教育計画表、教育記録等が示されることがあります。力量表や教育記録類は組織の知識の一部ではありますが、純然たる組織の知識とはいえません。力量は規格箇条の7.2に示されるように、あくまで“個人の力量”のことを指しており、“組織の知識”とは異なります。
また、作業手順書が該当すると提示される場合もあります。こちらも間違いではありませんが、そこには作業の手順が書かれているだけで、先人たちの作業ノウハウが詰まったものとはなっていない事例が多く見られます。作業におけるポイントや勘所、コツ等が書かれていないのです。

どのような場合に“組織の知識”の仕組みが必要か

特に、この組織の知識としての仕組みが必要と思われる職場は、作業に従事する職場、設計・開発の職場、検査の職場等、長年経験しないと分かりにくい業務内容の職場です。
例えば作業面では、作業が早い、ミスをしない、応用が利く、古い製品の修理、取り扱いができる等が考えられます。また、設計・開発面では、過去の失敗事例を覚えており失敗を繰り返さないように設計・開発を行っているなど、個人毎の過去の失敗事例が反映された業務となっているのです。

同じ作業手順書を見て作業を行っているにも関わらず、作業の早い人、ミスをしない人等がいますが、その人なりの勘所やコツ等があるはずです。そのような勘所やコツ、技術、知識(ノウハウ)等を誰もが利用できるような仕組みとなっていることが必要です。

実際の仕組み作り

企業によっては既に仕組みが社内運用システムの中で構築されている所もありますが、ここでは仕組みが構築されていない比較的小規模な企業を例にして述べたいと思います。
仕組みとしては、規格で要求している「必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。」を満たす仕組みとなっていなければなりません。
一般的に普及している仕組みでは、“過去トラ”と言われている「過去のトラブル集」の活用です。これは、クレーム、苦情、ミスの情報を整理し活用できる仕組みにしている企業が多いです。ただ“検索性”に弱いため、活用する際に必要な情報にたどり着くまでの時間がかかります。
また、過去の不適合報告書等、是正処置に関する記録類を“組織の知識”に位置付けている企業もありますが、ただ時系列的に資料をファイルしているだけですので、こちらも“検索性”が課題となります。これらを比較的簡単に解決するには表計算ソフトの活用がおすすめです。
クレーム、苦情、ミス等の情報データをシートに組み込み、オートフィルターを設定すると、自分が欲しい情報のキーワードで検索が可能となります。
しかし、ここでデータだけを入力するのではなく、なぜクレーム、苦情、ミスとなったのか、という理由と、これらを防ぐポイントを書き込むことが必要なのです。この“理由”と“ポイント”がノウハウではないでしょうか。
ポイントの“なぜならば”が必要なのです。
このデータベースを必要な部門で共有化すればよいのです。
設計・開発部門では、なぜこの設計(開発)にしなければならないかの理由が必要です。過去の失敗事例等が呼び出されるようにリンク付けをされるとよいかと思います。

作業手順書でのノウハウの反映は、普通の手順の記述の中に“ここがポイント”等の欄を作成し、作業のポイントやコツなど個人が持っているノウハウが書き込まれるとさらに良い作業手順となります。熟練者の技量が未熟者に伝わるように分かりやすく記入することが必要です。

まずは管理・監督者の方がシステム作りを

現在ある各種データを上記の表計算ソフトに入力することから始めてください。いっぺんに作り上げるのには大変な労力が必要ですから、日々少しずつデータを入力することから始めてはいかがでしょうか。
また、作業手順等の実務面では、教育・訓練が必要です。
熟練者の作業の着眼点、作業ポイント、コツ等を計画的に教育・訓練する必要があります。
ある企業では、この教育・訓練の場を「***道場」と名付けて一般の教育・訓練と異なる位置付けにし、教育・訓練を行なっています。
ある企業では、教育・訓練する場所を設置し、いつでもだれでも訓練ができるようにしているケースも見られました。技量を効果的にアップするには良い仕組みだと思います。
なお、一度仕組みを作ったら終わりではありません。
規格では「組織は、現在の知識を考慮し、必要な追加の知識および要求される更新情報を得る方法またはそれらにアクセスする方法を決定しなければならない。」と定めています。

従って、継続的な実施と、データベースの日々の更新が必要となってきます。

組織の知識の充実が組織の強みに変化する

熟練者が過去に失敗していたことが確実に知識として蓄積され、現在の製品づくり、サービスの提供に繋がっています。次の世代の方が同じ失敗をしないことや、熟練者が長期間かかって習得した技術を若手の方が短期間で習得する方法が“組織の知識”の仕組みです。
ぜひ、経営者、管理・監督者が先頭となって“組織の知識”の仕組み構築のための旗振りを行なってください。
熟練者、優秀なスタッフが離職しても次の人が継続して同じ品質で製品およびサービスが提供できる仕組み作りが望まれます。

“組織の知識”の仕組み構築と活用によりさらなる飛躍ができますよう、皆様のご活躍を期待しております。


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