QHSE

役に立つ力量表ってどのようなもの?

2020-01-29

主任審査員 権田 和弘

いろいろな会社、組織(ここでは組織と呼びます)に審査に伺うと、力量表(組織によっては、スキルマップ・スキル表・能力表・スキルアップ表等の呼び方がありますが、ここでは“力量表”と呼びます)が上手く活用されておらず、審査のためだけの力量表になっているケースが見られます。 そこで、組織に役立つ力量表の作成に役立つヒントや事例を、よりよい規格解釈の一助としてご紹介します。

規格要求では間接部門を含めた全ての部門が対象

ISO9001:2015年版の規格箇条7.2では、“品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(または人々)に必要な力量を明確にする”となっています。
一方、2008年版では“製品要求事項への適合に影響がある仕事に従事する要員に必要な力量を明確にする”となっており、明らかに2015年版では、認証範囲に含まれるプロセス(当該のマネジメントシステムを構成する単位)に関与する全ての人々が自部門における力量を明確にすることが求められています。従って、そのプロセスに関与するという役割の範囲で総務、経理部門などの間接部門の方も力量を明確にし、不足する場合には教育を実施しなければなりません。

力量表の作り方

実際に審査の現場で確認する力量表は多種多様です。
まずは力量項目の作成ですが、比較的大雑把な項目区分で作られている組織が見られます。
例えば、営業部門の場合、「製品知識・商談・顧客情報の把握等」の3項目で力量項目を表している場合がありますが、営業の場合はもっとたくさんの業務項目を行っているはずです。製品知識でも製品別に区分する、商談や顧客情報の把握等でもプレゼンテーション能力、顧客の特異性の把握、見積書作成、市場動向の把握など多岐にわたる業務内容をこなしているはずです。これらの業務内容をそのマネジメントシステムの目的達成を阻害する可能性がある、いわゆる「好ましくないリスク」に関係していることを前提として、それが分かる程度に詳細に項目を挙げることが重要です。つまり、審査員としてはまずここに関心が向きます。これらの作成ポイントは、新人を指導・育成する際に“力量表”が活用できるか、です。現在、業務に従事されている方たちからどのような作業項目を行なっているか細かなことを含めて聞き出し、新人が一人前になるまでの項目をシートに書き込むことです。また、業務フロー図も参考となります。

次に各業務項目の力量レベルの作成です。
一例として、力量レベルを「〇」と「×」だけで表している組織がありました。この場合、力量といえるのか疑問を感じます。少なくとも“力量”と呼ぶのですから、“力”の集まりすなわち“量”が表されていないのです。資格保有の場合ですと、資格の有無(保有しているかいないか)のため、〇か×でも判りますが、力量が「〇」と「×」では不明です。新人がやっと力量が「〇」になったレベルとベテランの方の力量の「〇」では、おのずとして力量に差が出ているはずです。そこで、できれば力量は“量”を表せる数値にされると判りやすいと思います。これは前記のように、プロセスを予定通りに運営することを阻害する可能性のある「好ましくないリスク」と関連付けて考えていただくと

  • レベル1:業務ができない
  • レベル2:指導、サポートがあれば業務ができる
  • レベル3:一人で業務ができる
  • レベル4:設備の段替え、修理ができる
  • レベル5:担当する業務の指導・教育ができる

など、複数のレベルがあると“量”が表せると思います。レベルの数は組織によって異なりますので必ずしも5段階でなくとも良いと思います。

さて、完成した力量表に基づいて、作業に従事する方の力量を評価するわけですが、下記の方法で評価されている会社もありますので、参考までに記します。

  1. 力量表に基づいて、まず本人が自己評価を行う
  2. その後上司(評価者)が評価項目に従って評価を行う
  3. 本人と上司が面談し、評価点の異なる点を重点に擦り合わせを行う
  4. 今後の力量をアップする項目、点数を調整する(今年度の目標など)

このようにすることにより、本人が力量を向上する項目が明確となります。
ただし、この方法は組織それぞれの過去の背景がありますので、ベストであるかどうかは別です。
組織の中には被評価者(本人)自体が評価項目ごとの力量レベルを知らない組織もあります。向上するためにも力量レベルは被評価者(本人)が知っておくと良いと思います。組織によっては、全員の力量をオープンにしており、公平な評価に繋げている所もあるくらいです。
要は本人がどれだけモチベーションをアップできるかです。

教育計画との連携が必要

さて、力量を評価し不足な場合は力量を付けることを規格では要求しています。
箇条7.2「c. 該当する場合には、必ず、必要な力量を身に付けるために処置をとり、とった処置の有効性を評価する」と規定しています。
このために多くの組織では「年間教育計画表」を作成し、不足している力量項目の力量アップに取り組んでいますが、一部の組織では、力量表の項目と年間教育計画表の項目とが連携していない場合が見られます。このような場合は、力量項目ごとに番号などを付与し、力量表の項目と年間教育計画表の項目とを同じ番号にすると、教育が終了した後には力量表の項目の評価がしやすくなります。

教育の有効性評価はいつ行うのか

1件ごとの教育終了後に行う場合と時間を経過した後に評価する場合があります。
前者では、教育終了直後に筆記試験等を行うか、受講生に質問を行なって回答の出来、不出来により評価しているケースがあります。後者では、教育終了後上司に報告書を提出し、上司が有効性を評価する場合があります。あるいは、教育内容が実務面で反映されているかどうかを評価する組織もあります。方法は多くありますが、要は教育内容が身についているかどうかです。
なかには、個々の教育結果の有効性の評価は行わず、年1回の個人面談で1年間の教育受講内容全てを評価しているという組織もありますが、本来の有効性評価に対して適切かは疑問です。個人個人の能力、力量を評価するのですから、時間がかかっても適切に評価してほしいものです。
また、外部研修に参加した受講生には、社内で先生となってもらい未受講生の教育を行うなどすると、受講生はより受講内容を身に付ける必要がありますので、優れた方法と思います。実際にこの方法で有効性を評価し、経費面での節約も行うなど一石二鳥や三鳥を行なっている組織もあります。有効性評価とは、つまり「教育訓練を行った甲斐がありましたか?」ということです。ですから、それが分かる程度の評価でしょうし、その時期もその結果が出てほしい時期になると思われます。また、それらはその計画に含まれていてしかるべきではないかと審査員は考えるのです。

個人ごとの品質目標に繋げる

個人ごとに品質目標を設定している組織もあります。この場合では、力量項目の力量レベルが数値化してあると目標値の設定が容易にできます。個々の力量項目ごとでの力量アップが難しい場合でも、数値化されていれば、“全体として何点アップ”と数値化での目標値の設定ができます。参考とされると良いと思います。

最後に

力量の内容だけでも幅広い活動となります。いずれにしても各種活動の中でPDCAがきちんと回っており、そのプロセスが安定して運営されるために各人の力量が確保されるとともに毎年向上していくことが重要です。
ISOの審査の際に、審査員に見せるだけの「力量表」ではなく、実務上の役に立つ力量表になることを祈ります。
皆様のご活躍を期待しています。


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