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労働安全

社会的責任監査における外国人労働者に関する確認について

2019年8月、BBC(電子版)が、約8分間の動画とともに日本の外国人技能実習制度の実態を紹介しました。そのことがきっかけとなり、同年秋ごろから、社会的責任監査を依頼いただく際、依頼者、あるいは監査結果の最終提出先である取引先(バイヤー/ブランド)から、被監査先で働く「外国人労働者に関する確認」要件が追加されることが増えました。
外国人労働者には、直接雇用(正社員・契約社員・パート・アルバイト・技能実習生)と間接雇用(派遣労働者・請負労働者・家内労働者)があります。今回は、直接雇用の「技能実習生」について、監査時に確認が必要となる書類や労働環境、その必要性の背景についてご説明します。

【外国人技能実習生がいる場合に確認する書類】

  • 技能実習計画書(全文)および認定通知書
  • 技能実習の準備(*)に関し本国で支払った費用の明細書

(*) 技能実習の準備の範囲とは、たとえば、渡航前に本国で受けた日本語研修の費用、寮に入る際の備品代金(布団、炊事道具、自転車等)等を含みます。

【外国人技能実習生がいる場合に確認する内容(一部)】

  • 実習生が理解できる言語で、取り扱う機械や担当する業務の説明をしているか

  • 実習生は計画書に定められている業務を行っているか

  • 実習生が何らかの差別を受けていないか

  • 実習生に提供されている寮(住居)の環境が適切であるか

  • 実習生の労働時間、労働賃金が法律に基づいて適切であるか 等

監査では、技能実習生が被監査先工場(日本)で就労するにあたり、本国の管理会社(送り出し機関)へ支払った費用の内訳を確認し、同時に、被監査先がそれらの費用の一部あるいは全額を負担したかどうかの確認も行います。
法律では、被監査先が負担することとは定められてはいません。しかし、取引先(バイヤー/ブランド)の多くが「本国での支払いは受け入れ企業が全額持つこと」を要件にしていることから、確認することが求められています。
監査は、監査プログラムごとに決められた監査基準に沿って実施します。注意しなければならないのは、日本の法律を遵守するだけでなく、それ以上の基準、たとえば、グローバルスタンダードとされる基準や取引先(バイヤー/ブランド)が独自に設けた基準を要求されることがあるということです。

ここで、前述したBBCの動画について、少しご説明します。
この動画では、リポーターが、中国やベトナムなどから来た技能実習生が集まるシェルターを取材し、インタビューを受けた複数の技能実習生が、賃金の未払い、激しいいじめにあって精神的に追い詰められたこと、不当な労働環境や労働条件について語っている様子が報じられました。
このなかで、ある縫製工場で働いていた技能実習生からの取材で明らかになった、製品のブランド名(実名)が公表されました。いずれのブランドも「直接契約はなく、下請け業者が勝手に仕事を外注した」、「自社の管理が及ばない外注先でのことで、その工場を使っていることは知らなかった」と回答したそうです。

この報道を観た視聴者の多くが、日本で働いているすべての技能実習生の実態だと誤解したとしてもおかしくはありません。
その誤解を受けるリスクを回避するため、グローバルでビジネスを展開しているバイヤー/ブランドの多くは、日本の製造工場における労働環境に今まで以上に注目するようになりました。

注目しなければならなくなった理由は;

  1. 先進国である日本においても、製造工場の労働環境が悪い可能性がある
  2. 外国人労働者に対する人権侵害がある工場も存在することが判明した
  3. 直接契約している最終工程の工場でなくとも、ブランド/バイヤーが責任を問われることがある
  4. 製品を購入する一般消費者の購買理由に影響を及ぼす

といったところでしょうか。

たとえば、自身のサプライヤーである日本の縫製工場に対し、定期的な社会的責任監査を実施し、労働環境・労働管理・労働安全において一定基準以上であることを契約更新の条件にしていたアパレルブランドのひとつが、2019年の秋にその監査対象範囲を広げ、縫製工場だけでなく、その下請け工場、あるいはサプライヤーである素材工場までを対象を広げることを決めました。
また、あるブランドは、自身のサプライヤー管理の中で、当初リスクが低いと判断し、監査対象から外していた日本のサプライヤー工場を、全て監査の対象にすると改めました。
送り先機関や監理団体の詳細、制度にかかった費用の詳細内訳を細かくヒアリングするため、独自の質問表を作成したブランドもあります。

外国人労働者、特に技能実習生を受け入れている企業/工場が社会的責任監査を受ける際には、このような背景が監査の実施にあることを知っておくことが大切です。きちんと対応していたとしても、第三者が納得できる証拠がなければ「適正に対応していない」と判断をされてしまうおそれがあります。
日本人従業員と同様、労務管理や労働安全について法律に基づいて雇用することはもちろんですが、外国人だからこそ、追加で必要となるサポートがあります。技能実習制度の場合は、監理団体に任せっきりにせず、その制度の仕組みをきちんと理解し、企業/工場内で共有しておくと安心です。
取引先や消費者、あるいは社会が日本の製造工場における労働環境に注目しています。自身の工場の外国人労働者、技能実習生の受け入れ態勢が適切であることが、第三者に対して説明できる体制になっていることが必要です。あるいは、自身のサプライヤー、あるいはその下請け工場が適切に対応しているか、管理することが求められています。

消費財検査部門 山内 史子

 

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