1. ISO45001への移行状況

(1) ISO45001認証取得の動機付け

ISO45001が発行された2018年より、新規認証取得、OHSAS18001からのアップグレードに関する問い合わせが相次いでいます。その背景に、ISO45001の国際規格化によって認証のステータスが押し上げられていることは間違いありませんが、その他に二つの要因があるのではないかと考えられます。

① 顧客要求への対応

これまで一般的に、労働安全衛生は組織内部の問題と認識されてきており、第三者認証を取得してその順守を市場に知らしめることの意義が語られることは少なかったように思います。しかしながら、ESGやSDGs、サプライチェーンマネジメントといった社会課題への対応を企業経営に取り込むことが提唱されるなか、人の安全という課題は組織にとって非常に大きなテーマであると認識されるようになりました。このことは組織の取引先にも強く認識され、例えば仕入先(サプライヤー)に向けて労働安全衛生の取り組みについてさまざまな要求を課すことにつながっています。

② 新しい法規制への対応

2019年4月、国内において「働き方改革関連法(略称)」が成立、施行されました。これによって長時間労働や連続出勤などの過剰な労働が制限され、個々人がワークライフバランスを考え直すこと、企業においては労働管理の強化が求められるようになってきています。これまで、OHSマネジメントは災害対策のための仕組みともとらえられがちでしたが、その管理対象は広がってきています。このことによってもISO45001への取り組みが加速しているといえるでしょう。

働き方改革関連法


(2) ISO認定認証制度

ISO45001は2018年3月12日に発行され、OHSAS18001からの移行期限が規格発行から3年後の2021年3月11日に設定されました。現在OHSAS18001を認証中の組織は、遅くとも2020年中には移行審査を完了しておく必要があります。

2. ISO45001の審査におけるポイント

ここからは、認証審査(新規認証審査および移行審査)におけるポイントを解説していきます。すべての箇条は網羅できませんが、組織からの問い合わせの多い条項を記載しますので、参考にしてみてください。

(1) 用語:働く人

組織の対象人員を特定する必要がありますが、その際にさまざまな立場の人々を考慮する必要があります。大原則は、組織で働くすべての人を対象とする必要があるということです。働く人は法令でいうところの労働者の概念だけではなく、経営者や管理職も含まれます。また、パートタイムや組織内で働く外注先も含まれることになります。ただし、外注先に関しては契約により、適用法令、責任範囲などが異なる場合があるので注意が必要です。

(2) 箇条5:リーダーシップに求められること

経営層への要求事項は他のISOマネジメント規格とほぼ同様ですが、注意すべき要求があり、トップが実証すべきことに下記の2点が含まれています。

J. OHSの意図した成果を支援する文化を組織内で醸成し、主導、推進する。
K. 働く人がインシデント、危険源、リスク及び機会の報告をするときに報復から守る。

審査では、「文化の醸成」について具体的な文書や手順を求めるのではなく、トップ自らが関与して率先垂範しているかという点がポイントとなります。朝礼などで必ず安全について話すということや、週間や月間で安全のイベントを実施する、トップや管理職が職場の安全パトロールを行うことなどが、その具体的活動内容となりえるでしょう。また、「報復から守る」の要求事項は少し分かりづらいですが、これまで認識していなかった危険源やリスクが報告されたときに、トップや管理者はそれを無視したり、放置することなく対処する必要があります。経営資源の投入が必要な事案については、優先順位をつけて対応することになりますが、労働安全衛生のリスク軽減のための進言・提案を行なった労働者に、不利益な対応をしてはならないということです。例えば、強制的な配置転換などが、これに該当するかもしれません。
審査では、トップインタビューで、労働安全衛生に対する思い、システムへの落とし込み、現在の状況と課題などを伺います。

(3) 箇条5:参加及び協議

リーダーシップの項でも「参加及び協議のプロセスを確立」することが要求されています。参加と協議は同義に捉えられがちですが、規格では明確に区別しており(下記の用語の定義を参照)、マネジメントシステムの構築に際しては働く人との協議を、現場における危険源の特定やリスク対応策などの具体策を講じる際には参加を求めています。審査では、それぞれのプロセスの設計や経営の意思決定の場面において、システムの中で区分けが意識され、実行されているかを確認していくことになります。

用語の定義働く人の参加及び協議


(4) 箇条6:リスク及び機会のとらえ方

ISO45001では危険源の特定からリスクを評価する過程において、リスクの種別がOHSリスク(機会)とその他のリスク(機会)に区分されました。これはインシデントや事故につながる可能性のある現場の機器や作業プロセスの状況から発生する可能性のあるリスクと、箇条4の組織の課題や利害関係者(働く人)のニーズ・期待から発生する可能性のある経営リスクを明確にするためです。外国人労働者の採用などは、後者のリスクが考えられます。そういったリスク対応は、教育訓練や表示言語の対応などの対策へとつながっていくでしょう。機会については安全な職場を提供するという観点から、施設や設備の改善、代替物質の採用や作業プロセスの改善などが考えられます。また、規格ではリスクアセスメント(発生確率と結果の組み合わせを定量評価する手法など)までは求めていません。組織がそのリスクの特性・歴史・文化などに鑑みて、適切と考える手法で評価することになります。
審査ではその手法が漏れなく、再現可能で優先順位が組織の意図と合致しているかという点に着目します。

ISO45001:2018の構造(Plan)


(5) 箇条8:運用の計画におけるリスク対応策の考え方

リスク対応についてはOHSAS規格と考え方に変化はありません。リスクを除去することからスタートして、工学的対応(リスクの低減)を検討していきます。保護具の着用などの個人防御は最終手段です。審査現場ではこの思考プロセスを踏まずに個人防御が対策となっているケースが見受けられます。下の図にあるように、階段状に考えを進めたかどうかを確認してみるとよいでしょう。

運用の計画及び管理


(6) メンタルヘルスケアについて

メンタルヘルスが社会問題化しています。しかしながら、心の病は単純な処方箋が存在するわけではなく、さまざまなケースに個別に対応していく必要があります。厚生労働省では10年以上前にメンタルヘルスケアのガイドラインを発行し、事業者にその適用を促しています。下の図にあるように、その手法はISO45001の構造と酷似しており、システムを運用する組織が適用しやすいように策定されています。メンタルヘルスへの取り組みは、ストレスチェックの法制化にみられるように、今後も対策が強化されていくことは必至です。最近ではセクハラ・パワハラに対する組織側へのガイドラインやLGBTへの対応が注目されていますので、これらも含んで考えることが必要です。未着手の組織は、この機会に取り組みをスタートすることが推奨されます。

OHSMSの活用とメンタルヘルス


(7) 審査対応について

OHSAS18001審査との相違点ですが、国際的に合意されているルールや認定機関の指針により、通常の昼間の操業だけでなく24時間操業などのサイト審査においては、シフト(夜間や早朝)の審査を実施することが求められていますので注意が必要です。また、従来の審査対応は事務局や部門の代表などが中心でしたが、今後はこれらに加え、労働者の代表(労働組合の代表など)や産業医(任命が義務付けられている場合)へのインタビューも必要となります。

3. JISQ45100について

ISO45001の国際規格化の議論の中で、日本発で国内独自の取り組みである「ヒヤリハット」や「KY(危険予知)活動」、「安全パトロール」などの具体的な手法を盛り込むことが提案されました。最終的には、ISO規格への追加は承認されませんでしたが、国内でJIS化されました。この規格の目的は、ISO45001と併用してその取り組みを充実させることによりシステム全体のレベルを上げていくことですが、国内における認証制度が準備中のため、実際に審査基準として採用されることはもう少し先になりそうです。

労働安全衛生は人の命に関わる問題であり、形だけの仕組みでは機能しません。トップの率先垂範と働く人全 員がこの仕組みを理解し、運用し、改善していくことが要諦であることに間違いありません。ISO45001が、組織運営の強力なツールとして活用されることを願ってやみません。

システム認証事業本部  水城 学

 


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