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計測器の校正 あれこれ

2020-02-25

主任審査員 伊藤 康雄

はじめに

ISO9001で、測定器の校正に関する要求事項は、1987年版以降、連綿と受け継がれてきています。筆者は、測定器の校正について審査を行うことも多いのですが、意外と不適合の指摘が多いように思えます。今回は、測定器の校正について考察します。

1. 不適切な校正の事例など

1) 校正の期限を超過しても実施されていない

校正に関連する不適合で一番多いのがこれです。測定器の校正は“使用前または、定められた間隔”で行うこととなっており、各組織は校正の実施期限を定めるわけですが、これを超過しても校正が実施されていない事例です。対策として、PCのソフトを利用して、校正期限が近づくとアラームが表示される、というような工夫をしている組織も見られます。また、毎月校正対象となる測定器をリストアップして、見逃しを防いでいる例もあります。
いずれにせよ、個人の裁量に頼るのではなく、「期限を超過しない仕組み」と、万一超過した場合に「超過したことがわかる仕組み」の両面で対策を考えるのが良いと思います。

2) 校正の周期が定められていない

校正期限の超過ではなく、周期そのものが定められていないケースもしばしば見られます。多くの場合、測定器には「管理台帳」が作成されており、その中に校正の周期が書かれているのですが、欄そのものがないケースが見られます。どこかに“周期1年”などと書いておかないと、定期的に実施しているだけでは“定められた間隔”とは言えないでしょう。

3) 社内校正に使用した基準器が特定されていない

校正に使用した基準器が明確に示されていない例もよく見られます。例えば、ノギスの校正用に複数のブロックゲージがあるような場合、どのブロックゲージを使ったのかを明確にしないとトレーサビリティが成り立ちません。また、特定の基準器が校正外れになったような場合、どのノギスまで影響が出るのかわからなくなってしまうので、校正に使った基準器の名称だけでなく、シリアル番号等を明記しておき、特定する必要があります。
また、社内校正の手順書が重要です。手順書の検証および必要な力量、利用する機器(親機はもちろん利用するアクセサリ等)も視野に入れる必要があります。いわゆる校正プロセスの妥当性確認です。どこかで社外の校正機関につながるのでしょうから、その校正機関の校正証書は言うに及ばず重要です。

4) 使い捨て測定器の留意点

組織によっては、校正の費用削減のために、校正をせず、ある期限が来たら新品に交換する
という例があり、こういった場合比較的安価な測定器が多いようです。これは一見正しいように思えますが、実はそうとも言えません。確かに、新しい測定器は精度が確認されたうえで販売されているので、使用することは問題ないと思います。しかし、それまで使用してきた測定器を、何の確認もしないで廃棄してしまうと、それまでの測定結果の妥当性がわからなくなってしまいます。もしかするとその測定器は、校正外れになっていたかもしれません。従って、新しい測定器を使用する前に、それまでの測定値の妥当性を確認することが必要になり、使い捨てにした意味がなくなってしまいます。

2. 校正の“有効期限”の表示

測定器の校正とは、基準器と照らし合わせて、その差異の程度から測定器の精度を確認することです。校正で確認されるのは、あくまで現在の測定器の状態です。そして、前回校正から今まで、その測定器を使った測定値は妥当であったかどうかということを確認するわけです。校正の周期が1年というのは、次の1年間の精度を保証するものではないのです。だからこそ、校正外れがあった場合はそれまでの測定値の妥当性を検証する必要があるのです。そういう観点から、測定器ラベルに「有効期限:〇年〇月」とあるのは、表現としては疑問です。「次回校正予定」あるいは「校正期限」というような表現が妥当だと思います。また、校正の周期欄に「1回/年」と書いてあると、“1年に1回はやります”なので、好ましい表現ではないと思います。

3. 校正周期の考え方

校正周期は、規格では、“定められた間隔”と書かれており、その期間は、それぞれの組織が定めればよいことです。測定器の種類やその使用条件、測定頻度等の要因で一律ではありません。一つの判断基準として、「校正外れが発生した際のリスクの大きさで決める」という考え方があります。校正の結果、校正外れがあると厄介です。過去の測定判定が覆り、最悪、リコールに繋がる恐れもないとは言えません。校正外れの起こる確率、校正外れが発生した際のリスク、必要となる処置の範囲、かかる費用等を考えて決めればよいでしょう。そうして、実際の運用状況から見直していけば、最適な校正周期が見出せると思います。

4. 測定器校正の効率化

測定器の校正には、当然コストがかかります。コストを低減するために、以下の例のような対策を検討されてはいかがでしょうか。参考になれば幸いです。

1) 校正対象を適切に見直す

規格が求めているのは、すべての測定器の校正ではありません。本当に必要な測定器に限定するのは、効率化の一つでしょう。また、外部校正に出す測定器(基準器)を最小限にすることも 有効な手段だと思います。(外部校正した測定器を社内で基準器として使うこと等も含めて)。これは組織が、その顧客に提供する製品およびサービスの保証特性に関連付けて考えれば整理が進むと思います。

2) 校正周期を見直す

前項で書いたように、校正周期を実績に基づいて見直しするのも有効だと思われます。

3) 校正のやり方を見直す

測定器によって校正のやり方はある程度決まっていますが、校正の仕方そのものを簡素化することも、検討の余地があるのではないでしょうか。

規格の要求事項には、校正の細かい実施要領までは書かれていません。各組織が、要求事項に従って、最適と思う方法で、実施すれば良いのだと思います。        


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