建設用3Dプリンターで造形した構造部材を用いた建築物
令和8年6月15日、「積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート造の建築物又は建築物の構造部分の構造方法に関する安全上必要な技術的基準等を定める件(令和8年国土交通省告示第693号)」が公布・施行されました。
本告示は、建設用3Dプリンターで造形した構造部材を用いる建築物に関する技術的基準を定めたものです。
同日、告示の運用に関する詳細を示す技術的助言として、国土交通省住宅局建築指導課長通知「積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート造の建築物又は建築物の構造部分の構造方法に関する安全上必要な技術的基準等を定める告示の制定について(技術的助言)(令和8年国住指第150号)」が発出されました。
国土交通省国土技術政策総合研究所のウェブページでは、告示および技術的助言の内容や運用方法を解説した「積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート造告示に対する解説(案)」が公開されています。
本記事では、これらの告示、技術的基準、および解説(案)の概要についてご紹介します。
1.積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート(RC)造とは
本構造は、以下の手順により耐力壁を構成するものです。
- 建設用3Dプリンターでモルタル製の型枠を造形する
- 型枠内部に鉄筋を配置する
- コンクリートを打設する
- 型枠とコンクリートを一体化する
耐力壁には必ずこの構造を用いる必要があります。一方で、基礎ばり、床版、屋根版および壁ばりについては、従来の鉄筋コンクリート(RC)造とすることも可能です。
本構造の特徴は、3Dプリンターで造形した型枠を施工時の仮設材として使用するだけでなく、完成後も構造体の一部として活用する点にあります。そのため、積層造形型枠と内部コンクリートが一体となって耐力を発揮できることを確認する必要があります。
具体的には、次の2点を確認しなければなりません。
- 終局強度の確認:
積層造形型枠一体型耐力壁の終局強度が、同一寸法の通常のRC造耐力壁と比較して同等以上であること - 剥離・脱落防止の確認:
終局強度に達する前に、積層造形型枠が内部コンクリートから剥離または脱落しないこと
これらの確認は、実大試験体または代表試験体による構造実験を基本とし、最も厳しい条件を想定した試験体を用いて実施します。また、原則として第三者による評価が求められています。
2.告示制定の背景
近年、建設用3Dプリンターを活用した建築技術の開発が進展しています。
従来、3Dプリンターで造形した構造部材を建築物の構造耐力上主要な部分に使用する場合は、建築基準法第20条に基づく国土交通大臣認定を取得する必要がありました。
今回の告示の施行により、一定の条件を満たす小規模建築物については、大臣認定を取得しなくても建築できるようになりました。対象となるのは、3Dプリンターで造形したモルタル製型枠の内部に鉄筋を配置し、コンクリートを充填して一体化した耐力壁を用いる構造です。
本告示は、このような構造に関する技術的基準を定めることで、建設用3Dプリンターを活用した建築物の普及促進を目的としています。
3.適用範囲
本告示を適用できる建築物は、次の条件をすべて満たすものに限定されています。
- 階数:1階建て
- 延べ面積:200㎡以下
- 階高:3.5m以下
4.構造・材料に関する技術基準
本告示では、積層造形型枠一体型壁式RC造の安全性を確保するため、使用材料の品質、構造各部の仕様、ならびにプレキャスト部材を用いる場合の要件について技術基準が定められています。主な内容を以下に示します。
4-1.使用材料の基準
■モルタル
積層造形型枠に使用するモルタルは、次の要件を満たす必要があります。
- 凝結および硬化を妨げる有害物質(酸、塩類、有機物、泥土など)を含まないこと
- アルカリシリカ反応や凍害などによる欠損のおそれがなく、耐久性上の問題がないこと
■強度
モルタルの設計基準強度は、内部に充填するコンクリートの設計基準強度以上とする必要があります。また、構造耐力上主要な部分に使用する場合は、設計基準強度を18N/mm²以上としなければなりません。
さらに、実際に造形した型枠、または同一条件で造形した供試体からコアを採取し、造形後91日以内に圧縮強度試験を実施することが求められています。
4-2.構造規定
耐力壁を構成する各部位については、次のような構造規定が定められています。
| 部位 | 規定 |
| 基礎ばり | ・RC造部分厚さ12cm以上 ・一体構造とすること |
| 床版・屋根版 | ・RC造部分厚さ8cm以上 ・短辺有効スパンの1/40以上 |
| 耐力壁※ | ・RC造部分厚さ12cm以上 ・壁量12cm/㎡以上 ・鉄筋比0.15%以上 ・偏りなく配置すること |
| 壁ばり | ・せい45cm以上 ・複筋ばりとすること ・主筋径12mm以上 ・あばら筋比0.15%以上 |
※耐力壁の厚さやコンクリート強度が一定以上の場合は、所定の条件のもとで必要壁量を低減できます
4-3. プレキャスト部材の利用
本告示では、積層造形型枠一体型プレキャストRC造部材の使用も認められています。
その場合、接合部は部材間で応力を確実に伝達できる構造とする必要があります。また、耐力壁の鉛直接合部については、ウェットジョイント工法を採用しなければなりません。
さらに、コッター筋の径は9mm以上とすることが求められています。なお、プレキャスト部材を使用する場合は、現場打ちの場合に比べて一部の基準が強化されています。
5.その他の留意事項
本告示の適用に当たり、以下の点にも留意する必要があります。
- 積層造形型枠に使用するモルタルは、建築基準法第37条に規定する指定建築材料に該当しないこと
- 積層造形型枠一体型鉄筋コンクリートを用いた構造は、柱等には使用できないこと
- 本構造は、建築基準法施行令第80条の2第1号に基づく特殊な構造方法として位置付けられるため、施行令第3章第6節の規定が適用されること
- 施行令第79条に基づく鉄筋のかぶり厚さは、積層造形型枠の空洞部に充填するコンクリートにより確保すること(積層造形型枠を構成するモルタルの厚さはかぶり厚さに算入できない)
- 積層造形型枠を非構造部材として扱う場合は、積層造形型枠とコンクリートの一体化を確認する必要はないが、積層造形型枠部分については建築基準法第39条に基づく内外装材の脱落防止措置等が求められること
- 本告示で定める技術的基準は確認の特例の対象外であり、小規模建築物であっても建築確認申請時に関係図書を省略できないこと
6.まとめ
本告示は、建設用3Dプリンターを活用した建築物について、一定の条件を満たす小規模建築物を対象に技術基準を定めた初めての仕様規定です。適用対象は1階建てかつ延べ面積200㎡以下に限定されるものの、3Dプリンターで造形した型枠を構造部材として活用できる枠組みを示した点で大きな意義があります。
本告示では、積層造形型枠と内部コンクリートの一体化性能をはじめ、使用材料や構造方法などについて具体的な基準が定められており、建設用3Dプリンターを活用した建築物の設計・施工における一定のルールが明確化されました。
今後、設計・施工実績や技術的知見の蓄積が進むことで、適用対象の拡大やさらなる技術開発が進み、建設用3Dプリンター技術の一層の普及が期待されます。
参考:国土交通省国土技術政策総合研究所「積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート造告示に対する解説(案)」
建築認証事業本部 丹波 利一
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