ビルの老朽化~劣化・損傷の具体例、対処法を紹介~
ビルの外壁や配管設備、手すりなどは経年劣化します。ビルが老朽化すると、不具合が発生しやすくなり維持費がかさむ、空室率が上昇するといった問題につながります。ビルの寿命をできる限り延ばすには、定期的な点検・メンテナンスが欠かせません。
本記事では、ビルの老朽化が始まる年数や、劣化・損傷の具体例、老朽化したビルがもたらす問題、老朽化への対処法を解説します。
ビルの老朽化はいつから始まるのか
ビルの老朽化は、鉄筋を覆うコンクリートが中性化して劣化し、強度を失うことで徐々に進行するのが一般的です。
劣化の進度は、建物の構造や材質、立地条件などにより異なります。さらに、適切なメンテナンスを実施すれば建物の寿命を延ばすことができるため、一概に「何年以上経つと老朽化が始まる」といったことは言えません。
一方で、建物には税法上の耐用年数(法定耐用年数)が設定されていますが、あくまで減価償却費の計算のために定められたものであり、建物の寿命を示す数値ではありません。しかし、建物の老朽化の程度を考える際の参考になります。
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の建物の耐用年数
分類 | 耐用年数 |
---|---|
事務所用 | 50年 |
住宅用 | 47年 |
飲食店用 延べ面積のうちに占める木造内装部分の割合が30%を超えるもの | 34年 |
飲食店用 その他 | 41年 |
旅行用・ホテル用 延べ面積のうちに占める木造内装部分の割合が30%を超えるもの | 31年 |
旅行用・ホテル用 その他 | 39年 |
店舗用・病院用 | 39年 |
車庫用 | 38年 |
公衆浴場用 | 31年 |
工場用・倉庫用(一般用) | 38年 |
参考:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」をもとにビューローベリタスジャパンが編集
ビルの老朽化の具体例
ビルの老朽化による症状は、建物外部や屋上、避難施設などさまざまな場所に現れます。
◇建物外部の老朽化の事例
以下の写真は、タイル、石張り等(乾式工法によるものを除く)、モルタル等に発生した劣化・損傷の例です。
出典:一般社団法人 日本建築防災協会「特定建築物定期調査業務基準(2016年改訂版)」(抜粋)
外壁のタイルや石張りは、特殊な接着剤を用いた「乾式工法」が近年主流ですが、モルタルを用いた昔ながらの「湿式工法」もあります。後者は、耐久性や仕上がりが作業者の技術に左右されやすいのが特徴です。
また、コンクリートやモルタルが劣化すると、表面に白い物質が沈着する「エフロレッセンス」が生じることがあります。
◇屋上、屋根の老朽化の事例
手すりや塀などに仕上げ材として一番上に被せられる「笠木」には、建物を雨水から守る役割があります。丈夫な金属笠木でも、老朽化すると以下のような症状が見られるようになります。
出典:一般社団法人 日本建築防災協会「特定建築物定期調査業務基準(2016年改訂版)」(抜粋)
屋上やバルコニーには、雨水等がたまらないように排水溝(ドレーン)がありますが、以下のような劣化・損傷が生じることがあります。
出典:一般社団法人 日本建築防災協会「特定建築物定期調査業務基準(2016年改訂版)」(抜粋)
屋上などに設置された金属製の看板は長年風雨にさらされ、以下のようにさびが発生することがあります。
出典:一般社団法人 日本建築防災協会「特定建築物定期調査業務基準(2016年改訂版)」(抜粋)
◇避難施設等の老朽化の事例
金属製の手すりの脚部が腐食して笠木に悪影響をおよぼしていたり、高所に設置されている手すり格子が破損して、危険な状態になっていたりすることがあります。
出典:一般社団法人 日本建築防災協会「特定建築物定期調査業務基準(2016年改訂版)」(抜粋)
ビルの老朽化がもたらす問題
◇耐震性能の低下
ビルの老朽化がもたらす大きな懸念の一つが、耐震性能の低下です。建物の耐震性を高めることはオーナーの重要な責務となっています。耐震性が低下すれば、地震で建物が倒壊するなどして、人命や財産が脅かされるリスクがあります。
国は建物の耐震性を高めることを目的に、建築基準法で耐震基準を定めています。
1981年5月31日まで適用されていた旧耐震基準では、「震度5強程度の揺れでも倒壊しないこと」となっていましたが、1981年6月1日から現在まで適用されている新耐震基準では、「震度6強~7程度の地震でも倒壊しないこと」が求められています。
つまり、旧耐震基準で建築された建物は、耐震性が不十分なケースがあります。耐震性能の劣る建物は、老朽化でさらに性能が低下している可能性があるため、地震発生のリスクを考慮し、早めに耐震性を高めることが大切です。
出典:国土交通省「参考資料集」
◇突発的な修繕費用の発生
ビルが古くなると、建物や設備に不具合が発生しやすくなります。定期的にメンテナンスを行ない、不具合を最小限にとどめることで、想定外の修繕費用が生じる事態を避けられます。
◇空室率の上昇
居住用のビルや、テナントが入っているビルでは、老朽化とともに空室率が上昇しやすい点も大きな問題です。
ビルが耐久性や機能性、優れた外観を維持しているかは、入居を決めるポイントの一つになります。適切なメンテナンスが行なわれず、機能性や資産的価値が下がると、借り手や買い手は減ってしまうでしょう。
賃料収入が得られなければ、修繕費用の捻出が困難になり老朽化がさらに加速する、といった悪循環に陥る可能性もあります。
老朽化したビルへの対処法
すでに老朽化しているビルへの対処について、主な3つの選択肢を解説します。
◇建て替える
古くなったビルを建て替えれば、耐震性能や予想外の修繕費、空室率などの問題は解決できます。
しかし、建て替えには膨大な費用がかかるうえ、入居者がいたり、テナントが入っていたりすると、立ち退き交渉が必要になります。交渉がうまくいかない場合、工期に影響する、想定以上の立ち退き料が発生するといった問題が生じることがあります。
建て替えにかかる費用と建て替えによって得られる収益を十分に検討したうえで、決定することが大切です。
◇売却する
ビルを売却できれば、建て替えにかかる費用や修繕などの手間をかける必要がなくなるうえに、まとまった売却益を得られる可能性もあります。
しかし、老朽化したビルの買い手を見つけるのは簡単ではありません。立地条件などが優れていない限り、売りたくても売れないといった状況に陥ります。したがって、将来的にビルの売却を検討している場合には、資産価値が落ちる前に売り切ることが重要です。
◇適切にメンテナンスし、長く活用する
ビルを適切にメンテナンスし、可能な限り経年劣化を防ぎ長く活用することも選択肢の一つです。建物を良い状態で維持できれば、建て替えに比べてコストをかけずに済み、賃料収入なども継続して得られます。内装や設備を新しいものに換えるのも効果的でしょう。
ビルを長く活用するには、定期的な「建物劣化診断」が欠かせません。建物劣化診断は、優先的に補修すべき箇所を判断し、適切に修繕して建物の長寿命化を図るための調査です。不要・過剰な工事を避けることができ、結果的にコストの削減につながります。
まとめ
ビルの老朽化は、オーナーにとって大きな問題です。ビルの老朽化を防ぐには定期的なメンテナンスが欠かせませんが、時期や箇所を誤ると、思ったような効果を得られない可能性があります。
まずは建物劣化診断を依頼し、必要な箇所を適切にメンテナンスできるようにしましょう。
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