建築基準法の一部改正について
2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向け、我が国のエネルギー消費量の約3割を占める「建築物分野」の迅速な省エネ対策が必要とされています。今回の記事では「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年6月17日公布)および「建築基準法施行令の一部を改正する政令」(令和5年2月10日公布)の中から令和4年6月17日以降1年以内に施行されるものを紹介いたします。
「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年6月17日公布)に関する改正点
1.容積率の算定の基礎となる延べ面積に床面積を算入しない機械室等に設置される給湯設備その他の建築設備の規定
<現状・改正主旨>
令和4年6月に脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)が成立したところ、省エネ改修や再エネ設備の導入に支障となる建築基準法(昭和25年法律第201号)の容積率制限等の合理化等に関する改正部分が令和5年4月1日から施行される。
<改正概要>
建築基準法施行規則(昭和25年建設省令第40号。以下「施行規則」という。)の一部を改正し、改正後の施行規則第10条の4の4の規定において、容積率の算定の基礎となる延べ面積に床面積を算入しない機械室等に設置される給湯設備その他の建築設備については、建築物のエネルギー消費性能の向上に資するものとして、国土交通大臣が定める以下の給湯設備とする。
(1)電気ヒートポンプ給湯機
(2)潜熱回収型給湯機
(3)ハイブリッド給湯機
(4)燃料電池設備
(5)コージェネレーション設備
2.屋根の断熱改修や屋上への省エネ設備の設置等の省エネ改修等を円滑化
<現状・改正主旨>
第一種低層住居専用地域等※や高度地区においては、原則として、都市計画による定められた高さの制限を超えてはならない。
<改正概要>
第一種低層住居専用地域等※や高度地区における高さ制限について、屋外に面する部分の工事により高さ制限を超えることが構造上やむを得ない建築物(図1)に対する特例許可制度を創設
※第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域
3.建築物の構造上やむを得ない場合における建蔽率・容積率に係る特例許可の拡充(建築基準法第52条、第53条)
<現状・改正主旨>
都市計画区域内においては、原則として都市計画により定められた容積率や建蔽率の制限を超えてはならない(制限の除外は限定される)が、外壁の断熱改修や日射遮蔽のための庇の設置を行う場合、建築物の床面積や建築面積が増加することにより、容積率や建蔽率の制限に抵触し、改修が困難となる場合がある。
<改正概要>
屋外に面する部分の工事により容積率や建蔽率制限を超えることが構造上やむを得ない建築物(図2)に対する特例許可制度を創設。外壁の断熱改修や日射遮蔽のための庇の設置等の省エネ改修等を円滑化。
4.建築基準法第52条】住宅等の機械室等の容積率不算入に係る認定制度の創設
<現状・改正主旨>
機械室等に対する容積率の特例は、建築審査会の同意を得て、特定行政庁が許可。
この制度は共同住宅等において高効率給湯設備等を設置する場合の活用実績が多いが、建築審査会の同意に一定の期間を要しており、手続きの円滑化が求められている。
<改正概要>
省令に定める基準に適合していれば、建築審査会の同意なく特定行政庁が認定。
住宅および老人ホーム等に設ける給湯設備の機械室等について容積率緩和の手続きを合理化。
5.住宅の採光規定の見直し(建築基準法第28条第1項)
<現状・改正主旨>
・窓等の開口部で採光に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、住宅にあっては1/7以上、その他の学校等の建築物にあっては1/5~1/10において政令で定める割合以上にしなければならない。
・コロナ禍における業務形態の変化等により、採光規定が適用されない用途(事務所、ホテル等)から住宅に用途変更する既存ストックの活用ニーズがある一方、必要な採光面積を確保するための工事が負担となり、断念するケースが発生。
・熱損失が生じやすい開口部について、住宅の採光規定の見直しによって、省エネ手法のバリエーションが広がり、2050年カーボンニュートラル実現に向けた省エネ対策を一層推進。
<改正概要>
住宅の居室に必要な採光に有効な開口部面積の合理化。原則住宅の居室の床面積1/7以上(政令措置予定)としつつ、一定条件の下で、1/10以上まで必要な開口部の大きさを緩和することが可能に。
出典:国土交通省住宅局「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について」
<確認申請時の注意点>
・住宅の居住のための居室にあっては、床面においては50ルックス以上の照度を確保することができるように照明設備を設置すること。
・50ルックスの根拠は、有識者の意見も踏まえつつ、JISZ9110を元に、採光規定を緩和する場合に求められる所要の明るさとして、50ルックス以上の照度を確保すること。
・平面図や電気設備の詳細図等に照明設備の設置位置、50ルックス以上の照明設備を設置する旨を明示すること。
完了検査の方法は、完了検査時には、所要の照明設備の設置が可能であることを確認するため、照明設備を設置するためのシーリングローゼット等が、確認申請図書と同様の位置に設置されていることを目視等により確認する。
上記1~5の改正は、令和4年6月17日に公布以降1年以内に施行される予定です。
「建築基準法施行令の一部を改正する政令」(令和5年2月10日公布)に関する改正点
1.物流倉庫等に設ける庇に係る建蔽率規制の合理化
物流倉庫等において、積卸し等が行われる庇の部分について、建蔽率規制の合理化を図り、物流効率化に資する大規模な庇の設置を容易にする。
工場または倉庫の用途に供する建築物において、専ら貨物の積卸しその他これに類する業務のために設ける軒等でその端と敷地境界線との間の敷地の部分に有効な空地が確保されていることその他の理由により安全上、防火上および衛生上支障がないものとして国土交通大臣が定める軒等(以下この号において「特例軒等」という。
建築物の建蔽率の算定の基礎となる建築面積を算定する場合に限り、特例軒等のうち当該中心線から水平距離5m以上突き出たものにあっては、その端から水平距離5m以内で当該特例軒等の構造に応じて国土交通大臣が定める敷地境界線との間に空地を確保するなど一定の要件を満たす倉庫等の庇について、端から5mまでは建築面積に算入しないこととなる。
※一定の条件を満たす庇に限る
出典:令和5年2月7日プレスリリース国土交通省住宅局「建築基準法施行令の一部を改正する政令案」
2.耐火性能に関する技術的基準の合理化
木材利用促進に資する観点から、階数に応じて要求される耐火性能基準(火災時の倒壊防止のために壁、柱等が耐えるべき時間)について、60分刻みから30分刻みへ精緻化することとする。
・階数5以上9以下の建築物の最下階について90分耐火性能で設計可能とする。
・階数15以上19以下の建築物の最下階について150分耐火性能で設計可能とする。
3.無窓居室に係る避難規制の合理化
既存ビルの間仕切り改修によるシェアオフィス等の設置に資する観点から、無窓居室であっても、避難経路となる廊下等の不燃化等の安全確保のための一定の措置が講じられるものについては、主要構造部(壁、柱等)を耐火構造等とすることを不要化するとともに、地上等に通ずる直通階段までの距離を延長(窓等を有する居室と同等化)することとする。
出典:令和5年2月7日プレスリリース国土交通省住宅局「建築基準法施行令の一部を改正する政令案」
上記1~3の改正は、令和5年2月10日に公布し、令和5年4月1日に施行される予定です。
出典:
国土交通省住宅局「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について」
令和5年2月7日プレスリリース国土交通省住宅局「建築基準法施行令の一部を改正する政令案」
建築認証事業本部 本多 徹