サプライヤーに対する社会的責任監査の実施について
この数年の間に、日本国内でもサプライチェーンマネジメント、社会的責任監査、倫理監査という言葉が多く聞かれるようになってきました。
なかでも社会的責任監査は、欧米の一流ブランド企業の主な生産拠点である、東南アジアの途上国における児童労働や、劣悪な労働環境下での就労が問題視されてスタートしたものですが、今では、日本国内のサプライヤーに対しても、社会的責任監査を取引要件とする欧米の企業が増えてきています。企業は、「サプライチェーン全体で、法令順守、倫理的観点からも「正しいビジネスをしていること」をステークホルダーから強く求められています。いまや「日本は先進国だから大丈夫」というだけでは根拠として通用しなくなってきました。実際、日本で監査を実施した製造現場では、「労務管理」や「労働安全」に関する課題が多く指摘されています。
最近、欧米だけではなく日本国内の企業からも、サプライチェーンマネジメントについてご相談をいただく機会が増えてきています。その多くの方は、「どこから始めたらよいかわからない」、「監査対象をどう決めたらいいのかわからない」、「今までの取引先との関係が壊れないか心配だ」といった悩みを抱えていらっしゃいます。
サプライチェーンマネジメントへの課題
サプライチェーンマネジメントが難しいとされる背景には、以下のようなことが挙げられます。
- 品質・生産管理がより重要視・優先され、社会的責任に関する確認はどちらかというと後回しにされている印象がある。
- サプライチェーンが何層にも存在しており、直接契約をしている取引先より先のサプライヤーが不透明で、マネジメント状況が見えづらい。
- サプライヤーが国内、国外に点在している。
- サプライヤーの所在国・地域特有の社会問題・背景があり、一企業では対処が難しい。
- 国外のサプライヤーを実際に訪問し、頻繁に確認することが困難である
サプライヤーに対する社会的責任監査の活用例
サプライチェーンマネジメントの一環として、社会的責任監査を活用した例をご紹介します。
- 社内システムの更新漏れによる給与の一部未払が見つかったことで、関連法令の更新情報を定期的にチェックし、給与計算に誤りがないことを確認する仕組みができた
- 避難経路の確保や非常灯の設置についての指摘があったことで、従業員自身の安全に対する意識が変わり、避難経路を妨げるような、段ボールや荷物の放置がなくなった
- 長時間労働が慢性化していることを指摘されたことで、管理者が従業員とともに、残業時間削減のために何ができるかを考え、改善するきっかけとなった
- 管理者が監査を実施する主旨をきちんと説明したことで、従業員が自身の職場環境を向上するためだと理解し、自ら動く仕組みづくりのきっかけとなった
- 騒音防止の耳栓の装着や、正しい化学薬品の取り扱いを指摘されたことで、従業員の健康と安全を守る仕 組みづくりのきっかけとなったる
- 消防設備の不備が見つかり、重大な事故が起きる前に防ぐことができ、定期的に点検する仕組みができた
サプライチェーンマネジメントを始めるにあたって
サプライチェーンマネジメントを始めるには、まずは以下のような手段が有効とされます。
- 自社のサプライチェーンマネジメントの目的、目標を明確にする
- 自社のサプライチェーン全体を知る
- 各サプライヤーの現状を知る(アンケート等のツールの活用、現地訪問)
- マネジメントプログラムの検討をはじめる
企業の規模が大きくなればなるほど、「サプライヤー全体の把握」が難しくなりますが、まずは自社工場や直営 工場、直接のお取引先(一次サプライヤー)など対象を小規模に絞ってスタートすることをお勧めします。
サプライヤーごとの現状を知る方法として、一般的に使われている手法は、「アンケート調査」です。アンケートは、 労働時間や賃金の管理方法、労働安全に対する取り組み、関連法令の理解度、環境に対する配慮状況等に関 する100~150 程度の項目を、具体的な質問形式で回答してもらうものがよいでしょう。さらに質問内容は、企業 の業務内容や工場の製造製品、ラインの特徴等に合わせて工夫することで有効性が高まります。
ここで留意しなければならない点があります。これらアンケートはあくまでもサプライヤー自身が回答したもので あり、必ずしも現状を正しく表したものとは限らないと認識しておく点です。実際に、ある監査プログラムで実施し た調査では、サプライヤーが回答したアンケートと現状との乖離は約50%でみられる、という結果が出ています。 サプライチェーンマネジメントの観点からも、信頼関係を築くうえで、実際にサプライヤーを訪問し、アンケートの 結果と実情に違いがないかどうか確認することや、サプライヤーとのコミュニケーションを定期的に持つことが、 重要になると考えます。
サプライヤーサイトの数が多く、すべてを訪問することが難しい場合でも、アンケートの結果や、サプライヤーの 規模、製造している製品、製造ラインの特性等を考慮して、優先順位を決めたり、一定の条件で対象サプライヤ ーを絞り込んだりすることで、順番に、計画的に訪問されてはいかがでしょうか。
このアンケート結果に基づいて、企業は各サプライヤーの「課題」がどこにあるかをある程度、把握することが可 能になります。 また個々のサプライヤーの課題だけでなく、全体の結果を入手、分析することで、サプライチェ ーン全体の課題が見えてくるかもしれません。
そして「企業がサプライヤーに求める基準」を決める際の参考資料として大いに活用することができます。
第三者による監査
現状の把握がある程度できた段階で、次のステップは第三者の目を入れることです。サプライヤー自身も、取引 先である企業も、労務管理や労働安全への対応について「法令順守し、きちんとできている」としていても、第三 者が確認すると、十分順守しているとは判断しがたい項目が見受けられる場合があります。ただし、監査会社に よる第三者の判断は、合格、不合格を決める試験ではありません。監査を実施した時点の現状を「診断」するも のです。診断から、結果をみて、まずはどんな課題があるかを知ることができます。 さらに、その課題について 本当の原因が何かを考え、どのように改善していくか、いつまでに改善するかを検討し、計画し、実行することの 「きっかけ」であり、より良い職場環境へのスタートとなるものです。
診断結果は「職場環境や安全面の改善」に向けて協力して取り組むために、企業とサプライヤーが共有すること が理想です。課題が多く見つかったサプライヤーの評価を下げることを目的とするのではなく、サプライヤーが抱 えている問題に気づき、職場環境の改善に協力することが目的であることを企業側が真摯に説明することが大 切です。サプライヤーとの今までの信頼関係を維持しながら、サプライチェーンマネジメントの一環として「監査」 実施の理解を得ることが重要です。
ビューローベリタスのご提案
ビューローベリタスは、第三者機関として、お客様のサプライチェーンの質を高める取り組みをサポートしていま す。社会的責任監査サービスには、サプライヤーへのアンケート調査を含め、既存のプログラムが複数ございま す。国内だけでなく、海外のサプライヤーに対する監査の手配や、お客様独自の監査プログラムの策定、提案、 監査の実施まで、弊社日本事務所のスタッフが日本語で対応させていただきます。独自のプログラムを策定す る場合も、監査項目を絞った簡易版から、細かな項目までをしっかり確認するプログラムまで、お客様のニーズ に合わせて対応が可能です。
消費財検査部門 山内 史子
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