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建築図面

建築物省エネ法の改正内容について

2019-08-09

2015年のパリ協定により、2030年度のエネルギー消費量を2013年度と比較して約2割削減することが求められており、建築物省エネ法により

    大規模建築物(「大規模」:延床面積2,000㎡以上)(住宅以外)を対象とした省エネ基準への適合義務制度
    大規模住宅、中規模住宅(「中規模」:延床面積300㎡以上2,000㎡未満)、中規模建築物(住宅以外)を対象とした届出制度
    建売住宅を年間150戸以上供給する住宅事業建築主を対象とした住宅トップランナー制度
    高い省エネ性能を有する住宅・建築物に対する容積率特例に係わる認定制度(誘導基準に適合している旨の所管行政庁による認定を受けた住宅・建築物について、省エネ性能向上のための設備の設置スペースに関し、住宅・建築物の延床面積の10%を上限として、容積率に算入しない制度)
    省エネ性能の表示制度(BELS)

の措置が講じられています。

この建築物省エネ法の改正が2019年5月17日に交付され、以下6項目が施行される予定です。

建築物省エネ法改正の概要(公布日:2019年5月17日)

【法公布後、6ヶ月以内施行(2019年11月予定)】

1.大手住宅事業者の供給する戸建住宅等へのトップランナー制度の全面展開(従来の建売住宅以外に、注文戸建て住宅や賃貸アパートも対象に追加)

2.省エネ性能向上計画の認定(容積率特例)の対象に、複数の建築物の連携による取り組みを追加

3.マンション等に係わる届出制度の審査手続きの合理化(届出に関する民間審査機関の活用)

【法公布後、2年以内施行(2021年4月予定)】

4.省エネ適判対象となる建物の面積基準を2,000㎡以上から300㎡以上に引き下げ(住宅以外の建築物を対象とし、延床面積300㎡以上の大規模・中規模住宅については従来どおり届出対象)

5.戸建住宅等に係わる省エネ性能に関する説明の義務付け(設計者(建築士)から建築主への説明の義務化により省エネ基準への適合を推進)

6.気候・風土の特性を踏まえて、地方公共団体が独自に省エネ基準を強化できる仕組みを導入

建築物省エネ法における現行制度と改正法との比較(規制措置)

出典:2019年7月2日 建築物エネルギー消費性能基準等ワーキンググループ・建築物エネルギー消費性能基準等小委員会 合同会議

配布資料 資料2_改正法の概要と施行に係るスケジュール P10

大規模建築物(住宅以外) :住宅用途以外で延床面積2,000㎡以上の建築物

中規模建築物(住宅以外) :住宅用途以外で延床面積が300㎡以上かつ2,000㎡未満の建築物

小規模建築物(住宅以外) :住宅用途以外で延床面積が300㎡未満の建築物

小規模住宅 :住宅用途で延床面積が300㎡未満の建築物

1. 大手住宅事業者の供給する戸建住宅等へのトップランナー制度の全面展開

住宅事業者のうち、注文戸建住宅や賃貸アパートの建築を大量に請け負う者は、大手の住宅事業建築主と同様に、断熱材・窓等の省エネ性能に影響を与える建材等に関する標準仕様の設定等を通じて、住宅の省エネ性能の決定に大きな役割を果たしています。また、住宅の建築を大量に請け負う住宅事業者の供給戸数は、新築住宅の中で大きな比重を占めることから、その取り組みは、新築住宅全体の省エネ性能の向上に大きく寄与するものとみられます。このため、注文戸建住宅や賃貸アパートの建築を大量に請け負う住宅事業者を、住宅トップランナー制度の対象に追加し、これらの事業者が供給する住宅の省エネ性能の実態等を踏まえた適切な水準の基準を設定するとともに、報告手続が煩雑とならないよう留意のうえ、その取り組みを促進することが適当とみられます。
具体的には、各分野における年間供給戸数の50%以上をトップランナー制度の対象とするため、注文戸建て住宅は年間300戸以上、賃貸アパートは年間1,000戸以上供給する事業者を対象とする予定です。

大手住宅事業者の供給する戸建住宅等へのトップランナー制度の全面展開

出典:2019年7月2日 建築物エネルギー消費性能基準等ワーキンググループ・建築物エネルギー消費性能基準等小委員会 合同会議
配布資料 資料4_省エネ基準等に係る検討の方向性(案) P5

2. 省エネ性能向上計画の認定(容積率特例)の対象に、複数の建築物の連携による取り組みを追加

高い省エネ性能を有する住宅・建築物に係る認定制度及び当該認定を受けた住宅・建築物に対する容積率特例制度については、単棟の住宅・建築物の省エネ性能向上の取り組みを対象として、当該住宅・建築物の省エネ性能向上のための設備の設置スペースについて容積率の特例を付与しています。

近年、情報通信技術の進化等を背景に、既存の住宅・建築物を含め複数の住宅・建築物で連携し、高効率熱源等を集約設置するとともに、エネルギーマネジメントシステム(需要側の負荷を予測し、エネルギー供給の最適化を実現するシステム)を導入し、相互に熱・電気を融通する先導的な取り組みが行われています。ただし、複数棟の住宅・建築物の連携による取り組みにおいて高効率熱源等が集約設置される住宅・建築物については、高効率熱源等が設置される棟以外は実際の高効率熱源によるエネルギーを計算に用いることが出来ず、普及促進の後押しとならない状況にあります。
高い省エネ性能を有する新築の住宅・建築物の供給を進めるためには、単棟の住宅・建築物の省エネ性能向上の取り組みに加えて、複数の住宅・建築物が連携し全体として更に高い省エネ性能を実現しようとする面的な取り組みを進めることも重要です。こうした状況に鑑み、複数の住宅・建築物の連携による省エネ性能向上の取り組みを高い省エネ性能を有する住宅・建築物に係る認定制度及び当該認定を受けた住宅・建築物に対する容積率特例制度の対象に追加することが決定されました。

省エネ性能向上計画の認定(容積率特例)の対象に、複数の建築物の連携による取り組みを追加

出典:2019年7月2日 建築物エネルギー消費性能基準等ワーキンググループ・建築物エネルギー消費性能基準等小委員会 合同会議
配布資料 資料4_省エネ基準等に係る検討の方向性(案) P18

3. マンション等に係わる届出制度の審査手続きの合理化(届出に関する民間審査機関の活用)

大規模住宅・中規模住宅は届出制度の対象ですが、省エネ基準への適合審査に係る業務負担が大きいなどの理由から、基準不適合物件への指示・命令や無届物件への督促を行えていない所管行政庁が相当程度存在しています(無届出物件への督促を行なっていない所管行政庁は約3割、省エネ基準不適合物件への指示を行なっていない所管行政庁は約8割存在)。このため適合審査における業務負担を減らし、得られた余力を基準不適合物件への対応の強化に繋げることが適当と考えられています。
具体的には、登録省エネ判定機関等の民間審査機関による評価を受けている場合には、省エネ基準への適合審査の手続きを簡素化することが検討されています。

また無届出物件への督促や、省エネ基準不適合物件への指示を行ううえでの課題として、約6割の所管行政庁が省エネ基準不適合物件のうち指示の対象とするものの具体的な考え方を定めることが困難であることを挙げています。このことを踏まえ、基準不適合物件等への対応に係るガイドラインを策定し、所管行政庁が地域の実情等に鑑み、的確に制度を運用できる環境整備を行う予定です。

4. 省エネ適判対象となる建物の面積基準を2,000㎡以上から300㎡以上に引き下げ

適合義務制度に関しては、エネルギー基本計画等において、「規制の必要性や程度、バランス等を十分に勘案しながら、2020年までに新築住宅・建築物について段階的に省エネルギー基準への適合を義務化する」こととされています。
省エネ基準への適合を促す方策のうち適合義務制度や届出制度については一律に規制を行うことから、省エネ基準への適合に大きな効果がありますが、その規制にあたっては社会的混乱を避けるため、

  • 省エネ基準への適合状況
  • エネルギー消費量
  • 関連事業者の設計・施工の実態(申請への習熟状況)
  • 省エネルギーに関する投資の費用対効果
  • 所管行政庁等の審査体制

を十分に勘案して検討する必要があります。

現在の省エネ基準適合義務対象となる大規模建築物(住宅以外)は、省エネ基準への適合率が高いこと、件数としては市場全体の0.6%程度であるがエネルギー消費割合は全体の36.3%を占めていること、新築件数が少なく所管行政庁等の対応能力(審査体制)があること、省エネ基準適合のための追加コストを光熱費の低減により回収すると仮定した場合の期間が約8年と比較的短期間であること等から、社会的混乱が少ないと考えられています。

今回の改正では中規模建築物(住宅以外)が、大規模建築物(住宅以外)に次いで省エネ基準適合率が高いこと、新築件数の全体に占める割合が2.8%と比較的少ないが全体のエネルギー消費量の占める割合は15.9%と比較的高いこと、基準適合のための追加コストの回収期間が約10年と比較的短期間であること等により、省エネ基準適合義務対象に追加されることとなります。
一方で、小規模建築物(住宅以外)や、住宅用途の省エネ基準適合率は6~7割程度にとどまっていること、件数が極めて多いこと、基準適合のための追加コストの回収期間が大規模建築物(住宅以外)・中規模建築物(住宅以外)より長期間となること、などにより市場の混乱を引き起こすことが懸念されます。またエネルギー消費量が住まい方や使い方に大きく依存すること、建築主に個人が多く含まれるため、個人の価値観を踏まえたデザインや快適性等に対するニーズに応えるために設計の自由度を確保する必要があること等により、画一的な規制については慎重に考える必要があり、省エネ適合義務は見送られています。

規模・用途別のエネルギー消費量と着工棟数との関係

出典:2019年7月2日 建築物エネルギー消費性能基準等ワーキンググループ・建築物エネルギー消費性能基準等小委員会 合同会議
配布資料 資料2_改正法の概要と施行に係るスケジュール P11

5. 省エネ適判対象となる建物の面積基準を2,000㎡以上から300㎡以上に引き下げ

小規模住宅は個人が建築主であることが多いことや、延床面積300㎡未満で届出対象外のため省エネ計算等が行われていないことなどにより、建築主に省エネ性能に関する情報が十分に提供されていません。そのため、建築主が新築される建築物の省エネ性能について十分に理解していない場合が多いと考えられます。 一方、建築主がそのまま居住者・利用者になることが多いとみなされるため、省エネ性能に対する情報が提供されれば建築主の行動変容につながる可能性が高いといえます((一社)住宅性能評価・表示協会によると、説明・提案を受ける機会があれば省エネ住宅を検討したと回答したもののうち実際に省エネ住宅を新築・購入していたと思われると回答した方は34.6%とのアンケート結果もあります)。

こうした状況を踏まえ、省エネ基準への適否等を設計段階から建築主に確実に提供することが建築主の行動変容につながり、省エネ基準への適合を促進する上で有効とみられます。よって、設計時において設計者である建築主に対して、建築主の意向を把握したうえで、建築主に省エネ基準への適否等の説明を義務付ける制度を創設することが決定しました。
当該制度の運用にあたり、設計終了時に建築士が省エネ基準への適否等を記載した書面を交付するなど、建築士による適切な説明を徹底するために必要な措置を講じるとともに、建築士が省エネ基準への適否等の説明を行う際に、あわせて省エネ性能を向上させるための措置を提案するよう建築士に対して促すことが重要です。

住宅等の省エネ基準への適合のための追加コストを、光熱費の低減により回収すると仮定した場合の期間が大規模・中規模建築物(住宅以外)と比較して長期間で、省エネ基準適合のための投資効率が低いと試算されますが、断熱化により室内環境の改善や、ヒートショックの防止および壁の表面結露・カビ発生による室内空気質の汚染防止等による居住者の健康維持や快適性の向上につながることについて理解を促すことが必要と考えられます。
また、真壁や欄間などを有する伝統的工法の住宅においては、例えば真壁は充填断熱が困難であることや、欄間はエアコンが設置できないこと、沖縄の伝統的住宅は大開口部による風通しを重視しているなど、現在の省エネ基準への適合が困難な場合があることを踏まえ、省エネ基準の合理化について検討する必要があります。これには気候風土適応住宅のような基準を戸建て住宅の規模にも適用する方法が検討されています(現状は延床面積300㎡以上の住宅にしか気候風土適応住宅を適用できません)。

今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について

出典:社会資本整備審議会第43回建築分科会 配布資料
資料1-3_「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について」(第二次報告)参考資料 P90

6. 気候・風土の特性を踏まえて、地方公共団体が独自に省エネ基準を強化できる仕組みを導入

地方の自然的社会的条件の特性により、省エネ性能基準のみでは省エネ性能を確保することが困難であると認める場合には、地方公共団体条例で省エネ性能基準に必要な事項を付加することができるようになります(例として平野部と山間部がある市町村において、寒冷である山間部の基準を強化するなどを想定)。なお、この基準は建築物省エネ法で定める基準より厳しくなる制度を想定しています。

建築認証事業本部 駒形 直彦

 


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