コネクテッド化の実用例-自動緊急通報システムeCallとERA GLONASS
自動車業界における大変革の第3の波、「コネクテッド化」が前回のテーマでしたが、今回はそのコネクテッド化の実用例である自動緊急通報システムについてご紹介します。
1. 自動緊急通報システムとは?
自動車事故発生時に最寄りの緊急通報センターへ自動で通報を行うのが自動緊急通報システムです。乗員が意識を喪失し救助を依頼できないような場合でも、緊急通報センターを介してその車の位置データや車両情報を警察や消防へ自動で送信することで、事故対応を迅速化することが可能となります。欧州連合(EU)の国々はこのシステムの導入により、毎年約 2,500人の命と重傷者数が約15%低減すると試算しています。
2.システムの導入と搭載の義務化
自動緊急通報システムは欧州連合(EU)では、eCall(イーコール)と呼ばれ、2018年4月1日以降、新型車(乗用車、商用車)への搭載が義務化されました。一方、ロシアではERA GLONASS(エラ・グロナス)と呼ばれる同様のシステムの搭載が2017年1月以降、全タイプの新型車を対象に義務づけられています。
一部の自動車メーカーは搭載が義務化される以前からeCallを導入し、自社の全車両に標準装備しているほか、自動通報ではないもののeCallに類似した自社独自のシステムを車載システムに内蔵し、サードパーティーのサービスとして有料で提供しているケースもあります。
3.システムの仕組み
自動緊急通報システムの仕組みはどうなっているのか、eCallを例に説明します。
車載センサーが重大事故を検知するとIVS(In Vehicle System)と呼ばれる車載システムが自動で携帯ネットワークを利用してEU共通の緊急通報番号112に電話をかけ、緊急通報センター(PSAP)へ車両番号・車種・乗員数などの車両情報、そしてGNSS(測位衛星)が取得した事故現場の位置情報から成るMSD(Minimum set of Data)を送信します。PSAPは通話内容とMSDの情報をもとに状況を判断し、救急センターや消防、警察に連絡、救援活動を要請します。事故を目撃した他の車両の乗員が手動で車内のボタンを押した場合も、同様の仕組みでeCallを通じて救助を依頼できます。
ERA GLONASSの原理はeCallと基本的には同じですが、位置情報の決め手となるGNSS(測位衛星)にeCallはEUの衛星である「Galileo(ガリレオ)」を使用しているのに対し、ERA GLONASSではロシアの衛星である「GLONASS(グロナス)」を使用しています。
4.システムに対する規制と認証
(1) eCallに対する規制と認証
eCallに関連する法規には欧州連合が制定したEU規制、国連が制定したUN規制の2つがあります。EU規制の中では2015/758、2017/79、2017/78がeCallの関連法規に該当し、うち2017/79の以下の要件への適合証明が必要となります。
- Annex 1:eCallシステム耐性チェック(重大事故を想定)
- Annex 2:車両での衝撃試験評価
- Annex 3:音声機器の耐破壊性
- Annex 4:第三者サービス(TPS)とeCallの共存
- Annex 5:自動トリガー(各種センサーによる)
- Annex 6:eCallシステムと各種位置情報サービス・機器との互換性
- Annex 7:車載システム(IVS)の自己診断
- Annex 8:プライバシーとデータ保護
一方国連が「交通安全のための行動の10年」の一環として制定したUN-R144は国連欧州経済委員会の加盟国に対する新しいeCall規制で、認証形式に応じて試験タイプを追加します。UN-R144のeCallに対する要件は以下のとおりです。
- 電磁両立性(UN-R10)
- 位置測定
- PLMN(公衆携帯電話網)へのアクセスの手段
- 情報と警告信号
- 電源の性能
- 機械的衝撃耐性
- 車両の衝撃(UN-R94、UN-R95)
- ハンズフリーオーディオの性能(ITU-T P.1140)
- 緊急電話システム制御
上記のような要件を満たしているかどうかの試験を認定を受けた認証機関で受け、合格したうえでKBA(ドイツ連邦運輸局)などの当局での認証発行を経て初めてeCall認証を取得することができます。
参考リンク:
→ EU Regulation 2017/78(英語)
→ UN Regulation No. 144 - Accident Emergency Call Systems (AECS)(英語)
(2) ERA-GLONASSに対する規制と認証
ERA-GLONASSの関連法規はユーラシア経済連合が制定した技術規則TR(Technical Regulation)のTR CU018/2011「車両の安全性について」であり、安全性においてはGOSTという規格の以下の要件を満たすことが必要です。
- GOST 33465-2015:交通事故時の緊急通報サービスへの通報機器・システムと緊急対応システムのインフラ間のデータ交換プロトコル
- GOST 33464-2015:測位衛星システム 交通事故緊急通報システム 車載機器・システム 一般事項
- GOST 33466-2015:緊急通報サービスへの通報機器・システムについての電磁両立性、耐候性および機械的抵抗の試験方法
- GOST 33467-2015:緊急通報サービスへの通報機器・システムの機能とデータ交換プロトコルの試験方法
- GOST 33470-2015:緊急通報サービスへの通報機器・システムのワイヤレスモジュールの試験方法
- GOST 33471-2015:緊急通報サービスへの通報機器・システムのナビゲーションモジュールの試験方法
- GOST 33468-2015:緊急通報サービスへの通報機器・システムの運転手席に設置されたラウドスピーカーの通信の品質の試験方法
- GOST 33469-2015:緊急通報サービスへの通報機器・システムの事故発生の判断に関する試験方法
- GOST 34003-2016:車両横転時の緊急通報サービスへの通報機器・システムの自動起動の試験方法
上記要件に適合しているかどうかの試験をeCall同様認定を受けた認証機関で実施し、適合が証明されると車両証明書OTTCが発行され、EAC認証を取得することができます。
5.今後の課題
システム搭載の義務化(法制化)に伴い、eCallの急速な普及がコネクテッドカーの市場拡大の起爆剤となることが期待される一方、課題も浮上しています。例としては、同じ原理を採用しているeCallとERA GLONASS間で仕様が異なることで相互利用ができなかったり、日本国内には一部導入が進められている「ヘルプネット」と呼ばれる緊急通報システムがあったりと、自動車や車載製品などに関わる企業には、様々な仕様のシステムへの対応が求められます。
また、緊急通報システムで使用される位置情報や車両番号などの情報はまさしく個人情報で、プライバシー保護の観点からも慎重に取り扱う必要があり、実際にEU規制でも前項で述べたとおりプライバシーとデータ保護が関連法規の要件のひとつとして定義されています。この点に関し、EUはeCallが事故直前の車両の位置や方向を特定するごく少量のデータに限定され、eCallのデータ通信が重大事故発生時のみ携帯ネットワークと接続するようになっており、乗員の動きを監視するためのものではないことを明言しています。
このような個人情報を扱うシステムだからこそ、ハッキングなどの攻撃に備えサイバーセキュリティへの徹底した対策が重要になってきます。このサイバーセキュリティについては機会を改めてご説明したいと思います。
6.ビューローベリタスの取り組み
- eCall
ビューローベリタスグループの7layersドイツは技術サービス(カテゴリAとB)で(EU)2017/79とUN-R144規制に対して技術サービスプロバイダとして、ドイツ連邦運輸局(KBA)から任命されています。これにより、eCallにおける試験および認証ソリューションの提供が可能です。 - ERA GLONASS
ベラルーシのAcadem-CERTや中国パートナーラボとの提携により、現在ビューローベリタスVEOは、中国国内のテストソリューションとして初の、そして唯一の認証機関となっています。中国でERA-GLOANSS技術をシステムに統合したOEMやメーカーは、ビューローベリタスVEOのローカライズされた試験および認証ソリューションをOTTC認証の申請に利用することができます。この認証は、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、そしてキルギスタンなどのEEC加盟国間で広く認められています。
消費財検査部門 EAW事業部 小倉 富規子
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