Image
カバー画像(IND_MAG260602)

設備保全の高度化~デジタル化が生み出す新たな価値~

エネルギー・プラント業界はいま、大きな転換期を迎えています。設備の高経年化、人材不足、コスト圧力の増大に加え、脱炭素化に伴う規制強化が同時に進行し、従来の保全・検査の枠組みでは対応が難しくなっています。こうした背景のもと、日本では「スマート保安」が政策として推進され、IoTやAI、ドローンなどのデジタル技術を活用した新しい保安のあり方が急速に広がりつつあります。

本記事では、この変革の本質と、デジタル検査およびスマートアセット戦略が企業にどのような価値をもたらすのかについて解説します。

従来型保全の限界と構造的課題

これまで多くの設備保全は、定期点検やスポット的な検査を中心に運用されてきました。しかし、設備の老朽化が進むなかで、こうした手法には明確な限界が見えています。

第一に、設備の高経年化に伴い、腐食や劣化といったリスクが複雑化・潜在化しています。目視や定期的な検査だけでは、早期の異常検知が難しくなっています。
第二に、検査頻度や範囲が拡大する一方で、検査員の確保は困難になっており、人的リソースへの依存が大きなボトルネックとなっています。さらに、設備停止を伴う検査は生産ロスに直結し、コスト面でも企業の負担を増大させています。

加えて、脱炭素化に伴う新技術・新設備の導入は、設備構成そのものの高度化を進め、保全業務の複雑性を一段と高めています。これらの要因が重なり、従来型の検査・保全の延長線上では、将来にわたり安定した運用を維持することが困難になりつつあります。

規制と国際標準が後押しするデジタル化

こうした課題に対応するため、国内外で保全・検査の考え方そのものが進化しています。

国際的には、API(American Petroleum Institute)やEEMUA(Engineering Equipment and Materials Users Association)、ASME(American Society of Mechanical Engineers)などの規格の改訂により、RBI(Risk Based Inspection)やFFS(Fitness for Service)といったリスクベースおよび健全性評価の手法が国際的に確立され、実務上の標準として広く採用されています。これらは、設備ごとのリスクを定量的に評価し、限られたリソースを最も重要な箇所に集中させるという考え方です。また、オンライン監視やデジタルデータの活用も前提となりつつあります。

一方、日本においても経済産業省が「スマート保安」を推進し、デジタル技術の活用を前提とした保安制度への転換が進んでいます。ドローンやロボットによる検査、リモート監視の導入は、もはや選択肢ではなく、標準になりつつあります。

つまり、デジタル化は単なる効率化ではなく、「規制対応そのもの」に直結する経営課題となっているのです。

デジタル検査がもたらす革新

デジタル検査のイメージ画像

こうした変化のなかで注目されているのが、360度キャプチャ、レーザースキャン(LiDAR)、ドローン、AI解析などを組み合わせたデジタル検査です。
これらの技術を活用することで、従来の検査と比較して大きな変革が実現します。

まず、検査精度の向上です。例えばミリ単位での測定や、目視では難しい微細な劣化の検出が可能となります。次に、検査時間の大幅短縮です。現地作業を最小限に抑え、データ解析をオフサイトで行うことで、設備停止期間を短縮できます。さらに、安全性の向上も重要なポイントです。ドローンや遠隔技術により、危険箇所への立ち入りを削減できます。

実際の事例では、タンク設備の検査において、従来10日間を要していた作業が大幅に短縮され、人的リソースと稼働日数の双方で大きな削減が実現されています。同時に、高精度な3Dモデルと規格準拠のレポートが提供され、意思決定の質も向上しています。

 

「データ駆動型保全」への移行

デジタル検査の本質的な価値は、単なる効率化にとどまりません。最大の変革は、「データ駆動型保全」への移行にあります。

取得したデータは、点群データや3Dモデルとして蓄積され、デジタルツインの構築に活用されます。これにより、設備の現状を可視化するだけでなく、将来的な劣化予測やシナリオ分析が可能になります。

例えば、修繕・更新・延命の複数の選択肢を比較し、コストとリスクのバランスを踏まえた最適な投資判断を行うことができます。また、RBIやFFSと組み合わせることで、検査のタイミングや範囲を合理的に決定することも可能になります。

このように、データを起点とした意思決定は、保全業務を「経験依存型」から「科学的マネジメント」へと進化させます。

 

ライフサイクル全体での最適化

さらに重要なのは、こうした取り組みが設備単体ではなく、ライフサイクル全体にわたって展開される点です。

設計・調達・建設から運用・保全、さらには廃止にいたるまで、一貫してデータを活用することで、資産価値の最大化が可能になります。これが「スマートアセット戦略」の考え方です。

従来はフェーズごとに分断されていた情報が統合されることで、設計段階から保全性を考慮した意思決定が可能となり、運用段階ではリアルタイムのデータに基づいた最適化が実現します。また、変更管理や監査対応も効率化され、ガバナンスの強化にも寄与します。

これからの競争力を決する要素

今後、エネルギー・インフラ企業の競争力を左右するのは、「安全性」「効率性」「持続可能性」を同時に達成できるかどうかです。そしてその鍵を握るのが、デジタル技術と標準化への対応です。

国際規格への準拠とデータの信頼性は、グローバルビジネスにおける前提条件となりつつあります。また、スマート保安を通じた保全高度化は、単なるコスト削減ではなく、事業継続性とレピュテーションの確保にも直結します。

企業に求められるのは、部分的なデジタル導入ではなく、戦略的かつ体系的な変革です。検査・保全のあり方を抜本的に見直し、データを中心とした運用へとシフトすることが、次世代のインフラ運用に不可欠です。

おわりに

設備保全は、これまで「守り」の領域と捉えられてきました。しかし、デジタル化とスマート保安の進展により、いまや「攻め」の経営資源へと変わりつつあります。

リスクを可視化し、意思決定の質を高め、資産価値を最大化する。その実現には、検査・保全のデジタル化を核とした変革が不可欠です。

これからの10年、企業が持続的成長を実現できるかどうかは、この変革にどこまで踏み込めるかにかかっているといえるでしょう。

産業事業本部

【お問い合わせ】

ビューローベリタスジャパン(株)産業事業本部
TEL:045-274-6749 神奈川県横浜市西区みなとみらい4丁目6-2
みなとみらいグランドセントラルタワー11階
TEL:078-322-0232 兵庫県神戸市中央区江戸町93 栄光ビル6F

ウェブサイト
お問い合わせフォーム

【ビューローベリタスのサービス】

Asset Integrity Management(AIM)