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カバー画像(海上の貨物船)

風をつかんでGHG排出量削減に貢献~船舶の風力補助推進システム~

1.はじめに

世界が気候変動による危機的状況に直面し、対策をたてて取り組むなか、海運業界もこれまで以上のスピード感をもって環境への負荷を低減するよう取り組んでいく必要があります。海運業界が占めるCO2排出量の割合は世界のCO2排出量の約3%です。今こそ大胆に取り組んでいくことが求められ、風力補助推進システムの船舶への導入もその一つです。

2024年7月末時点で、既に105基以上の風力補助推進装置が世界の45隻以上の船に導入されています。これは始まりに過ぎず、風力補助推進の導入が急増し、2050年までに最大世界の30%の船舶が採用するという予測があります。舶用燃料や排出される炭素の価格変化が、この無償で利用できるエネルギー源への関心をさらに高める可能性があります。

 

船舶に搭載された風力補助推進システム(ウィングセイルタイプ)

船舶に搭載された風力補助推進システム(ウィングセイルタイプ)
出典︓Bureau Veritas Technology Report “Wind Propulsion”

グラフ︓全世界で風力補助推進システムを搭載した商船(45隻)の内訳

グラフ︓全世界で風力補助推進システムを搭載した商船(45隻)の内訳
出典︓Bureau Veritas Technology Report “Wind Propulsion”

 

2.推進力としての風の利用

風力は次の2つの方法で推進力として利用することができます。

  • 補助推進:
    主推進システムを補助する目的で風力を推進に利用し、全体の推進エネルギー効率を向上
  • 主推進:
    理想的な航海条件のもと、1年間の運航で推進エネルギーの50%以上を風力に依存している推進
    一方で、特に危険回避のために、依然としてエンジンまたは他の推進手段に依存する必要があることには留意が必要

現在、風力の活用は主推進手段としてよりは、エネルギー効率向上を実現するための補助的役割を果たす技術として捉えられています。
よって、ここでは主に補助的な役割としての風力推進システムについてご紹介します。

風力補助推進に適した航路は、場所、季節、気象条件に影響されるため、風力補助推進の観点では従来の航路と運航方法を見直す必要があります。しかしながら、風のデータの信頼性はときには限定的であり、風力補助推進システムを導入する際には、充分な評価が必要となります。風の状態を把握し航路を最適化するための気象ルーティングや、風の方向に合わせて船位を調整するタッキングなどの技術は、風力補助推進の効果を最大化するためにますます重要になります。

 

3.風力補助推進システムの種類

商船向けの風力補助推進システムは、アクティブシステムとパッシブシステムに大きく分類され、現在さまざまなソリューションが利用可能であり、プロトタイプ段階にあります。

  • アクティブシステム(ローターセイル、サクションセイル):推力を発生させるために電力を必要とするもの
  • パッシブシステム(セイリングリグ、ウイングセイル、カイトセイル):風力エネルギーのみに依存しているもの

 

さまざまなタイプの風力補助推進システム

さまざまなタイプの風力補助推進システム
出典︓Bureau Veritas Technology Report “Wind Propulsion”

 

4.コスト管理

船舶への風力補助推進システムの導入は相応の投資が必要となりますが、長期的には経済面および環境保護の面で利益を生み出すことが可能となる投資と捉えることができます。最大の課題は、初期コストの管理にあります。
風力補助推進システム本体およびシステムへ船体を適応させるための設計コストに加え、システムの操作とメンテナンスについての乗組員の訓練が初期段階から必要となります。

また、風力補助推進システムの導入の主な目的は燃料消費量の削減による運用コストの削減ですが、実際の燃料節約は、風の条件、船の運用、風力推進システムの効率などによる複雑なバランスに依存します。そのため、投資判断に必要な現実的な投資収益率(ROI︓Return On Investment)を導
くためには、達成可能なコスト削減を正確に予測する詳細な分析とモデリングが必要であり、この分析プロセスは追加の先行投資コストを生み出す可能性があります。
しかし、技術の向上や設置経験増加に伴い、これら初期コストは減少すると予想されます。また、従前の燃料調達量減少に付随する舶用燃料サプライチェーン簡素化から、調達に伴うリスクとコストの削減が期待されます。

 

5.風力推進に関する規則や優遇措置

5.1 IMO(国際海事機関︓International Maritime Organization)の規則

IMOのGHG削減戦略では、船舶のエネルギー効率に関する以下規制が導入されています。これらの規制要件を満たすために、船主はエネルギー消費とCO2排出量制限を遵守しなければなりません。風力補助推進システムの導入にはこれらの規制に対していくつかの利点があります。

IMOの規制適合の評価方法風力補助推進システム導入の利点
エネルギー効率指数(EEXI︓Energy Efficiency Existing Ship Index)
エネルギー効率設計指標(EEDI︓Energy Efficiency Design Index)
算出されたCO2排出量と輸送量の比率評価計算上の、主機由来CO2排出量の削減
燃費実績の格付け制度(CII︓Carbon Intensity Indicator)実質排出量(CO2e)と輸送能力 (gCO2/トンマイル)の比率実質CO2排出量の削減
船舶エネルギー効率管理計画 (SEEMP︓Ship Energy Efficiency Management Plan)CO2排出量削減の実現可能な管理計画を構築し明記しているか長期的な排出量計画の視野も含め、実現可能な選択肢として風力推進システムを計画に統合できる

一方、安全規則に関しては、現在の規則は主としてエンジンベースの推進システムを対象にしており、風力補助推進システムを適切にカバーするためにはさらなる規則やガイドラインの開発が必要となります。

 

5.2 欧州連合(EU)の規則

EUはGHG排出量を2030年までに1990年比で少なくとも55%削減することを目指す包括的な枠組み「Fit for 55」を打ち出しています。その一つの規則であり、船舶燃料の脱炭素化の促進を目指した「FuelEU Maritime」では、風力補助推進システムを導入した船舶には「特典係数(Reward
Factor
)」が考慮され、使用燃料によるGHG排出強度の合計を引き下げることができます。

このように、今後、世界の国や地域が、海運業界において風力推進システムを含む再生可能エネルギー技術の採用を促進するために、さまざまなインセンティブ、補助金、助成金を提供していく可能性があります。

 

5.3 ビューローベリタスの規則やサービス

ビューローベリタスは、風力推進のための専用規則(NR 206 Wind Propulsion System)を策定し、船級符号“WIND PROPULSION”を発行しています。“WIND PROPULSION”は、船舶の風力推進システムの設計、建設、運用、および関連する安全要件を対象とし、システムがテストされ、専用の安全基準を満たしていることを示します。
また、船級承認や認証に加えて、ビューローベリタスは、技術サポート部門BVSolutions M&Oを通じてカスタムメイドのサービスを提供しています。風力推進システムが船舶に与える影響を正確に評価し、船主が安全に風力推進システムを運用し、そのメリットを享受できるように、ビューローベリタスの専門家がエンジニアリングとリスク管理に関する独自のガイダンスを提供します。

風力推進システムの詳細については、ビューローベリタスフランス本社発行のテクノロジーレポート“Wind Propulsion”をご覧ください。

船級部門 常務執行役員 杉原 義之

 

【お問い合わせ】
ビューローベリタスジャパン(株)  船級部門
TEL:045-274-7193 神奈川県横浜市西区みなとみらい4丁目6-2
みなとみらいグランドセントラルタワー11階
TEL:078-331-9131 兵庫県神戸市中央区江戸町93 栄光ビル6F
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