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代替動力と代替エネルギーを用いた未来志向の船舶を目指して

持続可能な海上輸送の実現は、世界的なエネルギー転換の主要な柱の一つです。
現在、船舶からの二酸化炭素排出量は世界合計の2.7%を占めています。海運業全体で、船舶からの炭素排出量を削減していく必要があります。

船主はゼロエミッションの未来を見据え、自社の船舶に対し、環境に優しくクリーンで脱炭素化された技術を選択していくことになるでしょう。
クリーン燃料は依然として今後の開発計画の中心ですが、代替動力は長期的な利益にかなうという点で、成長中のオプションの一つです。従来型の動力を、風力・太陽光・水素といった、本質的に炭素を含まないエネルギー源に置き換えることで、船舶はそのライフサイクルを通して排出をゼロにしたり、大幅に削減したりすることができます。
 

「海運業界は、柔軟かつ創造的な方法で船舶の脱炭素化の問題にアプローチする必要があります。ただ一つの方法で世界の全船舶を脱炭素化するのは不可能であり、代替動力・クリーン燃料・船舶の最適化などを組み合わせていかなければなりません。風力や太陽光、帆やカイト、燃料電池など、これら全てに果たすべき役割があります。どの技術がどの船舶に最も適しているか、海運関係者は、今その判断を迫られています。」
マーシャル・クロードピエール:Bureau Veritasフランス本社、持続可能な海上輸送についてのエンジニア

 

1.風力アシスト動力の導入

海運は、風力アシスト動力が登場したことにより、ある意味そのルーツに戻っているともいえます。風力を利用した装置は、ローターセイル(rotating sail)、カイトセイル(kite sail)、硬翼帆(rigid sail)などのタイプがあり、機械的な動力とは異なり甲板上に設置されます。これらは現在、主に大型ヨットで用いられていますが、海運関係者は近い将来、貨物船やコンテナ船へも拡大したいと考えています。

帆を動力とする船は、目下2つの重要な課題に直面しています。1つ目は技術的なもので、船が風を選んで方向を変えるウェザールーティング技術についてです。2つ目は規制の整備です。国際海事機関 (IMO: International Maritime Organization)では、まだ風力アシスト船に関する規則やガイダンスが整備されていません。また、エネルギー効率設計指標(EEDI:Energy Efficiency Design Index)による炭素削減量を計算し検証する明確な方法が確立されていません。

 

Airseas社のカイトセイル

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Credit: Airseas

 

 

2.水素燃料電池の可能性

燃料電池は、代替動力のために開発されているもう一つの選択肢であり、大型客船でのパイロットプロジェクトが進められています。

燃料電池は化学電池で、水素や水素を含む燃料から電気へとエネルギーを変換するものです。この装置を積んだ船舶は、電力で航行するので、有害な物質や微粒子を排出することがありません。他にも、ディーゼル・メタノール・メタン等を直接の燃料とするタイプの燃料電池もありますが、それらは水素燃料電池ほどには排出を削減できません。

水素燃料電池は船主にとって魅力的な選択肢ですが、まだ船舶での利用は初期段階にあり、いくつかの課題が残っています。水素燃料電池を装備した船舶を造るにも、電気動力を適応していない船舶(例:コンテナ船)を改造するにも、ともに高水準のコストがかかります。

水素はまた、安全性や貯蔵の面でも懸念材料を抱えています。可燃性物質なので、高圧下、あるいはそれに代わる化学的貯蔵技術を用い、低温で保管する必要があります。加えて、燃料電池については長期的な検証がなされておらず、海洋での条件に耐える能力があるかが疑問視されています。

 

3.驚きの解決策:太陽光

太陽光発電は、これまで陸上のプロジェクトで好んで使用されてきましたが、海運業界でもこのカーボンフリー技術は注目を集めています。ソーラーパネルは安価な上設置も容易で、近年船舶への導入も進んでおり、ソーラーエネルギーをエネルギーの一部に利用する船も増えてきています。

しかし、今の段階ではまだいくつかの欠点が残っています。その最たるものは効率性です。太陽エネルギーで航行する船舶の速度はまだ5ノットに達せず、また、夜間に使用できる別のエネルギー源も持たなければなりません。太陽エネルギーは小型船舶や内航船舶にとっては有効な解決策ですが、大型船舶では他の技術と組み合わせる必要があります。

 

4.3件の注目すべき代替エネルギープロジェクト

(1)PACBOAT

Chantiers de l’Atlantique造船所、Entrepose社、CEA(Commissariat à l’énergie atomique et aux énergies alternatives:フランス原子力・代替エネルギー庁)、Bureau Veritasが率いるこのプロジェクトは、MSCワールドクラスの大型客船に搭載した固体酸化物燃料電池の実証に焦点を当てています。この設備の出力は50KWで、LNGを燃料として作られる電気と熱を船の補助システムに供給します。

(2)AirSeas

Louis Dreyfus Armateurs社は、2020年末にAirseas社の自動カイトシステムSeawing kiteを貨物専用のro-ro船に設置しました。風力を利用することで、燃料の使用を最大20%抑えることができ、その分の排出が削減されます。

(3)Race for Water財団(=R4W)

目下進行中のプロジェクトで、国連の支援を受けています。R4W Boatは太陽光、風力、燃料電池を組み合わせて航行し、プロジェクトの第一段階は2021年に完了する予定です。

PACBOATプロジェクトが進められているMSCクルーズ社の大型客船

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MSC World Class, Credit: MSC Cruises

 

 

5.2030年とその先へ

エネルギー転換に関して言えば、船主・用船者・管理会社各者は、解決策のオプションを探す以上のことを求めています。海運業界が必要としているのは包括的なプランです。海運業界の関係者は、長期的な視野に立って、2030年とその先の未来に立ち向かうために、これから多額の投資を進めていきます。

Bureau Veritasは、お客様にとって最適な代替動力、すなわち、最も環境にやさしく、最もシンプルで、また最も効率的な動力を見つけるお手伝いをします。Bureau Veritasは、「商用船舶の燃料電池システムに関するガイドライン」を作成し、前述のPacBoatプロジェクトにおいてこのガイドラインに関わる検査および設計のアセスメントを行なっています。Bureau Veritasの専門家は、また、「ヴィル・ド・ボルドープロジェクト(Ville de Bordeaux Project)」や、近く予定されている「カノペプロジェクト(Canopée project)」など、帆を動力とする船舶の開発計画にも参画しています。

帆を動力とするカノペプロジェクト

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6.船上での炭素回収と貯蔵

代替動力の多くは、排出を削減するにあたっては部分的な解決方法であり、多くは他の燃料と並行して使用されます。ゼロエミッションを達成するためには、炭素回収・貯留設備を船舶に組み込む必要があります。従来型燃料にしろ代替燃料にしろ、それらを燃焼して発生した炭素は、船上で一旦貯蔵された後、陸上の処理施設で降ろされ、処理を施されて合成燃料へリサイクルされます。このようにして完全に持続可能なサプライチェーンが達成されます。

船舶から排出される炭素の回収と貯蔵に関しては、複数の計画が日本と英国で既に進行中であり、これらによってCO2排出量は85~90%削減されると見込まれています。

 

船級部門 山下 和夫

オリジナル(英語)→ https://marine-offshore.bureauveritas.com/insight/future-proofing-fleets-alternative-propulsion-and-energy-sources


 

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