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船級

将来の海洋燃料 : 脱炭素化の道筋

現在、世界中の多くの人が世界の気候変動のリスクに強い関心を持ち、今や世界中の人々が「産業界は環境を守り、気候変動と闘うために自らの役割を果たすべきである」との明確なメッセージを共有しています。

海事産業も例外ではなく、国際海洋規制機関は船舶から排出される炭素の量を制限することによって、船舶の環境への影響を減らすためにたゆまぬ努力を続けています。 国連の専門機関の一つであるIMO(国際海事機関) は、2020年から2050年の間に炭素排出量を削減するための一連の目標を策定しました。
その目標によると2030年までに一航海毎のCO2排出量を2008年比で40%以上削減し、さらに2050年までに70%削減することを目指します。IMOは同時に完全な脱炭素化に向けた取り組みの一環により、船舶からの温室効果ガス(GHG)の年間総排出量が2050年までに少なくとも半減すると予想しています。

これらの目標を達成するために、海運会社はさまざまなクリーンな代替燃料を模索しています。今後一層の拡大が見込まれるLNG燃料に加え、今注目の集まっているLPG、メタノール、バイオ燃料のみならず水素やアンモニアのような新しい燃料まで、すべての可能性が検討されています。

1. 代替燃料のフロントランナーLNG

液化天然ガス(LNG)は海運業界でよく知られた代替燃料です。硫黄酸化物や粒子状物質(PM)の排出がほとんどなく、加えて窒素酸化物の排出も少ないことから、LNG燃料エンジンは、従来の舶用重質油に比べて7%から22%の温室効果ガスしか排出しません。さらにLNGエンジンを燃料電池のコンバインドサイクルと組み合わせることで、CO2排出量を最大80%削減することが期待されています。

しかしLNGだけではCO2をゼロにすることはできません。LNGは本質的に化石燃料であり、LNGエンジンは未燃焼のメタンを大気中に放出するというメタンスリップの課題の解決を迫られています。メタンスリップにより、温室効果ガスであるメタンが大気中に排出され、CO2排出量削減の一部を相殺しています。そのため、メタンスリップを抑制するエンジンの改良が進められています。

LNG燃料のもう一つの課題は、燃料供給インフラの制約と設備投資の増加です。世界的な新規LNG生産設備への大規模な投資によりLNG価格は安定しており、舶用重質油との価格差が縮まりつつあります。この傾向は、LNG供給インフラの世界的な構築が進むなかで、今後も継続すると思われます。

このようにクリーンな燃料としてLNGが注目されるなか、LNG運搬船の建造が進んでいます。2019年の世界の受注リストでは、新規受注の17% (総トン数で) がLNG運搬船となっています。

将来の海洋燃料

 

2. LPG、メタノールおよびエタノールの燃焼の課題

液化石油ガス(LPG)は、LNGに代わる燃料として期待されています。LPGは、広く入手可能であり、取り扱いや貯蔵が容易であるため、LNGに比べて設備費用が低くなりCO2排出量は抑えられますが、これをゼロにはできません。また、世界中でLPGターミナルが稼働しているにもかかわらず、燃料供給のインフラが十分ではないという問題があります。現在のLPG生産量のレベルでは舶用LPG燃料を包括的な解決策とするには不十分ですが、LPG運搬船にこの技術を適用することで今後の有力な解決策の一部と考えられています。

メタノールやエタノールはLPGと同様の特徴を持ち、LNGと比較して取り扱いが容易であり、世界的な供給のネットワークが整備されていることから、LNGの代替燃料として期待されています。一方で、燃料貯蔵施設は限られており、メタノールやエタノールを燃料とする船舶は、ガスの毒性と引火性を考慮した設計と運航が必要です。メタノールやエタノールを舶用燃料として安全に使用するためには、燃料タンクとエンジンの価格が高くなりますが、ストレージと処理に追加のCAPEXが必要です。この追加費用はLNG燃料に比べて小さいものの、燃料とし てのコストは、 LNGやLPGに比べてそれほど有利ではありません。

3. カーボンニュートラルへの移行 : バイオ燃料と合成メタン/SNG

バイオ燃料はカーボンニュートラルな解決策であり、舶用燃料としてますます利用可能になっています。船舶からのCO2排出量削減を求める社会からの要請に応えるため多くの海事産業関係者が実証実験を行っています。しかし、特に他の産業がすでにバイオ燃料を使用しているためバイオ燃料の大量生産が現実的ではないことから、バイオ燃料は部分的には良い解決策であるが万能薬ではないというLPG燃料と同じような評価に留まります。

合成メタン/代替天然ガス(SNG)とバイオメタンは、現在のLNG燃料エンジンにそのまま利用可能であることからもう一つの魅力的な選択肢です。理論的にはSNGとバイオメタンは、炭素回収と燃料電池技術と組み合わせて使用すればカーボンニュートラルな代替物となり、既存のLNG燃料インフラは両方の供給源に容易に転用することができます。しかし、SNGのカーボンニュートラル化は再生可能エネルギーの利用の可能性に依存しており、短期的には生産コストが高いままです。

4. 水素とアンモニアによる炭素フリーの未来

クリーン燃料の世界でさらに進んでいくと、水素とアンモニアに辿り着きます。本質的に炭素を含まないこれらの燃料はCO2排出をゼロにし、且つ、どちらも内燃機関と燃料電池のためのクリーンな燃料ソリューションとなります。ただし、両方の燃料が、従来の舶用重質油よりもはるかに低いエネルギー密度であることに留意する必要があります。この性質は、船の設計に大きく影響を及ぼし、建造コストの上昇を招きます。水素は、エネルギー重量当たりでは舶用重質油の約3倍という高位のエネルギーですが、そのエネルギー密度は水素の状態に依存しており、重油に比べて1/4から1/8程度の低さです。一方、アンモニアは舶用重質油に比べ単位重量当たりのエネルギーは約半分ですが、エネルギー密度は約1/3です。
液体または圧縮水素の長期かつ長距離の運搬は、費用がかかるという技術的課題は未解決です。そのため水素運搬体として機能するアンモニアは現在、輸送用のゼロ炭素燃料として有望視されています。

アンモニアについては、貯蔵および輸送のプロセスは十分に確立されています。さらに、世界の年間生産量は約1億9000万トンという最も広く使用されている化学物質の一つです。そのため今後の舶用燃料として広く利用可能ですが、海上での船舶への供給インフラの開発が必要となります。さらにアンモニアの毒性と腐食性に関連する安全性の問題は、各種の規則により慎重な保管と取り扱いが決定される必要があります。

5. Bureau Veritas の役割 : 業界のプレーヤーに指針を提供

時間が経つにつれ海事産業のステークホルダーは、クリーン燃料のための強固なインフラとサプライチェーンを開発する必要性が高まっていると考えています。ビューローベリタスは、IMO規制、特にIGFコードの策定や、設 計、運用、バンカリングに関する国際的な業界標準の策定を支援するうえで重要な役割を果たしています。内燃機関と燃料電池の両方を考慮した代替燃料の技術的実現可能性と安全とリスクを評価するために、さまざまな産業共同プロジェクト( JIP)に参加しています。

船級部門 山下 和夫

 


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