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船級

バッテリー推進システムで未来にチャージ

二酸化炭素排出量の削減に向けての動きは世界的な流れとなっており、海運業界もその例外ではなく、関係国際機関や旗国からの要求が厳しくなってきています。このような環境下で有力な解決策の一つとしてバッテリーシステム(Electric Storage System)を基盤とする代替エネルギーシステムが注目されています。 2050年までに世界の船舶全体からの温室効果ガスの年間排出量を50%以上削減するために、海事産業の関係者はバッテリーと風力という二種類の炭素エネルギーに依存しない動力システムの開発を進めています。

1. バッテリー推進船の第一波

環境負荷の少ない輸送手段としてバッテリーシステムが脚光を浴びています。従来のエンジンとバッテリー推進システムを組み合わせたハイブリッドシステムは既に舶用技術として一般化されており、バッテリーはバックアップ電力の保持やエネルギー効率改善のために導入され始めています。バッテリーからの電力の使用により燃料消費量やGHG排出の減少が見込まれ、積荷重量が小さく操船中の出力の変動が大きい船舶(オフショア支援船、タグボートなど)で主に導入されています。

バッテリー関連技術は急速に進化しており、リチウム硫黄電池や固体電解質型電池などの次世代技術も設計されるなど、研究開発は順調に進んでいます。

2. バッテリー推進の限界

現在のところ、バッテリー推進システムのみで運航する外航船はまだ実現していません。

バッテリーのみでの推進船の完成には研究開発の中でいくつかの課題を克服する必要があります。主な技術的課題はバッテリーのエネルギー密度の向上です。船舶は短距離航海でも大量のエネルギーを必要としますが、今日のバッテリーでは大型の外航商船の操船に必要とするエネルギー量にまだ対応できておりません。さらに船主にとっては、設備投資コストの高さ、バッテリーの充電に再生可能エネルギーがまだ十分に利用できないことに加え、充電用インフラの不足といった課題も残っています。

現時点では上記のような制約のため、バッテリー推進船は短距離フェリー、内航船、小型ボートなどに実現可能性が限られていますが、小型船での運用を重ねることにより、将来の大型外航船への開発、運航に向けた技術的蓄積が進むと考えられます。

3. 未来に向かって安全に舵を切る

ビューローベリタスは、バッテリー推進船や電気ハイブリッド推進船の安全な開発をサポートするための包括的な規則上の枠組みを作成しました。
ビューローベリタス船級ルールでは、電力バックアップモード・排出ゼロモード・電力管理モードという3つのオペレーションモードを考慮しており、これらは電力ピークの削減、負荷の平衡化および高負荷への応答に対応しています。

ビューローベリタスでは現在、バッテリー推進システムを備えた船舶には≪ELECTRIC HYBRID≫、将来バッテリー推進システムの導入を予定している船舶には≪ELECTRIC HYBRID PREPARED≫という2つの船級符号を提供しています。

≪ELECTRIC HYBRID ≫符合が付与される船舶としては、カナダBC Ferry社に向けてオランダDamen造船所で建造中の電気ハイブリッド推進フェリー2隻と、フランスLouis Dreyfus Armateurs社に向けてトルコCemre造船所で建造中の洋上風力発電ファームでのメンテナンス用walk-to-work型オフショア支援船2隻があります。

もう一つの注目すべきプロジェクトとしてカナダオンタリオ州運輸局へ向けて前述のDamen造船所が建造中の完全バッテリー推進のロードフェリー2隻があり、Schottel社の電気駆動プロペラが装着されます。バッテリー推進システムにより年間約7tのCO2排出を削減できると期待されており、両船ともビューローベリタスの≪BATTERY SYSTEM≫符合が付与される予定です。

カナダBC Ferry 社へ向けてオランダDamen 造船所で建造中の電気ハイブリッド推進フェリー

 

 

4. 未来の自律運航船

自律して航海する船というと伝説の幽霊船フライング・ダッチマンのようなイメージが浸透しているかも知れませんが、未来のセルフ・セーリング-自律運航船-の実現は現実的であり、バッテリー推進システムの導入が想定されます。既存のエンジンを電動システムに変更することで船主は船の装備を単純化し各種部品の消耗を大幅に減らすことができ、これによりメンテナンスに従事する作業員も削減することができます。

さらにはバッテリーに加え、IWSA: International Windship Associationなど多様な企業や団体で構成される国際組織の活動により、風力補助推進システム(WAP: wind-assisted propulsion)が再び脚光を浴びています。5年前に創設されたNPO組織であるこのIWSAは、一般商船に対しても風力は現実的で経済的としてこの技術を積極的に推奨しています。一例として、風力とバッテリーシステムを組み合わせたWAPがあり、船舶のオペレーションに合わせ、風力発電による電気を蓄めたり放電したりできる仕組みを紹介しています。

ビューローベリタスは2019年6月にIWSAに加盟、今までに培った経験や知見を活かして風力補助推進分野の発展に貢献しています。風力補助推進は既に実用段階に入りつつあります。ビューローベリタスはこの新しい技術が安全に導入されるのをサポートし、脱炭素化の未来へ向けて尽力を続けてまいります。

船級部門 山下 和夫

 


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