木造建築物における必要な壁量等の基準の見直しについて
令和5年12月11日に、国土交通省より、木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準の見直し(案)等が示されましたので、概要をご紹介いたします。
また、国土交通省のウェブサイトでは、解説資料、Q&A、解説動画などの詳細な内容をご覧いただくことができます。政令および告示の改正等におきましては、今後の検討や寄せられた意見等を反映して修正が加えられる可能性があることをご承知おきください。
なお、本見直し案は、BV MAGAZINE2022年12月12日号「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準(案)の概要について」の延長上のものではありますが、必要壁量や柱の小径について施行令の表にZEH水準等の建築物の欄を追加することが盛り込まれなかったなど、内容が大きく変更されていますので、ご注意ください。
1.対象となる建築物
本見直し案は、次の要件を全て満たす建築物が対象です。ただし、構造計算を行うものを除きます。
- 木造建築物(木造軸組工法、枠組壁工法)
- 階数2以下
- 延べ面積300m2以下
- 高さ16m以下
これまでは構造計算(限界耐力計算等の一部の構造計算を除く)を行った場合であっても壁量の基準等に適合する必要がありましたが、今後は、構造計算を行えば以下に説明する基準に適合する必要はなくなります。
2.壁量に関する基準の見直し(令第46条第4項等関連)
(1)必要壁量の基準の見直し
現行の令第46条第4項表2によるいわゆる「軽い屋根」「重い屋根」の区分により必要な壁量を算定する基準は廃止されます。また、枠組壁工法についても同様となります。本見直し案では、以下の算定式により、木造軸組構法による木造建築物の地震力に関する必要な壁量を算定します。なお、枠組壁工法においては、多雪区域の場合は、∑wiに積雪荷重を加える必要があります。
<算定式(床面積あたりの必要壁量)>
Lw: | 床面積あたりの必要壁量(cm/m2) | Ai : | 層せん断力分布係数 |
Co: | 標準せん断力係数 | Σwi: | 当該階が地震時に負担する固定荷重と 積載荷重の和(kN) |
Afi: | 当該階の床面積(m2) |
(2)存在する壁量の算定の基準の見直し
①存在壁量への準耐力壁等の算入可能化
現行規定では耐力要素として見込んでいない開口部まわりなどの垂れ壁・腰壁等(準耐力壁等)についても、一定の耐震性への寄与が期待できることから、存在壁量に算入できるようになります。ただし、存在壁量に算入する準耐力壁等が各階および各方向の必要壁量の過半を超える場合には、全ての準耐力壁等の面材、木ずり等を固定する柱について折損等の脆性的な破壊の生じないことを確認する必要があります。枠組壁工法についても、存在壁量に垂れ壁・腰壁等を一定の割合以内で算入できるようになります。準耐力壁等を用いた場合の四分割法および柱頭・柱脚の接合方法についても、算入する準耐力壁等の必要壁量に対する壁量割合や準耐力壁等の壁倍率によって、確認方法が細分化されます。
②高い耐力を有する壁の壁倍率の上限の見直し
高い耐力を有する壁に係る壁倍率の上限を引き上げ、5倍を超える倍率を設定できるようになります。ただし、当面の間、高い耐力を有する壁の周囲へ与える影響を考慮し、壁倍率の上限は7倍となります。
③筋かいを入れた軸組の壁倍率の見直し等
筋かいを入れた軸組の高さが一定の高さを超える場合、所定の壁倍率が発揮できなくなるため、筋かいを入れた軸組の高さが3.2mを超える場合には、通常の壁倍率に、以下の算定式により算出される数値αhを乗じた数値を当該軸組の壁倍率とすることとなります。ただし、柱間隔が大きく、数値αhが1.0を超える場合には数値αhを1.0とします。
<通常の壁倍率に乗ずる数値の算定式>
Ld: | 筋かいを入れた軸組における柱間の距離(mm) |
H0: | 筋かいを入れた軸組の高さ(mm) |
また、これまで筋かいの材料は木材、鉄筋に限られていましたが、鋼材などの多様な材料や多段筋かいなどの多様な形状のものを用いることができるようにする予定もあるようです。
(3)階高が3.2mを超える場合の柱頭・柱脚の接合方法の検証方法の見直し
階高が3.2mを超える場合は、当該階の柱頭・柱脚の接合方法はN値計算法により検証を行わなければならないことになります。なお、N値計算法の見直しの内容については解説書等で示される予定です。
3.柱の小径に関する基準の見直し(令第43条関連)
(1)必要な柱の小径の基準の見直し
現行の令第43条第1項表によるいわゆる「軽い屋根」「重い屋根」等の区分により必要な柱の小径を算定する基準が廃止され、以下の算定式により、木造軸組構法による木造建築物の必要な柱の小径を算定することになります。
<算定式(必要な柱の小径)>
de: | 必要な柱の小径(mm) |
𝑙: | 横架材相互の垂直距離(mm) |
Wd: | 当該階が負担する単位面積あたりの固定荷重と積載荷重の和(N/m2) 注:積雪荷重は含まない。 |
(2)座屈の理論式による検証
上記(1)の算定式は、簡易に柱の小径を算定できるよう、柱の材料はスギの無等級材、柱が負担する床面積は5m2等、一定の仮定を前提とした式(座屈の理論式を安全側に簡略化した式)となっています。一方、座屈の理論式を用いて柱の材料に応じた柱の小径の算定が可能となるほか、一定の小径の柱が負担可能な床面積を算定することができるため、より合理的な柱の小径の設計ができるようになります。なお、5.に示す設計支援ツールは、この理論式を元に作成されています。
(3)小径の確認が不要な柱
柱を拘束し、座屈防止効果が期待できる壁が取りつく場合、当該壁の取りつく方向 (面内方向)について、面内方向の柱の小径の確認が不要となります。
4.構造計算により安全性を確認する場合の壁量および柱の小径の基準の適用除外等
(1)構造計算により安全性を確認する場合の壁量および柱の小径の基準の適用除外
木造建築物について、昭和62年建設省告示第1899号に定める構造計算により安全性を確認する場合は、「2.壁量に関する 基準の見直し」による確認が不要となります。また、平成12年建設省告示第1349号に定める構造計算により安全性を確認した場合は、「3.柱の小径に関する基準の見直し」による柱の小径の確認が不要となります。
(2)鉛直方向壁量充足率の位置付け
今般の改正法による高さの合理化(ルート1で設計可能な木造建築物の規模を高さ16m以下に拡大)に伴い、階数3の木造建築物であって、高さ13mを超え、16m以下のものを対象に、これまでのルート2において検証を行っていた剛性率規定に代わって、各階の壁量充足率(存在壁量/必要壁量)を用いた仕様規定(鉛直方向の壁量充足率の確認)が位置付けられます。具体的には、以下の式に示す、各階の壁量充足率を、各階の壁量充足率の平均値で除した値(壁量充足率比)が、それぞれ10分の6以上であることを確認することになります。ただし、令第46条第2項に規定する構造計算により安全性を確認する場合、または、令第82条の6第二号イの規定(剛性率の確認)に適合する場合は、壁量充足率比の確認は省略することができます。
<壁量充足率比の算定式>
Rfn: | 各階の壁量充足率比(≧0.6) |
rfn: | 各階の壁量充足率 |
5.必要壁量等の算定のための設計支援ツールの整備
実際の建築計画において、2.(1)の算定式および3.(1)の算定式等を直接用いずに容易に必要な壁量および柱の小径の算定が可能となるよう、早見表および表計算ツールの2種類の設計支援ツールが整備される予定です。なお、これらは、公益財団法人日本住宅・木材技術センターウェブサイトにて無償で公表される予定です。また、令和5年11月20日時点では、設計支援ツール(案)が公表されています。
6.設計上の留意事項
省エネ化等により建築物が重量化、高階高化することや、高耐力の壁等を用いることによる壁等の周囲の部材への影響などを考慮し、床組等、接合部、横架材および基礎について、住宅性能表示制度の評価方法基準に基づき設計上配慮することが望ましいとされています。具体的な内容については、今後、解説書等で示される予定です。
7.現行の基準により建築された建築物の構造安全性について
現行の基準に基づき、必要な壁量および柱の小径を算定し建築された建築物については、荷重が特に大きい建築物でなく、準耐力壁等が一定程度存在するなど構造安全上の余裕が見込まれる場合には、見直し後の基準において必要とされる構造安全性を有するものと考えられます。一方、ZEH水準等の建築物、土壁などの重い仕様の住宅や、大きな開口部が設置されている、間仕切り壁が少ない、柱のない大空間を有するなど、構造安全上の余裕があまり見込まれない建築物については見直し後の基準で検証を行い、必要な補強を行うことが望ましいと考えられます。なお、現行の基準に基づき建築された建築物の耐震診断および耐震改修は、防災・安全交付金等の住宅・建築物安全ストック形成事業の支援の対象となる予定です。
8.その他の基準の見直し(案)
(1)無筋コンクリート基礎の廃止
これまで、著しい不同沈下等の生ずる恐れのない強固の地盤においては、無筋のコンクリート基礎とすることができることとされていますが、地盤の種別に関わらず、鉄筋コンクリートの基礎としなければならないこととなります。
(2)伝統的構法等に関する基準の見直し
伝統的構法等で用いられる床組等に板張りを用いる場合の規定(平成28年国土交通省告示第691号第二号ロ)において、耐力壁線間距離の算定式を位置づけることになります。また、階の高さが3.2mを超える場合は、算定した耐力壁線間距離に対して階の高さに応じた調整係数を乗じることとなります。このほか、伝統的構法等に関するいくつかの規定についても、階の高さが高くなるほど不利となることから、それぞれ階の高さに応じて調整が行われます。
9.住宅性能表示制度、長期優良住宅認定制度における壁量基準等の見直し
建築基準法において、木造建築物の仕様の実況に応じて壁量基準等を算定できるよう基準が見直されることを受け、住宅性能表示制度及び長期優良住宅認定制度においても、木造住宅(木造軸組構法、枠組壁工法)について所要の改正が行われます。
(1)住宅性能表示制度関係
建築基準法の改正を踏まえ、新たな壁量基準等に対応した基準へと見直されます。
- 壁量基準の適用可能範囲について、【延べ面積500m2以下かつ高さ13m・軒高9m以下かつ階数2以下】から【延べ面積300m2以下かつ高さ16m以下かつ階数2以下】へ見直します。
- 評価方法基準においても、荷重の実態に応じて必要壁量を算定する方法を示し、等級2、3の必要壁量について、算定式の右辺の分子にそれぞれ1.25倍、1.5倍を乗じて算出する旨を規定し、建築基準法と同様必要壁量表は廃止します。
<算定式(床面積あたりの必要壁量)>
Lw: | 床面積あたりの必要壁量(cm/m2) | Z : | 地震地域係数 0.7~1.0 |
Ai : | 層せん断力分布係数 | Co: | 標準せん断力係数 |
Afi: | 当該階の床面積(m2) | Σwi: | 当該階が地震時に負担する固定荷重と積載荷重の和(積雪荷重を含む。)(kN) |
- なお、準耐力壁等、柱の小径等の扱いについては、改正後の建築基準法の規定と同様の扱いとし、住宅性能表示制度に対応した設計支援ツールについても整備される予定です。
(2)長期優良住宅認定制度関係
令和4年10月4日より長期優良住宅の壁量基準については、暫定的に現行の住宅性能表示制度の耐震等級3としているところ、建築基準法の改正を踏まえ、新たな壁量基準等に対応した基準(改正後の新耐震等級2等)へと見直されます。
10.耐震改修促進法に基づく耐震診断の指針等
建築物の耐震改修の促進に関する法律(平成7年法律第123号)第4条に基づく基本方針(平成18年国土交通省告示第184号)の別添(建築物の耐震診断及び耐震改修の実施について技術上の指針となるべき事項)第1本文ただし書の規定に基づき、同指針第1に定める建築物の耐震診断の指針の一部と同等以上の効力を有する建築物の耐震診断の方法として、見直し後の壁量基準に適合することを確認する方法を用いることができます。(「建築物の耐震診断及び耐震改修に関する技術上の指針に係る認定について」(平成31年1月1日付け 国住指第3107号 国土交通省住宅局長通知)参照)
11.施行予定日等
基準の見直しは令和7年4月に施行することが予定されています。ただし、以下の基準の見直しについては、新基準の円滑施行の観点から1年程度の間、現行の基準での検証も可能とする経過措置を設けることが検討されています。
- 2.壁量に関する基準の見直し
- 3.柱の小径に関する基準の見直し
- 9.住宅性能表示制度、長期優良住宅認定制度における壁量基準等の見直し
注:現行の基準により検証する場合は、合理化となる基準の見直し(2.(2)①存在壁量への準耐力壁等の算入可能化、②高い耐力を有する壁の壁倍率の上限の見直し、3.(3)小径の確認が不要な柱等)については適用不可
【参考】e-Govウェブサイト
木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準の見直し(案)等に関する意見募集について
木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準の見直し(案)等の概要(令和5年12月版)
建築認証事業本部 丹波 利一