Case Study:セイコーエプソン株式会社(ISO45001)
業界・会社の労働安全衛生規格から、
ステークホルダーの信頼を得るグローバル認証へ
セイコーエプソン株式会社(長野県諏訪市)
ISO45001を社会的信用の切り札に
長野県諏訪市を本拠地とするセイコーエプソン株式会社は、日本を代表するプリンターやプロジェクターのメーカーで、オフィスでも家庭でもその製品を目にすることが多い。同社が労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格ISO45001の取得を開始したのは2022年だ。その後、順を追って拡張し、現在10サイトでの統一認証となっている。
実は同社はそれまでJISHA方式のOSHMSをベースにNew Epson Safety & Health Program(NESP)という独自の労働安全マネジメントシステムをワールドワイドに導入し運用してきた。それをISO45001の運用と取得を行う決定をした。それには大きく2つの背景がある。
まず一つ目は、同社が社内教育の中でもとりわけ社員の命を守るための労働安全衛生教育に重点を置いていること。そのため、一般社員にはリスクアセスメントや危険予知訓練などの実用的な技法の習得、管理監督職には職場を統率する技術の習得にそれぞれ重きをおいて全社共通の教育カリキュラムを持っている。つまりこのNESP活動によって職場の労働安全衛生の保全を図っていたわけだが、「これではどうもお手盛りの感があり、本当にいいのかという一抹の不安があった」と安全企画部の山口慶太郎部長は言う。
もう一つのISO45001取得の背景はヨーロッパ諸国でのビジネスにおいて、取引先からISO45001取得を条件にされることが増えてきたことだった。ヨーロッパ諸国は企業のコンプライアンスに対する姿勢に厳しく、特に学校など子どものいる場にプリンターやプロジェクターを納入するにあたってはISO45001の取得が入札条件になることも珍しくない。
このようなことから、「社会的な信用を重要視する昨今の潮流のなかでISO45001認証の取得は避けて通れない」と判断した同社は、思い切って今まで運用してきたNESP活動をISO45001で労働安全衛生をマネジメントする方向に舵を切ることにしたのだ。
第三者監査による刺激と学び
同社がISO45001を取得・運用していちばん刺激的に感じたのは、第三者による監査だったという。
「それまでは内部監査がゴールだったが、ISO45001では外部機関の審査員によるチェックと指摘が入ります。この審査には今までとは違った厳しさと緊張感がありましたし、これまでのチェックの甘さを実感する場面や、こういう点を見るべきなのか、そういう見方もあるのかという気づきも多くありました」と安全企画部の岡田隆シニアスタッフはいう。
特に苦労したのはリスクアセスメントだったという。
「それまでリスクアセスメントはやっていたが、審査を受けてみないとどのレベルまで要求されるかが分からなかったのです」(岡田氏)。
リスクアセスメントが難しかったのにはもう一つ理由があった。それはISO45001ではリスクアセスメントの方法がこれと決められていないことだった。
つまりリスクの特定、評価は各々が考えなくてはならず、それが審査にかなうかどうかは審査を受けてみないと分からないという状況だったのだ。
そこで、同社では「自分たちがやっているリスクアセスメントをみてもらおう」と審査に臨んだのだが、結果として審査員と意見が食い違い、「自分たちの考えたリスクアセスメントは標準的ではない」と感じたという。
「しかし審査員も弊社も目指すところは同じく労働安全衛生のレベルを上げることであり、そのために審査員の意見をよく聞き、弊社の実情と合わせ、より効果の上がるリスクアセスメントに近づけていくことが大事だと思っています」と麻田課長はいう。
この規格が当たり前のことになる現場を
一方で「やはりこれで良かったのだ」という点もあったという。
それは「経営トップが積極的に労働安全衛生に関わらなくてはいけない」というISO45001のコミットメントが、従来の方針と一致したことだった。
同社では、それまでも全社を束ねる統括安全管理者を置くなど、グループ全体の労働安全衛生に関するマネジメントはしっかりしており、現場任せという体質ではなかった。
「この点はISO45001の考え方と合致していたので、自社の価値観に自信が持てました」と安全企画部の白井遥大氏はいう。
「実際に運用を始めて、まだまだ足りないところが多いと感じます。審査を受けるたびに改善点が出ますが、何とか7合目、8合目まで来ている感じがします」(白井氏)。
「いちばんいいと感じたのは、外部審査によって現場が以前よりピリッとしたことでしょうか」と苦笑するのは現場にいちばん近い坂本淳氏だ。
「実はそれまで10年間、同じ担当者が内部監査を回してきたのですが、それが外部から審査員が来るとなったわけですから、良いようにいえば新鮮、悪いようにいえば大変です。その影響をいちばんまともに受けることになる現場には賛否両論あるのも確かですが、次第に規格を当たり前のこととして守り実行する人が現場に増えて、労働安全衛生のレベルが自然に上がっていくこと、その結果として労働安全衛生に関する工数が減ることがこれから目指すところだと思います」(山口氏)。
最初の取得から約1年で「7、8合目まで来ているかも」と思える背景には、同社のたゆまぬ努力とリーダーたちの推進力を感じることができる。これからもそれらが維持され、ISO45001が名実ともに世界のエプソンになるための大きな布石となってほしいと思う。
ISO45001運用と取得の主要メンバー。
前列左から左回りに、山口安全企画部部長、麻田安全企画部課長
坂本氏、白井氏、岡田氏
2023年8月4日取材
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