ニュースレター2019年4月10日号では5Gを取り上げましたが、その5Gの商用化が開始された今、注目を集めているのが企業や自治体が主体となって構築する自営の5G(以降、ローカル5G)です。
5Gの超高速、超低遅延、多数同時接続の特性を地域や産業の個別の二-ズにあわせて利用できるローカル5Gは、人手不足に悩む製造業をはじめ、農業・医療・防災・観光など幅広い分野での活用が期待されています。2019年12月総務省がローカル5Gの免許申請の受付を開始して以降、数多くの企業や自治体が申請に乗り出し、関連ビジネスが盛り上がりを見せるなど、ローカル5Gを巡りすでに活発な動きもみられます。IoTとりわけ産業向けIoT(IIoT: Industrial Internet of Things)普及の鍵を握るとも言われるローカル5Gの動向について、制度の概要や制度化された背景、免許の取得で求められる電波法の対応も交えご紹介します。

なぜローカル5G?

公衆網の5Gではなく、なぜローカル5Gなのでしょうか。総務省は携帯事業者が提供する5Gとは異なるローカル5Gの特徴として以下を挙げています。

  • 携帯事業者によるエリア展開が遅れる地域において5Gシステムを先行して構築可能。
  • 使用用途に応じて必要となる性能を柔軟に設定することが可能。
  • 他の場所の通信障害や災害などの影響を受けにくい。

通信キャリアなどの携帯事業者が設備投資の回収が見込めるエリアから整備していく5Gでは、サービスの提供エリアから取り残される地域が出てくるため、そうした地域でも個別の用途に合わせて自前で5Gを構築できるようにした運用方法といえるのがローカル5Gです。外部のネットワークから切り離されたローカル5Gは小規模ながらもセキュリティのリスクが少なく、他の場所でトラフィックの混雑や通信障害、災害等が発生しても影響を受けずに安定した通信を確保できるといったメリットが考えられます。

ローカル5Gに寄せられる期待と国外での動向

2019年12月一般財団法人電子情報技術産業協会(JETIA)が、5G市場の世界需要額が2030年に168.3兆円に到達するとの見通しを発表しました。その中で、セキュリティと通信の安定性を担保するローカル5Gはこれまで無線化されることのなかったさまざまな業種での導入が見込まれ、新たな市場創出が期待できるとし、世界市場は年平均65%増で成長、2030年には10.8兆円、日本の国内市場は世界市場を上回る年平均71%の成長率で、2030年には1.3兆円にまで拡大すると予測されています。

ローカル5G市場の世界と日本の需要額見通し

出典: 一般財団法人電子情報技術産業協会「第五世代移動通信システム(5G)の世界需要額見通し」

ローカル5Gはヨーロッパではプライベート5Gと呼ばれ、プライベートLTEの導入で先行するドイツが先陣を切って2019年11月、プライベート5Gの周波数の申請受付を開始しました。Industry4.0の基盤として製造業での5G導入が官民一体で推進されているドイツでは、すでに導入済みのプライベートLTEからプライベート5Gへ展開しようとする企業をはじめ、2018年から試験導入しているアウディ、2019年に実証実験を実施したボッシュなど、数多くの企業がプライベート5Gの本格的な活用に向け取り組んでいます。中国でも鉱山生産や警察の現場でローカル5Gの導入が進められているほか、2019年には初の医療現場でのパイロットテストが行われ、ローカル5Gを活用した遠隔外科手術や専門医によるワイヤレスな診断が実施されました。

ローカル5Gの周波数と自営BWA

日本では総務省が2019年12月17日ローカル5Gの概要、免許の申請手続きなどを明記した「ローカル5G導入に関するガイドライン」を公表、同月24日からローカル5Gの周波数申請の受付を開始しています。ローカル5Gに割り当てられたミリ波と呼ばれる28GHz帯とサブ6と呼ばれる4.5GHz帯のふたつの周波数のうち、先行して制度化されたのが28GHz帯の100MHz分(28.2~28.3GHz)で、28GHz帯の残りの部分と4.5GHz帯は2020年6月に技術的条件のとりまとめが行われ、2020年11月、12月には制度化と申請受付が開始される予定です。

ローカル5Gの周波数と自営BWA

出典: 総務省資料「5Gの普及展開に向けた取り組み」より抜粋、筆者が一部編集

今回ローカル5Gと併せて、LTEを自営で構築できるいわばプライベートLTEともいうべき自営BWA(地域広帯域移動無線アクセスシステム)が制度化されました。
公衆網の5Gは既存の4Gのインフラを活用するNSA(5G NR と4Gのネットワークの組み合わせての運用)で開始され、その後SA(5GNRのみでの運用)に移行すると想定されていますが、ローカル5Gもまた2020年6月に予定されている5Gのリリース16でSAの仕様が完成するまではNSAで構築することになります。そのNSAの構成で必要なアンカーバンドと呼ばれる4Gのネットワークの選択肢として総務省が挙げているのが自営BWAでの4Gの開局、携帯事業者または地域BWA事業者の4Gネットワークの利用です。自営BWAはTDDと呼ばれる5Gと親和性の高い方式が採用されていることも一因と思われます。2008年に導入された地域BWAは公共サービス向けシステムで、この地域BWA用周波数で使用されていない帯域を自営BWAが利用できるとされています。

ローカル5Gの強み

ローカル5Gの活用が有望視されている工場の現場で長年採用されてきたWi-Fi®が新規格Wi-Fi6®の登場で最大9.6Gpsとローカル5Gとほぼ遜色のない通信速度を実現できるようになりましたが、セキュリティと通信の安定性ではローカル5Gが圧倒的な強さを発揮します。
公衆網から切り離され、外部からの不正アクセスや情報漏えいのリスクが低い点で両者は共通しているものの、SSIDとパスワードで認証するWi-Fi®に対し、ローカル5GではAPN(Access Point Network)とパスワードでの認証に加え、SIMカードでの認証も行うことでより強固なセキュリティが確保できるといえます。特に28GHz帯を利用したローカル5Gの場合は、遠くに電波が届きにくいミリ波の特性ゆえ、敷地・建物外に電波が漏洩しにくく、漏洩しやすいWi-Fi®とセキュリティの差が一層際立ちます。免許不要な周波数を使うため、電波の干渉の対策が難しく、速度が低下したり接続が切れるなど通信が不安定になることの多いWi-Fi®に比べ、無線局の免許を基とするローカル5Gは他業者との干渉調整を行えば安定した通信環境を確保することができ、Wi-Fi®では不可能とされるミッションクリティカルな用途にも対応可能です。さらにはローカル5Gの超高速大容量、超高信頼/超低遅延の特性を活用すれば、デジタルツインの手法を用いてサイバー空間に工場の環境をリアルタイムで再現し、製造中の製品がいつどこで故障が起きるかを予測できタイムラグの短縮化も可能となります。生産ラインの無線化にとどまらず、生産性の画期的な向上をもたらすローカル5Gは活用次第で製造業の在り方を塗り替えるかもしれません。

ローカル5Gのユースケースと普及に向けた取り組み

ローカル5Gの代表的なユースケースは、既出の製造業以外にも超低遅延が実現する建設現場での重機等の遠隔操作、センサーやドローンを組み合わせての自動農場管理、イベント会場の通信の安定性を活かした警備・高速大容量の特性を発揮するユーザへの動画配信、防災の分野では自営のクローズドなネットワークゆえ実現できる緊急通信網、多数同時接続が可能にする災害時の人や物資の管理などさまざまな分野が想定されています。例えば免許申請開始直後6社が申請に名乗りを上げたケーブルテレビ業界では、同事業者51社が出資する地域ワイヤレスジャパンが総合商社と共同でローカル5Gの制度化に先立ち、2019年6月に国内初となるローカル5Gの屋内外実証実験を実施。テレワークでのVR会議や遠隔映像監視などのデモを通じ、ミリ波の電波特性の検証を行いました。ケーブルテレビ事業者は光ファイバーなどで行っていた契約者宅への引き込みを無線のローカル5Gに置き換え、加入や解約に伴う宅内工事やケーブル撤去作業を不要にすることで関連コストを削減し、サービスを利用しやすくすることを目指しています。

今後ローカル5Gの免許を取得する企業や団体が増えてくるに従い、全国的に開発実証が実施されることが予想されますが、総務省はそうした開発実証を推進するだけでなく、開発実証を経て地域課題解決モデルを確立し、さらには国内外への展開も視野にローカル5Gの普及に向け取り組む方針です。また日本政府も、「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実施のための43.8億円を含むインフラ整備等5G関連予算として計250億円を計上するほか、ローカル5Gの設備について法人税・所得税の特例措置として15%の税額控除又は30%の特別償却、固定資産税の特例措置として取得後3年間の課税標準を2分の1とするなど、予算・税制面でローカル5Gの普及を全面的に支援する姿勢を打ち出しています。

ローカル5Gの免許主体と電波法の手続き

総務省は「ローカル5G導入に関するガイドライン」でローカル5Gの基本を「自己の建物内」または「自己の土地内」での利用とした上で、建物や土地の所有者または建物や土地の所有者から依頼を受けたものが免許取得可能とし、携帯事業者によるローカル5Gの免許取得は不可としています。
ローカル5Gの無線局は商用局の場合特定無線設備と位置付けられ、基地局、端末ともに技適マークの対象です。28GHzを使用する公衆網の5G向け無線機器と一体的に登録証明機関より技術基準適合証明や工事設計認証を受けることができるとされており、ローカル5G向け基地局・端末と公衆網の5G向け基地局・端末との同時申請が可能になっています。またローカル5Gの端末は陸上移動局であり、特定無線局として包括免許の申請が可能です。
ローカル5G免許を申請する前には近隣のローカル5Gの免許人、および公衆網の5Gの周波数を割り当てられた携帯事業者との干渉調整を行う必要があり、また免許の申請ができるカバーエリアは自己土地利用、他者土地利用に関わらず必要最小限の範囲とされています。
ローカル5Gの免許は総務省の地方支分部局で全国に11か所に設置されている総合通信局に申請します。
ローカル5Gを自己のニーズのためにのみ構築する場合は電気通信事業法の登録・届け出は不要ですが、他者にローカル5Gを利用したサービスを提供する場合、サービス形態によっては登録認定機関へ電気通信事業法に係る技適マークの申請が必要となります。

参考:総務省ウェブサイト ローカル5Gのガイドライン

ビューローベリタスの取り組み

ビューローベリタスは登録証明機関として、各種無線機器に対する技適マーク取得のサポートおよび登録検査等事業者として、あらゆる無線局を対象とした登録点検や登録検査で実績を重ねてきた当社ならではの知見と経験を結集して、お客様のローカル5G導入を支援します。無線機器の選定や干渉調整を含む導入前の相談・調査から、書類作成や総務省との調整、登録点検など免許申請の代行、免許取得後のフォローまで一括して対応いたします。

消費財検査部門 EAW事業部 小倉 富規子

 


【お問い合わせ】
ビューローベリタスジャパン(株) 消費財検査部門 EAW事業部
TEL:045-949-6020
お問い合わせフォーム

【ビューローベリタスのサービス】
電気・電子製品向け試験・認証サービス