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CASBEE-ウェルネスオフィス:求められる建物の健康経営

2022-08-10

「CASBEE」(建築環境総合性能評価システム)は、建物を環境性能で評価し、格付けする手法です。評価する対象に応じ住宅系、建築系、街区系、都市系に評価に大別されています。CASBEE-ウェルネスオフィス(以下、CASBEE-WO)は、建築系のファミリー(図1)として2019年に開発されました。ESG(Environment、Social、Governance)投資に注目が集まるなか、認証数を伸ばしています(2022年5月末時点の認証数:61件)。
ここで、CASBEE-WOが開発された背景について改めて確認したいと思います。

 

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図1 CASBEEファミリー

図1 CASBEEファミリー

 

3つの社会的動向

CASBEE-WOが求められた背景には3つの社会的動向があると考えられています。

 

・背景1:不動産市場におけるESG投資の浸透
2006年に国連によりPRI(Principle for Responsible Investment:責任投資原則)やRPI(Responsible Property Investment:責任不動産投資)が公表されて以降の、不動産市場におけるESG投資への注目の高まり

・背景2:健康経営の社会的要求の高まり
日本政府が提唱した「働き方改革」によるビジネスの現場でRecruit「人材獲得」、Retention「人材確保」に対する経営者の考えの変化

・背景3:労働生産性の向上に向けた改革の必要性
日本の労働者生産性におけるOECD諸国中での平均水準の低さ(図2)
*日本 26位(2019年)

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図2 OECD加盟国の1人当たりのGDP(出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2020」)

図2 OECD加盟国の1人当たりのGDP
(出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2020」)


これらを背景に、CASBEE-WOは、「スマートウェルネスオフィス(ワーカーが健康で元気に幸せに働ける新しいオフィスモデル)」の概念に基づき開発されました(図3)。

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図3 スマートウェルネスが求める社会的背景

図3 スマートウェルネスオフィスが求める社会的背景

 

CASBEE-WOの概念

CASBEE-WOの概念は階層図(図4)で表現することができます。
スマートウェルネスオフィスの概念を網羅することを目的に、CASBEE-建築を補完しつつ共存共栄する評価ツールとして開発されました。
スマートウェルネスオフィスの概念図にはCASBEE-建築等の総合環境性能評価システムで評価される項目も含まれています。一方で、CASBEE-建築等には知的創造を向上させる項目は十分に含まれていません。建物の運営・管理・利用者そのものの取り組みなどを評価の対象として補完し開発された評価ツールがCASBEE-WOといえます。

 

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図4 スマートウェルネスオフィスの概念

図4 スマートウェルネスオフィスの概念

 

健康経営

経済産業省は、健康経営の浸透を目的とし、「健康経営オフィスレポート」を公表しています。その中でオフィス環境がワーカーのプレゼンティーズム、アブセンティーズムに影響を与えると記載しています。

  • プレゼンティーズム
    「欠勤にはいたっておらず勤務管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態」
  • アブセンティーズム
    「健康問題による仕事の欠勤(病欠)」

一方で、経済産業省で実施している「健康経営銘柄」の選定や「健康経営優良法人認定制度」などにおいて、オフィス環境はその選定、認定要件に含まれていません。オフィス環境がワーカーの健康状態に影響を与えているにもかかわらず、オフィス環境が健康経営の要件に含まれていないため、オフィスの健康への影響度を評価する体系が整備されていない状況でした。
CASBEE-WOは社会の新しい価値等を普及する際の情報基盤として、共通の物差しで建物の選別を行うことができる評価ツールであるといえるでしょう。

 

健康不動産への期待

健康に資する不動産(健康不動産)は利用者の便益を主たる目的としていますが、大多数を占める中小規模の不動産オーナーは事業の収益性を重視し、利用者への便益が見えづらい環境不動産への投資が進んでいるとはいえない状況です。一方で、建物の健康性への健康度が共通の評価体系で「見える化」されることで、評価結果がビル選定の判断材料となることが考えられます。健康貢献度の高い建物が市場で競争力を高め、賃料に影響を及ぼす可能性があります。

環境へ配慮した建物に対するCASBEE-建築やCASBEE-不動産の認証件数が増加するなか、ESG投資を推進するうえで、建物の健康経営に対する取り組みを評価するCASBEE-WOが、新たな評価軸として普及していくことが期待されます。

CASBEE-WOの評価項目内容は、コラム「CASBEE-ウェルネスオフィス 評価項目」も併せてご参照ください。

出典:
一般財団法人 住宅・建築SDGs推進センター「CASBEE-ウェルネスオフィス」評価マニュアル」
公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2020」

技術監査事業部 佐々木 輝

 


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