
栄養成分分析を実施する際の留意事項や注意点
栄養成分分析は、検査目的・検査部位の指定、試験法の選択・項目ごとの留意事項により、求められる結果数値が異なります。このため、検査実施前に依頼者と検査員との間でこれらのポイントを確認し、目的に沿った検査を実施、共通認識のもとに検査結果を導き出すことが重要です。
検査目的
栄養表示 |
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食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン(消費者庁)により表示すべき項目の確認(製品に表示すべき成分の実際の測定値)。 |
品質管理 |
日本食品標準成分表 七、八訂(文部科学省)との違いを確認 |
輸出向け |
各国の成分項目に合わせた項目の分析(例:飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、頃レステロール、糖類等) |
検査部位の指定
総量 |
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パッケージ内のすべてを検査対象とする |
固形 |
液汁が多少ある場合に液汁を除き、固形物のみ検査対象とする |
可食部 |
食品の食べる部分(魚の場合、骨、ヒレ、内臓等を除く(缶詰なら骨、ヒレも可食部)など、食べない(食べられない)部分を除く |
茶 |
例えば90℃で30秒のお湯に茶葉を浸出した液について |
試験法の選択
「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)別添 栄養成分等の分析法等」、「日本食品標準成分表分析マニュアル」にある、食品ごとに適用すべき試験法で実施します。特に、水分、脂質については複数の試験法があり、食品の種類による適切な試験法の選択が必要となります。
検査項目ごとの留意事項
水分 |
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アルコール、酢酸などの揮発性物質を含む食品は、別途測定して差し引く場合があります。 |
たんぱく質 |
含窒素化合物を含む以下の食品については、別途測定して補正する場合があります。 |
炭水化物 |
タンニン、カフェイン、テオブロミンはエネルギーとして利用されないため、これらの成分を多く含む食品の場合、別途測定し、炭水化物量から差し引く場合があります。 |
食物繊維 |
難消化性デキストリン等の低分子水溶性食物繊維を添加している食品は酵素-HPLC法を適用します。(通常は酵素重量法) |
上記の項目を確認のうえ検査を実施。以下の各試験項目における概要と注意点を踏まえ、結果に反映します。
≪水分≫
常圧加熱乾燥法・減圧加熱乾燥法・カールフィッシャー法・蒸留法等の試験法があります。
乾燥法および蒸留法においては、水分以外の揮発成分(アルコール類、酢酸などの揮発酸)が含まれる場合、これらも水分として測り込まれるため、別途定量して補正する必要があります。カールフィッシャー法は、水とヨウ素の反応を利用するため、アスコルビン酸やアルデヒドなど還元力が強くヨウ素を消費する成分を含む食品には適していません。
≪たんぱく質≫
【ケルダール法】
硫酸を加えて加熱することにより、たんぱく質に含まれる窒素をNH3とした後、水酸化ナトリウムを加えて蒸留します。捕集液について滴定し、窒素(N)量を求め、窒素-たんぱく質換算係数を乗じて、たんぱく質の量を算出します。換算係数には一般的には6.25が用いられますが、食品によって異なる係数が設定されます(乳類:6.38、調味料、香辛料:5.71等)。
たんぱく質以外の窒素成分を豊富に含む食品では、高めに定量される可能性があります(白子(核酸)、大豆レシチン含有食品(レシチン)、緑茶・紅茶・コーヒー(カフェイン)、カカオ(テオブロミン))。カフェインおよびテオブロミンについては、これらを別途定量して補正することが可能です。また、硝酸態窒素を多く含む野菜類は、サリチル酸添加ケルダール法により全窒素量を差し引いてから換算係数を乗じます。
【燃焼法】
高温チャンバ内で燃焼させて、窒素を分離させ測定します。ケルダール法と同様の算出方法によりたんぱく質量を算出します。ケルダール法に比べて短時間で測定可能となり、現在のスタンダードはこの方法となりました。
≪脂質≫
【エーテル抽出法】
比較的脂質含量が高く、組織成分と結合している脂質が少なく、かつ乾燥時粉末あるいは容易に粉砕しうる状態にある食品に適用します。このため、試料を直接粉砕するかあるいは適当な前処理を行い、水分などを除去し、脂質を抽出しやすい乾燥状態にした後、ソクスレー抽出器を用いて抽出します。
【クロロホルム・メタノール混液抽出法】
大豆および大豆加工品(みそ類、納豆類は除く)、卵類のように、リン脂質などの極性脂質を含む食品に適用します。クロロホルム・メタノール混液を加えて還流することにより脂質を抽出します。
【酸分解法】
穀類、パン、マカロニ類、いも、でん粉類(複合脂質を多く含む食品)に適用します。塩酸を加え、加熱分解した後、エーテル・石油エーテル混液により抽出します。
【レーゼ・ゴットリーブ】
乳および乳製品に適用します。アンモニア水を加えて脂肪球を分散させ、エーテルおよび石油エーテルにより抽出します。
【ゲルベル法】
乳等省令で規定された試験法であり、乳および乳製品に適用します。ゲルベル乳指針により測定します。
【酸・アンモニア分液法】
乳等省令で規定された試験法であり、チーズに適用します。リョーリッヒ管により測定します。
【液液分配法】
しょうゆ、食酢、つゆ類に適用します。エーテルおよび石油エーテルにより抽出します。
≪炭水化物≫
100-(水分+たんぱく質+脂質+灰分)により算出します。
≪食物繊維≫
【酵素-重量法(栄養表示基準)】
試料を3種類の酵素で処理した後、4倍量のエタノールにより沈殿を生じさせ、これを吸引ろ過して得た残渣を乾燥させた後に秤量します。秤量後の残渣についてたんぱく質および灰分を定量し、秤量値からこれらの値を除いた分を食物繊維量とします。
【酵素-HPLC法(栄養表示基準)】
酵素重量法で測定されない低分子水溶性食物繊維(難消化性デキストリン、ポリデキストロース等)を添加した食品に適用します。
酵素重量法で生じたろ液について、イオン交換樹脂によりたんぱく質、有機酸および無機塩類を除去した後、HPLCにより三糖類以上の画分を測定し、酵素重量法の結果と合計して食物繊維量とします。
【酵素-重量法(水溶性、不溶性、総量)(日本食品標準成分表)】
試料を3種類の酵素で処理した後、吸引ろ過し、その残渣を乾燥させた後に秤量します。秤量後の残渣についてたんぱく質および灰分を定量し、秤量値からこれらの値を除いた分を不溶性食物繊維とします。
一方、ろ液に約4倍量のエタノールを加えて沈殿を生じさせ、吸引ろ過し、その残渣を乾燥させた後に秤量します。秤量後の残渣についてたんぱく質および灰分を定量し、秤量値からこれらの値を除いた分を水溶性食物繊維量とし、不溶性と水溶性の合算値を総量とします。
食物繊維の分析方法および対象物質 |
酵素-重量法(AOAC985.29,991.43,991.42,993.19) |
高分子水溶性食物繊維…ペクチン、グアーガム、グルコマンナン、アルギン酸等 |
酵素-HPLC法(AOAC2001.03) |
レジスタントスターチ |
AOAC2009.01,2011.25 |
≪糖質≫
栄養表示基準:100-(水分+たんぱく質+脂質+食物繊維+灰分)により算出します。
≪糖類≫
単糖類および二糖類を含み、糖アルコールは含みません。試験法はGC法またはHPLC法により、個別に定量するものであり、しょ糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖および乳糖を対象とする場合が多い。米国の栄養表示法では、これら5種類に加え、ガラクトースを含めた6種類の総和を糖類として表示することとされています。
≪エネルギー≫
生鮮食品は、日本食品標準分析表に示させているエネルギー換算係数により算出し、加工食品は、栄養基準に基づき、修正アトウォーター法により算出することが一般的です。
【修正アトウォーター法】
- たんぱく質4kcal/g、脂質9 kcal/g、炭水化物4 kcal/g
- アルコール7 kcal/g、有機酸3 kcal/g
- タンニン、カフェイン、テオブロミンはエネルギーとして利用されないため、これらの成分を多く含む食品の場合、別途測定し、炭水化物量から差し引く場合があります。
- 炭水化物に代えて糖質と食物繊維の含有量を記載する場合、糖質は4 kcal/gとして計算します。食物繊維については成分ごとに換算係数が取り決められていましたが、一般的になっておらず、2kcal/gを適用することが多くなっています。
ビューローベリタスエフイーエーシーでは、食品ごとに実施すべき適切な方法を判断いたします。試験法のご指定があれば、その試験法にて分析を行うことも可能です。
また栄養成分分析を含め、多様な検査項目に対応しておりますので、どのような検査を行なったらよいか分からないなど、疑問やご不明な点がございましたら、ぜひお問い合わせください。
参考ウェブサイト:
消費者庁 栄養成分表示について
文部科学省 食品成分データベース
ビューローベリタスエフイーエーシー株式会社 検査部 奥本 啓之
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ビューローベリタスエフイーエーシー(株) 食品検査事業部 横浜分析センター
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