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建築図面

建築基準法施行令の一部を改正する政令案について(概要)

2019-12-10

※国土交通省「建築基準法施行令の一部を改正する政令案について(概要)」より抜粋・一部加筆

1. 背景

近年の建築技術に関する研究開発の進展や技術的知見の蓄積に伴い、火災が発生した時に、火災の拡大を防ぎ、建築物における在館者を安全に避難させることを目的とした防火・避難関係規定について、安全性の確保を前提としつつ、建築物の特性に応じた基準の設定や既存の規定の合理化が可能となりました。このことを踏まえ、建築基準法施行令(昭和25年政令第338号。以下「令」という。)における必要な改正を行うことになりました。その政令改正案の概要のうち、防火・避難関係規定の合理化についてご紹介します。

2. 改正の概要

(1)防火・避難関係規定の合理化

① 窓その他の開口部を有しない居室の範囲(令第111条第1項関係)

建築基準法(昭和25年法律第201号。以下「法」という。)第35条の3の規定により、その区画する主要構造部を耐火構造とし、又は不燃材料で造らなければならない窓その他の開口部を有しない居室から、避難階又は避難階の直上階若しくは直下階の居室その他の居室であって、避難上支障がないものとして国土交通大臣が定める基準に適合するものを除くこととなります。

② 吹抜き等の空間を設けた場合における防火区画(面積区画)(令第112条第1項関係)

現行では、主要構造部を耐火構造とした建築物等については、1,500m²ごと(スプリンクラー設備等を設置した場合は3,000m²ごと)に耐火構造の壁等又は特定防火設備で区画をしなければならないこととされています。一方、本規制には代替措置が置かれていないため、実際にはアトリウムのような大空間があり、延焼防止を確保することができる場合であっても、一律に区画することを求められています。
面積区画の目的は、建築物の内部における「火熱」による他の居室への延焼の防止です。したがって、火炎が到達しない場合や熱輻射の影響を及ぼさないなど、建築物の部分から当該建築物の他の部分への延焼を有効に防止することができる場合には、面積区画を求めることとしなくとも、本規制の目的を達成することができるといえます。このことから、主要構造部を耐火構造とした建築物の二以上の部分が吹抜きとなっている部分その他の一定規模以上の空間に接する場合において、当該二以上の部分の構造が通常の火災時において相互に火熱による防火上有害な影響を及ぼさないものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものである場合においては、当該二以上の部分と当該空間とが特定防火設備で区画されているものとみなして、令第112条第1項の規定(*1)を適用することとなります。

(*1) 主要構造部を耐火構造とした建築物等については、1,500m²以内ごと(スプリンクラー設備等を設置した場合は3,000m²以内ごと)に1時間準耐火基準に適合する準耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備(1時間遮炎性能)により区画しなければなりません。

吹抜き等の空間を設けた場合における防火区画

出典:国土交通省「平成30年改正建築基準法に関する説明会テキスト」

③ 警報設備の設置等の措置が講じられた場合における防火区画(異種用途区画)(令第112条第17項関係)

国土交通大臣が定める基準に従い、警報設備を設置することその他これに準ずる措置が講じられている場合には、異種用途区画(*2)を不要とすることとなります。

(*2) 一の建築物内に複数の異なる用途が存在している場合、一定の特殊建築物の用途とその他の用途との境界部分を区画しなければなりません。

④ 二以上の直通階段の設置基準(令第121条第1項関係)

背景として、二以上の直通階段の設置義務については、「用途」及び「階面積」に応じて定められており、それ以外の設計上の措置として建築物全体の規模やスプリンクラー設備等が評されていません。特に小規模な福祉施設については、2階建て・3階建てであっても、階面積が50m²超となる場合には、一律に2以上の直通階段が必要とされています。そこで、改正内容としては、令第121条第1項第4号(病院、診療所又は児童福祉施設等の用途に供する階(病室等の床面積が50m²以上)への二以上の直通階段の設置)又は第5号(ホテル、旅館、下宿、共同住宅又は寄宿舎の用途に供する階(宿泊室等の床面積が100m²以上)への二以上の直通階段の設置)の規定は、階数が3以下で延べ面積が200m²未満の建築物であって階段の部分が以下ⅰ、ⅱにより区画されているもの又は令第112条第14項の国土交通大臣が定める建築物(火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物)であるものの階については、適用しないこととなります。

ⅰ.避難階以外の階を病院若しくは診療所(病室の床面積が50m²以上)又は児童福祉施設等(入所者の寝室があるもので、当該用途に供する居室の床面積の合計が50m²以上)の用途に供する建築物については、間仕切壁又は法第2条第9号の2ロに規定する防火設備(居室、倉庫等にスプリンクラー設備を設けた場合には十分間防火設備(火災による火熱が加えられた場合に10分間当該加熱面以外に火炎を出さないもの(第112条第11項で定義))で区画

ⅱ.ⅰ以外の建築物については、間仕切壁又は戸(ふすま、障子その他これらに類するものを除く。)で区画

二以上の直通階段の設置基準

出典:国土交通省「平成30年改正建築基準法に関する説明会テキスト」

⑤ 共同住宅のメゾネット住戸の床面積の算定方法(令第123条の2関係)

6階以上の階で居室を有するもの(避難階段があるもの等を除く。)について二以上の直通階段の設置が必要であるとしている令第121条第1項第6号イの適用については、主要構造部を準耐火構造とした共同住宅のメゾネット住戸(*3)の階のうち出入口のある階以外の階を出入口のある階にあるものとみなすこととなります。

(*3) 共同住宅の住戸でその階数が2又は3であり、かつ、出入口が1の階のみにあるもの

⑥ 排煙設備の設置基準(令第126条の2第2項及び第137条の14第3号関係)

現行制度では、「開口部のない準耐火構造の床・壁」又は「遮煙性能を有する防火設備」で区画されている建築物の部分については、相互に火災の影響(煙・ガスの流入)を受けにくいことから、それぞれを別の建築物とみなして、第5章第3節(排煙設備)の規定を適用することとしています。一方、別棟みなしの条件がこれらに限定されているため、例えば、アトリウムを介して接続する建築物(*4)のように、各棟において発生する煙を十分に蓄積できるような空間で区画されている場合であっても、1棟として扱われることとなっています。排煙規定の目的は、建築物の内部における「煙・ガス」による影響の防止です。つまり、建築物の一方の部分(図1:A棟)で煙が発生しても、他方(図1:B棟)に煙が侵入しない場合には、排煙規定の適用上はそれぞれ別の建築物とみなして排煙規定を適用すべきであり、建築物の二以上の部分の構造が通常の火災時において相互に煙又はガスによる避難上有害な影響を及ぼさないものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものである場合における当該部分については、それぞれを別の建築物とみなして、令第5章第3節(排煙設備)の規定を適用することとなります。
また、令第137条の14第3号(法第86条の7第2項により既存不適格建築物の増築等をする場合に排煙設 備に関する現行基準を適用しない独立部分)についても、同様に措置されることとなります。

(*4) 法律上は一棟扱いだが、実質的には複数棟から構成される建築物

排煙設備の設置基準

出典:国土交通省「平成30年改正建築基準法に関する説明会テキスト」

⑦ 敷地内に設けるべき通路の幅員(令第128条関係)

現行では、法第35条に掲げる建築物(*5)の敷地内には、屋外避難階段及び避難の用に供する出口(第125条第1項の出口)から、道等の空地に通ずる幅員1.5m以上の通路を設けなければなりません。敷地内通路については、建築物から在館者が一斉に避難した場合に、通路の途中で滞留が生じ、安全な空地に至るまでの避難に支障を来すことがないようにするために、幅員を1.5m以上とすることとしています。したがって、小規模な建築物であれば在館者が少ないことから、滞留が発生しにくく、必ずしも敷地内通路の幅員を1.5m以上としなくとも本規定の目的を達成することができます。これまでの歩行実験等から得られた知見を踏まえると、具体的には、階数3以下で延べ面積が200m²未満の建築物であれば、敷地内通路の幅員を90cm以上確保することで、避難中に通路での滞留が発生しないことが分かっているため、階数が3以下で延べ面積が200m²未満の建築物については、敷地内の通路の幅員を90cm 以上確保すればよいこととなります。

(*5) ①法別表第一(い)欄(一)項~(四)項に掲げる用途に供する特殊建築物、②階数3以上の建築物、③第116条の2に規定する無窓居室を有する建築物、④延べ面積1,000m²超の建築物

敷地内に設けるべき通路の幅員

出典:国土交通省「平成30年改正建築基準法に関する説明会テキスト」

⑧ 特殊建築物等の内装制限(令第128条の5第7項関係)

令第128条の5第1項から第6項までの規定(*6)は、火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分として、床面積、天井の高さ並びに消火設備及び排煙設備の設置の状況及び構造を考慮して国土交通大臣が定めるものについては、適用しないこととなります。

(*6) その規模や用途等に応じ、特殊建築物等の内装を難燃材料又は準不燃材料等一定の仕上げによるものにしなければなりません。

⑨ 避難安全検証法(令第129条及び第129条の2関係)

背景として、避難安全検証法は、煙による避難上の支障が生じないことを確かめた場合には、内装制限や排煙設備などの仕様的な避難関係規定の適合を求めないとするものですが、現行制度において2つの課題がありました。

  • 「建築物の階」又は「建築物全体」での検証のみが規定されているため、一の階における部分的な検証を行うことができず、特定の室のみの安全検証など柔軟な対応ができなかった。
  • 「煙の降下時間」と「在館者の避難時間」を比較する方法では、煙降下時間を時刻歴に応じて算出することが困難であるため、火盛り期を想定した煙の発生速度をもとにした計算を行わざるを得ず、小規模な居室を対象としたシュミレーションでは、きわめて短時間で煙が効果することとなり、実態よりも過度に厳しい条件が得られる。

これらを踏まえて次に2つの追加と1つの見直しがなされることになりました。

(a) 区画避難安全検証法の追加

建築物の区画部分(*7)について、避難安全性能(*8)を検証された場合に、当該区画部分について、排煙設備(令第 126条の2及び令第126条の3)及び内装制限(令第128条の5)に関する規定の適用を除外することができることとなります。

(*7) 一の階にある居室その他の建築物の部分で、準耐火構造の床若しくは壁又は法第2条第9号の2ロに規定する防火設備で令第112条第18項第2号に規定する構造であるもので区画された部分(二以上の階にわたって区画されたものを除く)。
(*8) 当該区画部分で火災が発生した場合に当該区画部分からの避難が終了するまでの間、煙又はガスが避難上支障のある高さまで降下しないこととなります。

(b) 避難に要する時間の計算方法の見直し

「階避難安全検証法」及び「全館避難安全検証法」について、各室ごとに当該室で火災が発生した際に避難に要する時間について、避難開始までの時間、出口までの歩行時間及び出口の通過時間について、個別ではなく一体として計算する方法について国土交通大臣が定められることとなります。また、新設する「区画避難安全検証法」についても同様に規定することとなります。

(c) 煙の高さによる避難安全検証法の追加

全ての者の避難を終了するまでに要する時間が経過した時における火災により生じた煙又はガスの高さが、避難上支障のある高さを下回らないものであることを確かめる検証方法を、「階避難安全検証法」、「全館避難安全検証法」及び新設する「区画避難安全検証法」として追加することとなります。

煙の高さによる避難安全検証法の追加

※1 第2項(階数3以上・延べ面積500m²超の建築物)、第6項(調理室等)、第7項(適用除外)、階段に係る部分を除く。
※2 屋内バルコニー又は付室に通ずる出入口に係る部分に限る。

(○は適用除外を表す)

出典:国土交通省「平成30年改正建築基準法に関する説明会テキスト」

3. 今後のスケジュール(予定)

  • 公布:令和元年12月
  • 施行:令和2年4月1日

建築認証事業本部 本多 徹

 


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