アレルギー物質を含む食品の検査の流れ(PCR法)
(更新)
今回は、消費者庁が平成22(2010)年9月に通知した「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」より、アレルギー物質を含む食品の定性検査法の一つであるPCR法について検査の流れを紹介します。
定性検査法には、ウエスタンブロット法やPCR法があり、一般に、卵、牛乳についてはウエスタンブロット法が用いられ、小麦、そば、えび、かに、落花生についてはPCR法、くるみにはリアルタイムPCR法が用いられます。
1.粉砕とサンプリング
検体をミルサー、フードカッター等を使用し、均一に粉砕し、調製試料とします。器具は、コンタミネーション防止のため、中性洗剤で洗浄後、一晩アルカリ洗剤につけた専用のものを用います。
調製試料2gを50mlのプラスチック製遠沈管2本に量り採り、以降の操作は2本並列で行います。
2.DNAの抽出精製
抽出方法は3種類記載されています。
(1) シリカゲル膜タイプキット法
主に加工程度の低い検体に適用が可能。本法によりDNAが抽出されない調製試料については、(2)に示すイオン交換樹脂タイプキット法を用いたDNA抽出を試みます。
(2) イオン交換樹脂タイプキット法
主に加工程度の高い検体に適用が可能。本法によりDNAが抽出されない 調製試料については、(1)に示したシリカゲル膜タイプキット法を用いたDNA抽出を試みます。
(3) CTAB法:界面活性剤セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)とフェノール/クロロホルム混合液を用いてDNAを抽出精製する方法
応用範囲が広く、純度の高いDNAを得ることができる方法ですが、クロロホルム等の有害試薬、及び煩雑な精製操作が必要であるため、シリカゲル膜タイプキット法ならびにイオン交換樹脂タイプキット法を実施し、その結果、充分量のDNAが抽出できない場合に実施します。
3.DNAの精製度の確認と定量
分光光度計を用いてDNAの精製度と濃度を測定し、希釈をしてDNA試料液とします。
4.定性PCR法
PCRとはポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)の略で、プライマーと呼ばれるオリゴヌクレオチドを用いて、抽出したDNAのある特定の部位だけを増幅する方法です。定性PCR法においては、その増幅産物を電気泳動法により分離、染色することで検出します。
PCR増幅は、まず植物DNA検出用プライマー対または動物DNA検出用プライマー対を用いて行います。これらの標的遺伝子は植物界あるいは動物界に広く分布し、高度に保存されている遺伝子が選定されており、広く植物DNAあるいは動物DNAを検知することを目的としています。植物DNA検出用プライマー対あるいは動物DNA検出用プライマー対の選択は検査対象検体の原材料の特性に応じて行います。
いずれのプライマーにおいても、2本並列でPCRを行い、その結果により以降の操作が3つのパターンに分かれます。
- 2本とも増幅バンドを検出した
→両方のDNA試料液とも特定原材料検出用プライマー対を用いてPCRを行います。 - 1本だけ増幅バンドを検出した
→検出したDNA試料液のみ使用し、2点で特定原材料検出用プライマー対を用いてPCRを行います。 - 2本とも増幅バンドが検出されなかった
→2.DNAの抽出精製に戻り、異なる抽出精製法でやり直します
5.結果の判定
4-(1)、(2)において特定原材料検出用プライマー対を用いてPCRを行なった結果、増幅バンドが1本または2本検出された場合は「陽性」、2本とも検出されなかった場合は「陰性」となります。
4-(3)において、抽出し直した結果、4-(1)または(2)に該当すれば上記の判定をし、3種類の抽出方法でも結果が変わらなければ当該検査対象検体からのDNA抽出が不可能であり、PCR法による「検知不能」と判断します。
通知法記載の“表示義務がある特定原材料8品目”のほかに、“表示推奨品目”についても検査を行なっています。
検査に関する詳細は、“食物アレルギー含有検査” のページをご覧ください。
食品検査事業部 佐野 有子
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