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SMARTSHIPS-海運にスマートなコラボレーションを

1. スマートシップ to be or not to be.

海運業界はスマートシップに大きな期待を寄せています。船舶へスマート機能を導入することで、モニタリング機能や透明性の向上が可能となり、海運業での持続可能化のカギを握るものと思われます。また、排出量の削減、効率化、メンテナンスの向上といった効果を通じて、国際基準の遵守や運航コストの削減にも貢献するでしょう。一方、このような大きなメリットがあるにもかかわらず、スマート機能導入の道筋には、依然として複雑な問題が立ちふさがっています。

スマートシップをめぐる現在進行中の議論で特徴的なのは、多くの用語が溢れかえっていることです。しかも、複数の用語がしばしば同義で使用されていますが、それが必ずしも正しくないのが問題です。自動化(automation)や自律化(autonomy)、IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、AI(Artificial Intelligence)など、「スマートシップ」について国際的な合意を得た定義がないため、その間隙を突くように、こうした技術用語が飛び交っています。

これらのデジタル技術は、スマート化を達成する方法そのものではなく、あくまでデジタル化のために用いる技術にすぎず、混乱の原因となっています。

スマートシップの核心はデータです。重要なのは、データをどのように収集、通信、処理、共有、活用するかといった点にあります。IoTやAIなどの先進技術あるいは流行語は、決して目的そのものではありませんし、そう考えられてもいけないものです。これらはあくまで、特定の明確に定義されたニーズに対応するためのツールなのです。そのニーズも、海運業界では関係者によってさまざまです。確かに自律性の程度はスマートシップ化の要件の一部として勘案されますが、全てのスマートシップが自律化しているわけではなく、また、そうであることが必須でもありません。船舶機能のスマート化には、万能のアプローチというものは存在しません。

 

2. スマートシップをスマートに

現在、スマートシップとは、どんな要素から構成される船舶を指すのか、国際的な認知を得た定義は存在しません。実際インターネットで検索してみると、「スマートシップ」は、特定の種類の船を指すのではなく、さまざまなコンセプトや技術をカバーする概念のようです。また、スマートシップといった場合に、最も一般的には、自律型船舶のことだと思われがちな点も、混乱に拍車をかけています。こうした各自の思い込みのため、種々多様なニュアンスや複雑さが生じているようです。別の言い方をするなら、スマートシップは、何かふさわしくない特定の要素もない代わりに、網羅しなければならない一連の要素群もないということになります。

ブリタニカ百科辞典によると「スマート」には次のような意味があります。

  • 知性がある、あるいは、判断力がある。
  • 学習や考察することに優れている。

これらの能力は、海運業とどう関係してくるのでしょうか?

この数十年来、船主は、保有する船舶や陸上の施設にデジタル技術をどんどん導入しており、海運業界のデジタル化は急速に進んでいます。船舶の複雑な機関のうち、多くの部分でデジタル化がなされています(例︓パワーマネジメントシステム、ダイナミックポジショニング、電力エンジン、統合ナビゲーションシステム、など)。これらの諸機関では、内蔵されたコンピュータが、船舶の性能に関するデータを生成します。しかし、データはデータに過ぎません。船主は、収集したデータを加工し、諸機関や船舶のマネージメントで使える知識や判断材料といった情報へと転換しなければなりません。そうすることで初めて船はスマート化することができるのです。

さらに最近では、スマートシップの範囲は、自律航行船にまで広がっています。自律航行船の特徴は、スピーディーなデータ収集と分析にあり、航行しながら取るべき指針を瞬時に決定することができます。 自律性の程度にはいくつかのレベルがありますが、収集できるデータの量が増え、また、学習能力が高まるに伴って、このシステムの自律性は高度化していきます。

したがって、「スマートシップ」の「スマート化」は、以下2点と関連します。

  1. 船主や管理者は、スマートシップから収集したデータをどう活用するのか
  2. 船の諸機関は、その同じデータをどう使って自律航行するのか

 

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図:スマート化の対象となる船舶のデータ ©SALT Technologies, IStock/kyonntra

図:スマート化の対象となる船舶のデータ ©SALT Technologies, IStock/kyonntra

 

3. スマート化の活用

データの収集・処理・解釈を正しく行えば、つまり、データをユーザーが使いやすい形で表示することができれば、データは強力なツールになります。データは情報となり、船主や船舶管理者は、船舶のベストな管理方法や、その他の問題について重要な決定を下すことができるようになります。スマート化の向上により、海運は、より効率的に、より安全に、より持続的になっていくでしょう。

 

3.1 運用コストの削減

世界的に船舶設備のデジタル化が進むに伴い、船舶のスマート化のレベルも、ここ数十年で急速に高まってきています。多くの船舶で、船体の状態を示すデータを常時表示するセンサーが装備されるようになりました。

これらのデータを活用できれば、船の管理者は船舶システムに関し、所与のタイミングにおけるパフォーマンスを把握するのはもちろんのこと、それを超えた応用もできるようになるでしょう。データは、分析・解析されて、船舶の状態をデジタル・モニタリングする情報となりますが、船舶システムのメンテナンスのスケジュールを立てる際にも活用できます。例えば、ある機械部品の動作が悪くなり交換時期が近づくと、センサーのデータが知らせます。この方法によって、機械の停止する時間が大幅に短縮され、船舶が傭船されなくなるリスクを防ぐことができます。また、部品交換も、規定や一定間隔のスケジュールに基づいてではなく、必要になったら行えばよくなるため、スペア部品の消費も抑えることができます。

さらに、データ解析によって、遠隔操作を効率的に行えるようになります。船のデータが陸上へと送信され、リクエスト(トラブル発生など)を受けた陸側のオペレーターは、遠隔操作で船の乗組員をバックアップできます。遠隔操作の主な利点は、船へ第三者を送る際の時間やロジスティックにかかるコストを削減できることです。

データ解析は、海運業界に新たなビジネスモデルを生むチャンスでもあります。例えば、造船所や機器メーカーといった関係者は、データ・モニタリング・センターの設置を進めており、ここに登録すると遠隔監視サービスを受けることができます。このサービスには、通知機能のカスタマイズ、遠隔診断、テクニカル・サポート、パフォーマンス・ダッシュボードなどが含まれます。

結論として、船のデータを加工して得られる情報の有効活用は、船の稼働率の向上にあたり非常に重要ということがいえるかと思います。一部のオペレーションの遠隔での実施や、「ニーズ・ベース」でのメンテナンスの計画などにより、船舶の管理者は、問題を予測し、早期に対応策を立てることができるようになるため、ダウン・タイムとコスト削減につながるからです。

 

3.2 より効率的に

自律的にデータを生成するシステムの導入は、通知の効率性や正確性の面でも大きなメリットをもたらします。これらのシステムの代表的なものに、電子日次報告書やログブック(例:機関室、船橋、貨物などについて)がありますが、データの入力と共有を簡単に行うことができます。さらに、今後スマート化が進んだ船では、これらのシステムがデータの入力を自動的に行うようになる可能性さえあります。

電子ログ(eLog)と電子レポートは、船主や船舶管理者にとって多くのメリットがあります。調達・保管・引き渡しなどで紙ベースの管理をなくすだけでなく、報告プロセスをより効率的で信頼性の高いものにするため、潜在的なミスや不正を減らすことが可能です。また、企業・チャーター業者・ポートステートコントロール(PSC)・旗国や寄港地の当局の間において、データの同期や共有を確立することも可能です。こうしたシステムは、より効率的なプランニングとコミュニケーションへの道を開いていくと思われます。

最後に、データロガーやAPI(Application Programming Interfaces)の実装は、機器メーカーのIoTと統合することによりデータを保管する方法、あるいは複数のソースから入力されたデータを自動的にクロスチェックする方法として、eLogに取って代わる可能性があります。信頼できるリアルタイムの正確なデータを得ることにより、機器メーカーは効率性を改善することができるでしょう。

 

3.3 より持続可能に

2013年以降、国際海事機関(IMO)は、船舶からの温室効果ガス(GHG)排出削減のためのロードマップの実施に取り組んでいます。
IMOは2050年ターゲットを定めていますが、そのための短期、中期、長期それぞれの施策が検討され、実行しています。

船主や船舶管理者が、IMOの規制が定めるGHG削減目標を達成するためには、さまざまなオプションが選択可能ですが、その全てを短期的にすぐに採用できるわけではありません。短期的には、主に運航の効率を最適化するといったOPEXベースのソリューションにより、船舶運航者のGHG削減をサポートすることが可能だと思われます。

そうした短期のソリューションを実施して時間を稼いでいる間に、業界関係者は、CAPEXベースのより長期的なソリューションの導入に向けて動くことができます。長期的なソリューションには、船体の新しい設計(あるいは改造)、新しいエンジンや電力システム(あるいは改造)、代替エネルギーの採用などが含まれます。

船のパフォーマンスに主軸を置いたデジタル・ソリューションを導入すると、提供されるデータのフローは増大します。つまり、スマートシップが持続可能化への移行の時代において重要な役割を果たすことは明らかです。スマートシップのシステムのデータからは、航行計画(操船の最適化、天候に基づく航路選択など)から、船舶設備(トリム、プロペラ、蒸気プラントなど)まで、さまざまなカテゴリーにおける最適化に必須の情報が入手可能です。

 

参照:ビューローベリタスフランス本社発行 SMARTSHIPについてのテクノロジーレポート
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船級部門 山下 和夫

 

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