電力の脱炭素化で現在注目されている風力発電について浮体式洋上風力発電(FOW)と海外での市場動向を中心に解説します。

目次

1.電力の脱炭素化の一端を担う洋上風力発電

世界の気温上昇を産業革命以前と比較して2°Cより大幅に下回る水準に抑えるために、化石燃料による燃焼を削減する一方、長期的には気温上昇を1.5°Cに抑える手段を追求するというパリ協定の目標を達成するためには、電力生産の脱炭素化は重要な役割を果たします。この目標を達成するためには、2050年までに16TW(テラワット)の再生可能エネルギー設備を導入する必要があると予測する専門家もいます。Ocean Renewable Energy Action Coalition(OREAC)(*1)によると、これらのうち1.4TWの供給を洋上風力発電ファームが担うと予測されていますが(*1)、これは今後30年間で年間50GW(ギガワット)の新規洋上風力発電設備容量を追加することを意味しています。現在、世界全体で約35GWの洋上風力発電設備が設置されており、年間成長率は6GWであることを考慮すると、年間50GWの追加設備容量は野心的な目標ですが、洋上風力発電市場は加速的に発展しています。

2.洋上風力発電市場の拡大

過去20年間で洋上風力発電産業は最も有望な再生可能エネルギーの一つになりました。
しかし陸上風力発電と比べると開発の始まりは遅く、洋上風力発電が誕生して10年が経過した2009年においても、洋上風力発電設備は世界で導入された年間の風力発電設備のわずか1%にすぎませんでした(*2)。
これは主に物流面での課題によるものでしたが、技術が成熟し建設コストが次第に減少していく中で、洋上風力発電は足場を築き2020年までに世界の風力発電設備の10%を占めるまでに成長しました(*3)。市場予測によると、新たな地域に洋上風力発電の市場が出現し、成長が加速し続け、多様化すると見込まれています。
これまでの大半の洋上風力発電設備は固定型ですが、今後数十年の間に、浮体式洋上風力発電(FOW)の容量は増加すると予測されています。成熟に向けてまだ道半ばでありますが、浮体式洋上風力発電は深海域での実現を可能にするものとして着実に発展しています。FOWの将来性は、世界中で新興する浮体式洋上風力発電プロジェクトの増加に反映されています。
現在、FOWは水深250mまで設置することが可能であり、技術が成熟するにつれてFOWは水深1,000mまで設置できると見積もられています(*4)。

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洋上風力発電設備イメージ図

洋上風力発電設備イメージ図 
出典:Bureau Veritas Marine & Offshore Technology Report (September,2021 #9)
- OFFSHORE WIND - MOVING TO FLOATING, WITH TRUST

3.地域的な浮体式洋上浮力発電市場と傾向(*5)

3.1 欧州市場

欧州は1990年代の洋上風力発電の初期段階以来リードを続け、2020年には設備容量で最大の洋上風力発電市場を持ち全洋上風力発電設備の75%を占めていました。こうした設備を導入している欧州の主な市場は、2019年に風力発電設備全体の約70%を占めていたイギリス、ドイツ、デンマーク、ベルギーです。

これまでのところFOWでも欧州がリードしています。2019年時点で世界最多(70%)の浮体式洋上風力発電設備容量を有しており、総発電量は45MWでした。イギリスは引き続き欧州市場のトップですが、2020年のオークションと入札を見ると、フランスとドイツがFOWプロジェクトを支持し追随しています。特にフランスでは、スタートが遅れたにもかかわらず、現在4つの商業化前のプロジェクトが進行中です。

3.2 アメリカ市場

アメリカ市場では、風力発電の成長が著しく鈍化しています。主に、東海岸のいくつかの州の異なる法律による複雑な規制状況が原因です。しかし、2019年には洋上風力発電の調達目標が28.1GWに達し、2018年の9.1GWから大幅に増加し、アメリカにとって重要な飛躍となりました。アメリカにおける洋上風力発電の技術的可能性容量は2,000GWと見込まれています。

一方、アメリカの洋上風力発電市場におけるFOWのシェアは依然として小さいままです。
しかし、アメリカ西海岸とハワイ周辺では、主に水深に関して大きな可能性が確認されており、主要な国際的な業界関係者がカリフォルニア沖で多くのプロジェクトを検討しています。また、東海岸のメイン州は、Diamond Offshore Wind社およびRWE Renewables社と1億ドルのパートナーシップを結び、実物大のプロトタイプを製作しています。

3.3 東アジア市場

2016年以降、東アジアは洋上風力発電市場のシェアを伸ばしています。主に中国の積極的な動きによるものです。日本は2003年に最初の洋上風力発電所を建設しましたが、中国では政府の多額の補助金により2016年にようやく洋上風力発電が始まりました。その結果、東アジア諸国で洋上風力発電設備が設置され始めました。

産業に対する中国の補助金が減少する場合、台湾、ベトナム、日本、韓国などの他の市場は、年間導入量で中国を上回る可能性があります。特に日本と韓国はすでにFOWファームのための多くのプロジェクトを開始しており、国際的なパートナーの数が増えています。一方、中国では市場予測では浮体式洋上風力発電の実証プロジェクトは1件のみとなっています。

4.浮体式洋上風力発電(FOW)の導入が期待される環境と課題

FOWはまだ比較的初期の商業化前という段階にありますが、さまざまな業界関係者に多くの機会を提供しています。しかし、その他の新興市場と同様に多くの課題が残っています。ビューローベリタスなどの認証機関および船級協会は、技術開発の課題に取り組むお客様をサポートするうえで重要な役割を果たします。

4.1 導入が期待される環境

FOWの主な利点の一つは、底部固定式と比較して岸から離れたところに風力発電設備を設置できることです。洋上固定式洋上風力設備は、水深60メートル未満の浅瀬にしか設置できません。この限界を超えると、従来の着床式で海底に風力タービンを設置しなければならないため、建設費用が高くなり、あらゆる潜在的なエネルギーの増加を考慮しても効果が相殺されることになります。中国やイギリスのような長くて浅い沿岸地域を持つ国にとって、これは課題とはなりませんでした。しかし、アメリカの西海岸や韓国や日本の場合のように、海岸に沿って深海域を有する地域があります。これらの地域ではFOWの方がはるかに適切です。
また、FOWは風速の点でも大きな可能性を示しています。イギリスなどの世界の一部の地域では、沿岸と陸上の両方で高い風速を得ることができますが、一般的に風況は安定しており、海岸から離れるほど安定した発電が可能になります。したがってFOWは、海岸までの距離のコストの増加をより豊かな風力資源によって埋め合わすことのできる地域であれば展開の可能性が広がります。

4.2 技術的課題

今日まで風力タービン技術が成熟するには時間がかかりましたが、FOWタービンの基礎となる浮体式構造物はまだ開発の初期段階にあります。設備は過酷な海洋環境に耐え、25年以上の耐用年数にわたって機能するように設計されなければなりません。着床式洋上風力発電用に多くのタービンのデザインが既に試験されていますが、FOW適用のために最適化された浮体式基礎構造物および係留システムの設計は、流体力学的荷重と空気力学的荷重の結合により生じる複雑な荷重計算の要求を満たす必要があります。

ビューローベリタスのシミュレーションツール「OPERA」
2022年、ビューローベリタスは、浮体式洋上風力発電設備を中心とした浮体ユニットの認証のための新しいシミュレーションツール「OPERA」をリリースしました。OPERAは、係留システムからブレードまでの浮体式風力発電設備の全ての要素とあらゆる荷重について、完全に統合されたモデリングソリューションを提供します。

4.3 市場としての課題

浮体式風力発電がその潜在能力を十分に発揮するには、多くの市場課題も残っています。現在までのところ浮体構造物を含むFOW設備は、固定式設備と比較してコストがほぼ2倍と依然として高すぎます。標準化と工業化はこのようなコストの削減に重要な役割を果たすでしょう。
また、電気機器(ギアボックス、ブレード、電気ケーブル)と海洋ユニット(フローター、係留、動的ケーブル)を組み合わせた、浮体式風力発電所のハイブリッドな性質を考慮する必要があるため、設置は複雑となっています。

これらの障害を克服するには、異業種間のコラボレーションが不可欠です。たとえば、ここ数年の間に多くのオイル&ガスメジャーがFOW市場に参入し、公益事業会社や技術開発者と協力しています。オイル&ガスセクターの経験と戦略的能力は、FOW技術の開発者だけでなく、規制の枠組みの開発者にとっても非常に貴重なものとなっています。

4.4 浮体式洋上風力発電市場における船級協会のサポート

現在、認証は多くの風力発電事業者が採用しているプロセスですが、FOW技術は伝統的なものではなく、フローターと係留システムはオフショアの技術を活かした新しい技術領域です。
ビューローベリタスのような船級協会は、オフショアのオイル&ガスセクターにおいて洋上設備を認証する長い経験を持っており、旗国と密接に協力してプロジェクトを旗国の要件に適合させ、標準化を推進してきた経験があります。
ビューローベリタスでは、FOWの安全性を確保するために次のようなフロータや係留システムの適合性を評価するための基準や規則を既に整備しています。

  • 船級ガイダンスノートNI631:洋上再生可能エネルギー技術の認証スキームに関するガイダンスノート
    International Electrotechnical Commission(IEC)に従った構成部品の認証、型式承認、プロジェクト認証について定義しています。
  • 船級ガイダンスノートNI572:浮体式洋上風力発電設備の船級と認証に関するガイダンスノート
    FOWタービンを搭載するように設計された浮体式プラットフォームの船級業務と認証に関する具体的なガイダンスと推奨事項を提供し、水平軸または垂直軸を持つ単一または複数のタービンを搭載する浮体式プラットフォームに対応しています。
  • 船級ガイダンスノートNI604:面内および面外曲げによる係留システムの係留装置の疲労に関するガイダンスノート

また、船級協会が得た経験と専門知識は、FOWの技術革新の支援に大きく貢献できます。特に浮体構造物については、船級協会が基本承認(AIP)を提供し、既存の規則でカバーされていない革新的な設計を審査し、承認することができます。これに基づき、新しい技術の安全レベルが海洋産業のベストプラクティスに沿っていることを保証し、新しい技術基準として公表することができます。

またBV Solutions M&Oは、エンジニアリングと技術の専門知識を提供することを目的としたビューローベリタスの技術支援サービス部門であり、プロジェクトのリスク軽減に貢献できる幅広いリスクアセスメントを通じて顧客をサポートすることもできます。

参考:Bureau Veritas Marine & Offshore Technology Report (September,2021 #9) - OFFSHORE WIND - MOVING TO FLOATING, WITH TRUST
*1および*4. OREAC (2020), ‘The Power of our Ocean.’ 参照: https://gwec.net/wp-content/uploads/2020/12/OREAC-The-Power-of-Our-Ocean-Dec-2020-2.pdf
*2および*3 Global Wind Energy Council (2020)、‘Global Offshore Wind Report 2020,’p.5 参照
*5. 出典:Global Wind AtlasおよびQFWE

船級部門 山下 和夫


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