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船主のための「Well-to-Wake “生産井から航跡(航海)まで” 」
~ライフサイクルでの脱炭素を目指したアプローチ~

船主や船舶運航者にとって船舶燃料は、費用の総額の観点から重要なコストの投入です。すべての航海は陸上や海上での燃料生産から始まっており、海事産業の脱炭素化の複雑さの一端となっています。船主は船上の燃料消費だけでなく、燃料搭載までのプロセスにおいても持続可能性というビジョンを拡大し始めているため、上流の燃料生産プロセスとそれに起因する排出物を考慮する必要があります。

「Well-to-Wake “生産井から航跡(航海)”まで」 として知られているこのアプローチは、海洋燃料からの温室効果ガス(以下、GHG)のライフサイクル排出量を評価するうえで重要です。「Well-to-Wake」排出量モニタリングのステップと課題を理解することで、海事産業関係者は、自身の影響とビジネスパートナーに及ぼす影響について包括的な見解を得ることができます。

 

1. 「Well-to-Wake」とは?

「Well-to-Wake」とは、燃料を生産し、輸送し、船上で使用するまでのプロセス全体と、そこで発生するすべての排出物を指します。

  • 原材料の取得:必要な原材料(例:石油、ガス、バイオマス、水素、二酸化炭素)の採取・入手・収集および燃料製造施設までの輸送に伴う排出
  • 燃料生産:原材料を船舶燃料に変換する燃料製造プロセス(例:精製、発酵、電解、合成)からの排出
  • 輸送及び貯蔵:パイプライン、トラックまたは船舶を介する陸上、岸壁および沖合の貯蔵施設ならびにバンカリング施設への海洋燃料の輸送からの排出(場合により、圧縮または液化を含む)
  • バンカリング:貯蔵施設から船上タンクへの船舶燃料の移送による排出
  • 船上貯蔵:船舶燃料が、特定の温度および圧力条件下で船上に保持されている間に発生する排出
  • エネルギー変換:船舶が運航および操業する際に、船上で燃料を使用することによる排出(GHGを直接大気環境に排出する)

 

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「Well-to-Wake」による温室効果ガス(GHG)のライフサイクル排出量評価のイメージ

 図1:「Well-to-Wake」による温室効果ガス(GHG)のライフサイクル排出量評価のイメージ

 

2.持続可能性のための新たなベンチマークおよび規制

持続可能性の定義が排出のすべての範囲を含むよう拡大しているため、「Well-to-Wake」での排出量を管理することは、ますます重要になっています。サプライチェーンを展開している海事関係者に対しては、より厳しい目が向けられており、業界内だけでなく業界間の透明性も求められています。

海事産業においても、このような要求は規制当局の注目するところとなっています。国際海事機関(IMO)は、船舶の炭素排出削減を目的としたEEXI規制(既存船エネルギー効率指標)CII規制(燃費実績格付け制度)などの持続可能性のための措置を採択しました。これらの規制は、2030年までに国際海運の炭素集約度を2008年比で少なくとも40%削減するというIMOの全体目標を達成するためのものです。

ヨーロッパ諸国は排出を制限しようとしており、いくつかの政府は厳しい法律を施行しています[1]EU委員会は、関連組織FuelEU Maritimeを通じた「Well-to-Wake」アプローチを採用した「Fit for 55パッケージ」を提案しました。さらにEUは、排出量取引制度(ETS)、エネルギー税指令(ETD)および炭素国境調整措置(CBAM)を通じて、GHG排出量を削減するための他の立法上の措置を検討しています。

法律は整備されつつありますが、今日の「Well-to-Wake」での排出量を評価するため、船主や運航者は多数の情報源からデータを収集し、燃料供給の起源、記録およびTraceabilityを確保しなければなりません。現在この評価は自主的に行われているため、船主が上流の排出量を評価することは難しい状況です。

 

3. 真の持続可能な代替燃料への移行

代替燃料、低炭素または無炭素燃料の使用へ転換する船主は、従来の船舶燃料を使用する船主より、サプライチェーンでの排出を意識する必要があります。メタノール・アンモニア・水素など低炭素およびゼロ炭素燃料の多くは、その生産プロセスを石炭や天然ガスなどの化石資源に基づいています。船上での燃料の使用においてはGHGを全く、あるいはほとんど排出しないかもしれません。しかし、生産プロセス自体は環境に対して大きな影響を与えるかもしれません。

すでに海事産業は、風力発電や太陽光発電からの再生可能エネルギーと再生可能原料を使用して、グリーン燃料を製造する生産プロセスを検討しています。それでも、排出量を実質ゼロにするには、すべての上流活動に対応する代替燃料のために、GHGを含まないサプライチェーンを構築する必要があります。

 

4. 「Well-to-Wake」 シッピングへの積極的なアプローチ

船主だけではゼロエミッションの海洋の世界を構築することはできませんが、船主は持続可能性の十分なビジョンを創出するために積極的な役割を果たすことができます。

「Well-to-Wake」による排出量に関する今後の規制の影響を理解することが出発点になるかもしれません。代替燃料を検討する際には、これらの燃料が生産段階から持続可能であるかどうかを評価することに注意すべきです。海事関係者と燃料供給者の双方による努力は、安定した需要を確保し、この問題を解決します。

船主は、次のようなさまざまな連携を活用して、解決策への貢献が可能です。

  • 燃料生産者を含むパートナーシップ
  • サプライチェーンの持続可能性に焦点を当てた共同開発プログラム
  • 海洋の脱炭素化を推進する連合

ビューローベリタスの持続可能性に関する専門家Benjamin LECHAPTOISは語っています。
”エネルギー生産分野との結びつきを無視して、海運業界の脱炭素化について語ることは不可能です。船主は、サプライチェーンのあらゆる段階に持続可能性への懸念が存在することを認識し、より大きなエコシステムへと視野を広げる必要があります。船主は、「Well-to-Wake」アプローチを提唱することで、海事産業の脱炭素化を推進するための重要な一歩を踏み出すことができます。”

 

5. 船舶所有者への「Well-to-Wake」による持続可能性の支援

ビューローベリタスは船級協会として、海事産業の持続可能性に関する規制の改新に厳格に従っており、船主が常に情報を把握し、法令に準拠できるよう支援しています。ビューローベリタスの専門家は、船舶からのGHG排出量の監視とその削減に対して、サプライチェーン全体を包括的に取り組んでいます。

ビューローベリタスは、グループ全体で上流から下流に至る燃料生産と使用に関する専門家と連携し、海事関係者が供給燃料による影響について判断するのに役立つよう、他の機関による排出評価の第三者検証を実施することができます。さらにBureau Veritas Solutions – Marine & Offshoreと共に、エネルギー消費量の削減や新しい燃料の搭載など、お客様のGHG排出量削減への取り組みをサポートしていきます。

参考:
[1] Towards net zero emissions in Denmark

 

船級部門 山下 和夫


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