
Case Study:日本たばこ産業株式会社(JTグループのサステナビリティ戦略)
日本たばこ産業株式会社
サステナビリティマネジメント部長
向井 芳昌様
2019/11/12開催セミナー
「SDGsに対応した企業のサステナビリティ対応2019」ご講演より
日本たばこ産業株式会社
(東京都港区)
企業を取り巻く環境が変わるなかで、SDGsへの取り組みやESG投資への動きに対し、JTグループがどのようにサステナビリティへ取り組んでいるか、その戦略や具体的な取り組み内容をご紹介いただきました。
JTグループのサステナビリティ戦略
JTグループのミッションとしては、「お客様に信頼される『JTならではのブランド』を生み出し、育て、高めていくこと」を掲げており、「たばこ事業」「医薬事業」「加工食品事業」の3つの事業を展開しています。
それまで行ってきた広義のサステナビリティ、いわゆるCSR等の諸々の活動をさらに戦略的に進めていくために、2019年1月に新しい部署として「サステナビリティマネジメント部」が発足しました。背景には、社内・社外それぞれの動きがありました。
社内の動き:
CSR・サステナビリティに包含される、環境問題への取り組み、社会貢献活動、人権の尊重への取り組み、コンプライアンスなどは、これまで個別に行われていました。
現場・事業部サイドにとっては、ある活動はCSR推進部、別の活動はコンプライアンスやリスクマネジメントからそれぞれ指示された面倒事でしかなく、中長期の企業の課題に直結するというよりは、目先のやっつけ仕事と捉えられかねない状況であったという背景がありました。
社外の動き:
企業を取り巻く環境も大きく変わってきました。SDGsへの取り組み、またはESG投資への動きからは、どの企業も無縁ではいられなくなっています。
特にたばこ業界については、たばこへの投資から撤退するダイベストメントの動きがあります。また、サステナビ 日本たばこ産業株式会社(東京都港区) リティや SDGsについてJTグループとして語り、社会とコミュニケーションを行う必要性が高まってきたことも背景としてあげられます。
このような動きのなかで、持続的成長のための戦略を改めて見直そうと、新組織の下で「サステナビリティ戦略」を作り上げるに至りました。
(1) サステナビリティの考え方
今回サステナビリティを定義するにあたり「JTとしてサステナビリティとはなんだ?」と考えた際、経営理念に立ち返りました。JTグループでは、長年、「4Sモデル」を経営理念としており、社内に浸透しています。
経営理念である4Sモデルとは:
「お客様を中心として、4者(お客様・株主・社会・従業員)に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていく」ことで、JTグループがどのように社会の持続的発展に貢献していくかを示す指針
社内に発信する際、サステナビリティが意味する「事業活動を通じて社会の持続的発展に貢献する」というのは4Sモデルそのものであるということで、わかりやすく伝えることができるようになりました。
(2) JTグループのマテリアリティ
2005年に既にマテリアリティを選定しており、社会とともに持続的に成長するために取り組むべき課題として22項目を特定していました。
しかしながら、具体的にどのような活動をそれぞれの項目の取り組みに落とし込むか、頭をひねりました。マテリアリティにあげている項目は当然やらなくてはならないのですが、日々の事業活動とどう結びつけていくのかが課題でした。
JTグループは、たばこ・医薬・食品という性格が異なる3つの事業をもっており、また130か国で事業を展開、100以上の国籍の従業員を持つ企業です。それぞれの事業・市場で、何を優先的に実施していくか、またどのように進捗状況を測るかが難しいところでした。
そこで、改めて「サステナビリティ戦略」としてフレームワークを整理しようと取り組みました。
(3) JTグループのサステナビリティ戦略
経営理念である4Sモデルを実現するためのマテリアリティ分析に基づき、グループ全体に適用されるサステナビリティ戦略の基礎として、まず「3つの基盤」(「人権の尊重」、「県境負荷の軽減と社会的責任の発揮」、「良質なガバナンスと事業規範の実行」)を定めました。
これに加え、3つの事業ごとに、それぞれの事業特性を反映した「注力分野」を選定しくこととしました。
注力分野の取り組みの進捗状況についてはKPIを設定しモニタリングしていく必要がありました。これは社内でのモニタリングのためだけでなく、社会と対話をし、私たちの活動の進捗をステークホルダーや投資家などに説明を行う必要があるためです。
まずは売上の多くを占めるたばこ事業から策定をスタートしました。注力分野は4つ、「製品サービスの提供」「人材への投資」「サプライチェーン構築」「規制対応・不法取引の防止」としており、既にサステナビリティレポートやウェブサイトなどで開示しています。医薬、食品事業は、2020年以降開示できるよう策定を進めています。
SDGsとの関係では、SDGsの項目から決めるのではなく、まずはJTグループの事業として、何ができるかを考え、それぞれの取り組みがSDGsのどの目標に貢献できるかを決めていきました。
これはたばこ事業で選定をしているサステナビリティのKPIです。
たばこ事業の注力分野のひとつである「製品サービス」ですが、SDGsの項目でたばこ事業がどう貢献していくか難しいのは3番の「健康・福祉」です。「健康・福祉」ではターゲットとして、リスク低減製品により幅広い選択肢を提案していくこととしました。近年、欧州・米国や日本などで、加熱式たばこ、燃焼させないたばこが大きくシェアを伸ばしており、これはリスク低減製品として社会に対して有益であると考えています。
次に、「人財への投資」に対しては、労災ゼロを目指すKPIを立ち上げました。
また地域社会への貢献として、金額面での投資やボランティア活動時間といった、定量化できるところは定量化してKPIを設定しました。さらに、少なくとも世界60以上のグループ事業所で「社員が働きたい企業」として選ばれることを目指します。
「サプライチェーンの構築」としては、温室効果ガス排出量・森林保全・耕作労働規範・サプライヤーのスクリーニングを進めていくことをあげています。
最後に、「事業を取り巻く規制への適切な対応と不法取引の防止」についてですが、事業への規制が適正になるよう、公共政策の立案へ協力、ステークホルダーとの対話に努めると同時に、特に海外で問題になっている不法取引の対応に関しては、当局との情報交換を行い、不法取引減少を支援します。
これらKPIの進捗については、今後もサステナビリティレポート(2020年(2019年度実績)からは「統合報告書」を発行)やウェブサイトなどで開示していきます。
サステナビリティに関する取り組みの代表事例
JTグループが重要と考えるサステナビリティの取り組みについて、いくつか紹介します。
(1) 耕作労働規範(ALP)の展開
基幹原料である葉たばこを安定的にサステナブルな形で調達していくことは、たばこ事業にとって重要なことです。JTグループとしては、耕作労働規範(ALP: Agricultural Labor Practices)を制定し展開しています。
私たちの葉たばこ調達方法は、①葉たばこ農家との直接契約(53%)、②ディーラーを通じて調達(47%)、の2つのパターンがあります。
②の場合は、ディーラーの先にある農家が見えづらいところがあるため、まずは①の直接契約している農家を対象に「児童労働の防止と撲滅」「労働者の権利の尊重」「農場での安全衛生」に関する規範としてALPを制定しました。
現在ALPは、ブラジル・セルビア・マラウイ・タンザニア・ザンビア・米国・トルコ・日本で展開しています。
私たちは、ALPを遵守しているという書面をもらうだけでなく、葉たばこ生産技術に関するアドバイスを行う耕作指導員が農家を訪問した際に、ALPの説明や労働慣行の観察、改善のためのアドバイスを直接農家に対して行っています。海外の契約農家数46,500戸に対し、373名の耕作指導員がサポートしています。
モニタリングを行った農家および実施報告を受けた葉たばこディーラーの割合は、2018年現在で96%です。2025年までに、すべての葉たばこ調達国においてALPプログラムを導入する目標を立てています。
「児童労働の防止と撲滅」「労働者の権利の尊重」「農場での安全衛生」となると、ある種コンプライアンスの観点だけと思われるかもしれませんが、これを農家に遵守してもらうことは農家にとっても利益があがります。例えば、コスト削減のために肥料・農薬の効率的な利用を指導することで農家の利益があがりますし、JTグループとしても安定的な調達ができるようになるわけです。
(2) ARISE(=Achieving Reduction of Child Labor In Support Education)
JTグループでは、たばこ企業にとって重要な課題である児童労働の撲滅のための取り組みも進めています。
ARISEはJTグループが独自に取り組む、児童労働撲滅のための教育サポートプログラムです。国際労働機関(ILO)や国際NGO “Winrock International ”の協力のもとに開発し、2011年にスタートしました。私たちは、児童の人権を守り児童労働を防ぐだけでなく、児童労働が生まれる根本的な原因(背景)を解決していくことが必要と考えています。
葉たばこの主要な産地である、ブラジル・マラウイ・ザンビア・タンザニアで活動を行っていますが、これらの地域は貧困という背景から児童が労働力として使われ、教育機会が奪われています。その結果、貧困が再生産されるという悪循環が起きているのを断ち切るために、児童の教育機関の提供や啓発活動、耕作者や家族・コミュニティ全体の暮らしを向上する取り組みを行っています。
2011年から2018年までに51,550人の子供が学校に通えるようになり、13,568世帯の収入が向上しました。355,405人のコミュニティ住民に児童労働について啓発し、児童労働に関する66の政策・計画立案の後押しを進めています。
JTグループはこれらの取り組みについて、責任をもってモニタリングをしていくことで、さらに改善していきます。
(3) JTグループ環境計画2030
2014年に2020年を目標年度とする「環境計画2020」を策定しましたが、主要目標である温室効果ガス削減目標を3年前倒しで達成したこともあり、このたび「環境計画2030」を新たに策定しました。
また今回、注力分野の見直しを行いました。
- エネルギー・温室効果ガス
気候変動への対策、脱炭素社会へ向けた取り組み
パリ協定に基づくGHG排出量の削減やカーボンニュートラルへの転換 - 自然資源
枯渇資源の有効利用、自然資源に伴う事業リスクの低減を目標に追加 - 廃棄物
事業由来の廃棄物発生の削減、廃棄物による環境負荷の低減に対し、開発・設計段階からの対策
これらに関する進捗状況はサステナビリティ戦略のKPIと紐づけてモニタリングし、公表します。
実績の第三者検証
今回サステナビリティ戦略を見直しましたが、目指す姿や目標設定、具体的な取り組みの検討を行う場合、まず現時点での自社の姿を正しく認識をすることが前提となります。
また社会との対話の重要性が増している現状を考えると、社会に対してJTグループの「今」を正しく伝え、取り組みを推進していくためにも、実績評価は重要なツールだといえます。
サステナビリティへの社会的な関心が高まるなか、非財務実績についても財務実績並みの確からしさが求められています。ルールや法定監査が無く、改ざんが容易な状況では、自社の取り組みを正しく評価し、社外からも評価されるためには第三者による検証も必要だと考えています。
外部への開示としては、2019年までは財務実績中心のAnnual Reportと、サステナビリティの取り組みを中心としたサステナビリティレポートを別々に発行していました。しかし投資家などから要望もあり、いわゆる統合報告書という形で2020年(2019年度の実績を対象)から発行する準備をしております。
(1) JTグループの環境実績の第三者検証
非財務実績の中でも、環境実績はさまざまな算定ルールが存在しています。
CDPなど主要なアンケートでは、評価の基準上、第三者検証が重要な要素となってきています。
JTグループは世界130か以上の国・地域で展開しているため、グループとしての環境実績をまとめるという観点からも、第三者検証は非常に重要な要素となっています。
JTグループは、一連のプロセスの確からしさにつき、2013年よりビューローベリタスジャパン株式会社に検証を依頼しています(当初はJTのみ、2018年よりグループ全体が対象)。
(2) 環境実績の第三者検証の効果
JTグループは、たばこ・医薬・加工食品事業を展開していますが、グループとしての実績を集約するにあたり、海外たばこ事業はJTI(JT International)、それ以外はJTが管理主体となっていることから、実績管理の統一性を担保できているかが課題でした。
本社および各事業所での実績管理や、JTIも含めたJTグループ全体を第三者検証の対象としたことで、本社・事業所間の共通のルールに関する理解の向上が図れただけでなく、実績管理に統一性が担保されていることが確認され、実績管理の品質向上に大きく寄与していると感じています。
課題と今後の検討
2019年1月にサステナビリティマネジメント部が発足して以降、目指すべき長期ビジョンの策定とそれを実現する推進体制の構築を進めています。
これまで中期計画は作っていましたが、20年30年後の長期のシナリオはありませんでした。
たばこが、30年後サステナブルに存在をしているのか、JTが、社会において今後長期に亘り、サステナブルにどのような形で存在していこうとしているのか、これまで具体的に発信できていませんでした。
JTグループが、長期的に社会においてどのような存在でありたいかを定義し、それに向かって道筋を立てていくことが、私たちに求められている課題だと感じています。
それにより、ESG投資の観点による投資家からの懸念を払拭するだけでなく、JTグループの一人一人が、自信を持ってワクワクと働くことができると考えています。
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