Case Study: 株式会社 春日井

外資企業との取引と、中国での展開の
優位性を見据えてISO/TS16949を取得


株式会社 春日井(埼玉県熊谷市)
http://www.kasugainet.co.jp/

高まるTS取得の要望市町村合併によって現在は熊谷市に編入されたかつての妻沼町にある「春日井」は、1949年創業、今年65周年を迎える。従業員数約220人、5つある国内工場のすべてを熊谷市内に置く地域密着型の老舗メーカーである。
創業当初から約20年間は、印刷業とネームプレート製造を手掛けていたが、1961年に精密プレス部門をスタートさせ、その10年後にはネームプレート工場を閉鎖し、自動車用の精密プレス部品の製造を本業にするようになった。以来、プレスの専門工場や金型工場などを順々に建設しながら規模を拡大。その技術力が評価され、外資系の自動車部品メーカーとの取引も多い。
そんな同社が、2000年のISO9001(QMS:品質マネジメントシステム)認証、2006年のISO14001(EMS:環境マネジメントシステム)認証の取得を経て、自動車産業向けのセクター規格であるISO/TS16949(以下TS)認証を取得したのは2013年10月のことだ。その背景には、2つの大きなきっかけがあった。
まずひとつめは、取引先が下請けメーカーに向けて開催する「方針説明会」において、「TS取得が望ましい」という話が増えてきたことだった。特に、同社が主要取引先とする外資系の企業は、TSの取得を熱心に勧めてきた。
もうひとつは、ある取引先の要請による中国工場の建設にあたってだった。2010年頃から、中国に工場進出し、「部品を現地調達したい」と考えている取引先のすすめで同社でも中国工場の建設を検討しはじめたのだが、そのときに「TSを取得し
ているとより有利になる」という情報が入ってきたのだ。 加えて、中国工場を建設したら、文化や言語が違う国での品質マネジメントのためにいずれTS取得が必要になることは間違いない。そこで、「まずは国内でTS取得をし、中国で必要となったときになるべくスムーズに取得できる準備をしておくのが得策ではないか」という話が起こったのだ。

チームをつくって現場を巻き込む
こうしてTS取得を決断した同社だったが、いざ取り組んでみるとTSの要求事項はかなり細かく、より緻密な構築が求められた。
「すでに取得しているQMSやEMS によって、仕組みはわかっていたものの、その点は苦労しました。あの組織なしではとてもできませんでした」と事務局をつとめる田島課長は言う。
「あの組織」とは、同社がTS取得のために組んだピラミッド型のチームのこと。春日井一重社長をトップに、渡部信二品質管理部長と田島康弘検査部課長の2名による事務局、各部門から選出された12名の推進委員でできている。一見すると大がかりなこのプロジェクトが、同社のTS取得の胆となったのだ。
この組織の中核にいて、12人の委員を活用しながら細かな作業を進めた事務局に、取得のコツについて聞いてみると「まずは12人の委員を通じて現場を巻き込み、最後はぴしゃっとクレームをシャットダウンすること」だと、渡部部長はいう。
さらに細かく教えてもらうと、まず現場の巻き込み方のコツは、@対応してくれるまで、口頭やメール、社内電話などで何度もめげずに依頼する、A仕事のスケジュールや忙しさの度合いをよく把握してタイミングの良いときに依頼や要請をするようにする、Bやってくれなければ穴が開いて取得できないことをよく説明する、C「○月○日までにやってほしい」と締切を明確に伝えること、など。
そしてそれでも「忙しいのにこれ以上仕事を増やさないでほしい」といった不満やクレームを言う人には、「取ると決めたのだから、何が何でも取る。そのためにはやってもらわないと困る。あなたがしてくれなければ他の人に迷惑がかかる」とはっきり言い渡すことも大事だという。

ステークホルダーからの信頼が向上/コミュニケーションが円滑に

TS取得後、同社では取引先や新規営業先から「認証書のコピーをください」と依頼されることが増えた。その理由は、大元のクライアントに、「御社はどんな下請け会社を使っているのか?」と尋ねられることが増えていて、そのときに「うちはTSを取得した工場に発注しています」と証明書を提示しながら答えられることが有利に働くからだ。 外資メーカーの本国からの視察や監査を受ける際に、プレゼンテーションなどでTS取得に関して説明すると、認証書のコピーが欲しいと言われるケースもあるという。
さらに、既存の取引先に対して取引の拡大や上級部品の発注をしてもらうための営業をかけるときにもTSを取得したことは役立っている。
というのは、こうした場合に、製造体制の認定監査や工場見学などが行われることがあるのだが、「事前に提示される質問事項を見たときに、もしTSを取得する前ならチンプンカンプンで何を聞かれているのかさえ分からなかったのではないかと思いました」と春日井社長は苦笑する。
「しかし今はTSのおかげで共通言語ができて、言われていることがきちんと分かるまでにはなっています。これは小さいながらも進歩であり、わが社がレベルアップしている証拠ではないかと思います」という。実際にそれで拡大した取引はまだないが、コミュニケーションが円滑に進み、的確なレスポンスを得られたサプライヤーとして春日井の名前は審査員の記憶に残るだろう。そしてその記憶が新たな取引となって実を結ぶ日は、そう遠くないのではないだろうか。

使いこなす社員を育て、技術継承につなぐ

一方で、「TSを使いこなす社員の育成」という重要な課題がまだ大きく残っているのも事実だ。
「残念ながら、今のところはまだリーダーもTSを完全に自分のものにしているとは言えません。『えっと、TSではどうだったかな?』と考えて止まってしまったり、確認するのが面倒で『とりあえず適当にやってしまおう』となってしまったりするケースもよく見かけます。意識せずとも勝手に身体がTS基準で動くところまで、社員を早くたくさん育てないとダメだなと思っています」と田島課長は言う。
そしてそれができたら、次には、人数が少ない50歳代の社員から30歳〜40歳代の社員に、TSのメソッドを活用しながら、なるべく早く正確に技術を継承させることにも取り組みたいという。TSをここまでつなげることが、本当の意味での同社のTS戦略なのである。
海外進出、既存の取引先との関係強化、新規営業開拓、そして社内活性化と、さまざまな局面で一役買うことを期待される同社のTSだが、春日井社長は、「メーカーに問われる第一義は、やはり技術とQCD(Quality, Cost, Delivery)。TSはあくまで後方支援ツールであり、同レベルの他社との競争においては有利に働くだろうが、明らかな技術の差を逆転するためのツールではない」と、クールな見方も忘れない。
加えて「認証は取得したときがスタート。取って終わりではなく、内容も使い方もこれからブラッシュアップしなければ意味がない」と、事務局の二人も厳しい視点をもつ。
こうした冷静な距離感が、同社におけるTSをより実用的で実効的な武器に高めるに違いない。

(2014年4月17日取材)

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