Business Vision

規制緩和と強化:環境安全衛生法規制の世界的な傾向



PDF版はこちら PDF


2012年よりビューローベリタスとパートナーシップを結ぶEnhesa (エンヘサ) 社が執筆する、「海外における法規制」に関する記事を連載しています。
Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境、労働安全衛生) 及び製品の遵法を支援しています。
2015年10月には日本法人として日本エンヘサ株式会社を設立、日系企業のお客様に対して、よりきめ細かな支援をお届けする体制を整えました。

米国では政権が交代し、今後数年間で環境政策が大きく後退するのでは、と懸念する声があがっています。トランプ政権によって発令された大統領令により、米国環境保護局(EPA)やその他の省庁は新しい規制を1つ提案するごとに撤廃候補となる既存の規制を2つ提示することが義務付けられることになりましたし、エネルギー省や環境保護局の長官には気候変動に懐疑的な人物が任命されるなど話題に事欠かない状況です。しかしながら、Enhesaの選任コンサルタントの分析によりますと、物事はそれほど単純には進まないだろうということです。世界的に見ても規制が緩和されていく分野がある一方、規制が一層強化される分野もあると考えられます。本稿では具体例とともに今後1−2年の展望を紹介します。


法令の統合・簡素化

-

まず最初に、米国で弱体化の危機にさらされていると言われているのは、気候変動分野の規制です。オバマ政権下ではクリーンパワープランという化石燃料を使用する発電所対象の排出削減計画の最終案が米国で初めて発表されましたが、産業界の強い反対により、2016年2月、最高裁より「保留」裁定が出されていました。(ただし、1月にEPAはこの「保留」裁定に対抗、否定文書を提出しています。)加えて、トランプ政権はパリ協定からの離脱を公約に掲げており、現在、エネルギー業界に意見聴取を行っています。しかしながら、仮にこれらの分野で規制が緩和されたとしても、大きく影響を受けるのはエネルギー産業に限られ、エネルギー産業以外の産業界への影響はそれほど著しいものにはならないと予想されます。

法令の統合という観点では、オランダで2018年中に施行される環境計画法は多くの企業に影響を与えると考えられます。既存の環境計画法を大幅に改定するものですが、本法のみならず、多くの法令にも関係する改正であるからです。具体的には、既存の土地利用計画、環境保護、自然保全、ビル建設、文化遺産の保全、水管理、都市地方再開発、公的及び民間の大規模開発、鉱業などに係る規制を1つの枠組内にまとめ、簡素化するとしています。本法改正により、実に26の関連法規制が廃止され1つに、条項にして5000が350に、省庁規則は120が10に、区画計画については50,000が400に再編されます。計画手順、環境に関する要求事項、空間計画、自然計画などが統一されることで新規プロジェクトの準備や申請手順は簡素化されるでしょう。ただし、これは弊社の見解ですが、新法令への移行に伴い、何がどう適用されるようになるかは注意深く見守る必要があります。

韓国でも、EUの制度を模した統合的汚染管理許可制度が2015年12月に採択されています。それまでの韓国では、日本と同様、大気質保全法、騒音振動規制法、水質水環境保護法、悪臭防止法、廃棄物処理法など多くの法令に基づく許可、届出制度がありましたが、今後は統合的汚染管理許可法の下、1つの許可制度に統合されます。施行は段階的に行われ、2017年はエネルギー、水力発電・空調システム・廃棄物処理が対象となっています。

なお、このような複数法令の統合は英国、イタリア、ベルギーでも見られる傾向です。


規制強化と施行の厳格化

-

一方、規制強化と施行の厳格化についてはどうでしょうか。化学物質規制においては、ご承知のように各国で欧州REACHを模した、あるいは近づけようとした規制が導入されています。また、気候変動については、2015年以降、特にラテンアメリカの国々で方針や法規制がハイペースに策定されつつあります。ラテンアメリカの首脳たちは、気候変動は自国にとっての脅威であると認識しており、極端な異常気象などから大きな影響を受ける可能性があると危機感を抱いているようです。

さらに、経済的手法を用いて汚染を低減するという試みも見られます。例えばスウェーデンでは、電気電子製品含有化学物質税法が採択されており、2017年4月に施行されます。この法令は電気電子製品に含有される有害物質を可能な限り低減することを目的としており、2017年7月1日以降スウェーデン市場に導入される製品を対象としています。コンピューター、テレビ、DVDプレーヤー、ゲーム機から大型家電の冷蔵庫・冷凍庫、食洗器なども含まれます。対象となる化学物質は約100種類ほどで、電気電子製品に現在一般的に使用されている臭化物、リン酸化合物、塩素化合物なども含まれています。中国でも2016年12月に環境保護税法が成立しました。全国人民代表大会常務委員会により発行され、環境保護局・国家税務務局が施行当局となっています。これまでも中国には汚染物質排出課徴金があり、行政措置としてこれを施行していましたが、従来の制度では地方の施行当局により施行にばらつきがあり、効果的な機能していなかったという反省があります。今回は中央の税務局が当局となることで、一貫性のある制度になることが期待されています。

さて、再び米国に戻りますと、気候変動分野の政策の緩和が連邦レベルで推進されようとしていますが、それを穴埋めするような州の動きが活発化しています。全米大気質基準(NAQAA)が厳格化され、オゾンは75ppbから70ppb(8時間平均)に改定されました。これを受け、カリフォルニア州などの先進的な州では早くも厳格な基準が導入されています。また、州レベルでオゾン層保護を包括的に推進するため、追加的にVOC(揮発性有機化合物)排出規制を導入する動きもあるようです。このように、連邦レベルで規制緩和が進んだとしても州政府が州法によって独自に規制を強化する可能性が十分にあります。そうなると、企業は連邦とは別に州法について対応をとる必要が生じ、管理の複雑性が増す可能性があります。

さらに、米国環境保護局(EPA)は、顕著な違反には厳しく対応する姿勢を見せています。フォルクスワーゲン社の排ガステスト値の偽造は刑事事件に発展し、43億ドルの刑事及び民事上の罰金支払いに加え、同社の規制対応部門の責任者を務めていた幹部らが逮捕されました。今後もこのような消費者や規制当局を欺くような行為には民事罰に加え、刑事訴追の可能性があると表明しています。

同様に、米国労働安全衛生局(OSHA)でも、違反に対する罰金額の増額が2016年8月1日より適用されています。最も高額な罰金が適用されるのは「意図的な違反」と「再犯」であり、違反1件当たり最高124,079ドルが徴科されます。これは以前の最高額70,000ドルから78%もの増額となっています。

おわりに

-

以上のように、規制緩和が進む分野と強化される分野が混在し、対応がより複雑化すると予想されます。米国で連邦レベルでは緩和が進んだとしても、州レベルでその穴を埋める動きが予想され、一概に簡素化されるとは言えない状況です。一方、違反に対する罰則が厳格化する流れは、世界的に今後も変わらないと思われます。

多くの日系企業では、「海外も日本と同様にやっていれば問題にはならないだろう」という考えがあるかもしれません。しかし、海外拠点の環境安全衛生法規制へのコンプライアンスを実際に管理しようとすると、法規制の差異に加え、文化や慣習の違いも影響するなど様々な課題が見えてくるものです。厳しいことを申し上げますと、日本と同様の考え方、やり方は通用しないと認識する必要があります。操業のある国における自社のリスクを把握することがまず第一であり、そのリスクに見合った管理をしていくことがコンプライアンスリスクの継続的なマネジメントにおいて重要だといえるでしょう。

著者:田崎裕美(Enhesa プロジェクトマネジャー)
※本稿の著作権は著者個人に帰属します


【お問い合わせ】
日本エンヘサ株式会社
〒102-0093 東京都千代田区平河町1-5-15ビュレックス平河町
TEL:03-6261-2138

japan@enhesa.com
http://www.enhesa.com/

Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境・労働安全衛生)法令遵守を支援しています。2015年10月には東京八重洲に日本法人を開設し、日系企業のお客様に応対しております。ビューローベリタスジャパン株式会社との緊密な連携により、EHS法規制動向のモニタリング、遵法監査ツールの提供、遵法監査代行、製品規制調査等、日本企業の国内及びグローバル市場における事業展開・事業運営、輸出に関する法令遵守を支援しています。


www.bureauveritas.jp

© Bureau Veritas Japan