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EU CLP規則改正動向:2019年からの施行が見込まれる中毒センターへの情報提供義務の更新により、
混合物の輸入企業や川下ユーザーの負担が増す懸念


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2012年よりビューローベリタスとパートナーシップを結ぶEnhesa (エンヘサ) 社が執筆する、「海外における法規制」に関する記事を連載しています。
Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境、労働安全衛生) 及び製品の遵法を支援しています。
2015年10月には日本法人として日本エンヘサ株式会社を設立、日系企業のお客様に対して、よりきめ細かな支援をお届けする体制を整えました。

2016年9月、欧州委員会が提案したCLP規則改正案 1 に対し、加盟国が承認を採決しました。改正案はCLP規則に付属書VIIIを追加し、現状、加盟国間で統一されていない中毒センターへの登録情報を調和させるもので、2016年3月に公開された草案に化学品ラベルへの追加情報記載義務が追加されました。本改正案は2017年上半期に正式に発効すると見込まれています。発効した場合、これまで加盟国間で相当な相違があった中毒センターへの登録情報が統一され、効率化、シンプル化、公平化が期待される一方、現在の改正案のままでは企業への負担が増すという懸念が産業界より指摘されています。新しい枠組みでの情報登録義務は2020年1月1日より消費者用途の混合物に、2021年1月1日より業務用途の混合物に、そして2024年1月1日より工業用途の混合物に適用されることが見込まれています。これにより、現在CLP規則の対象となる混合物の輸入企業のみならず、EU域内で化学品を調合し販売する日系企業子会社や、日本のマザー工場で使用する日本製の化学品を直接輸入する工場にも、中毒センターへの詳細な情報提供が義務付けられることになります。さらに、EUへ混合物を輸出する日本企業にとっては、輸入者からSDS記載内容以上の詳細な成分情報の開示が求められることになり、企業秘密保持の観点からも頭の痛いところになりそうです。


中毒センターによる緊急健康対応情報の収集

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CLP規則第45条(1)は、加盟国が、緊急時の健康被害対応に関わる情報 2 を混合物の輸入者や川下ユーザーから受領する機関 (中毒センター/ Poison Control Center) を指名することを定めています。受領すべき内容には、EU域内に上市される、物理的危険性や健康有害性を有する混合物の化学組成や含有物質の情報が含まれます。ただし、その具体的な内容は規定されておらず、各加盟国が国内法に基づき個別に決定していました。


EU加盟国間で統一されていない中毒センターへの登録情報と登録方法

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その結果、加盟国間において、適用製品、登録の責任者、登録期限、登録の単位(個別製品ごとか、製品群をまとめて提出可能か(例:同一仕様の製品で香料のみ異なる場合など)、登録情報の内容、登録情報の更新の必要性と期限、登録費の有無、追加的な要求事項の有無などで、大きな相違が生じているのが現状です。たとえば、2013年5月にEU委員会が公開したコスト・ベネフィット分析結果 3 により、企業の登録負担が最も大きいとされた国のひとつであるフランスでは、バイオサイドは国内における上市前に、その他の危険有害な物質と混合物は上市から30日以内に、製造者、輸入者、代理店、またはその製品の上市に責任を持つ者 (通常はラベルに記載される企業) が、規定情報を国立安全研究所(Institut national de recherche et de sécurité : INRS)に登録しなければなりません 4 。要求される登録情報はSDS記載の情報に留まらず、用途、販売量、包装種別、正確な成分情報が含まれます。また製品群をまとめた登録はできず、製品ごとに情報を提出しなければなりません。提出情報に変更が生じた場合には、登録者が更新情報を再提供しなければなりません。フランスと同様に登録負担が大きい国には、ドイツ、ノルウェイ、ポルトガルが含まれます。中には、ポルトガルのように、CLP規則により危険有害と分類された混合物に加え、バイオサイド、洗剤、植物保護製品、化粧品などその他の製品が登録対象となる国もあります。

一方、登録負担が最も少ないとされた国には、イギリスを始めアイルランド、デンマーク、クロアチア、エストニア、ルーマニア、スロベニアがあります。一定の化学品について上市の責任者に登録を義務付ける大多数の国と異なり、イギリスの場合は、化学品の製造者が自主的にSDSを国立中毒情報センター(National Poisons Information Service : NPIS)に提供すればよしとなっており 5 、一度登録したSDSを更新する義務も課されません。その他の加盟国はおおむねこの中間に位置します。加えて、登録費用も一定ではなく、無料であるフランスやドイツ、チェコ、イタリア、ポーランド、ポルトガル、イギリスといった国から、年間費用650ユーロを課すアイルランドまで差異が生じています。企業は、各国における適用範囲や登録内容を個別に確認し、それぞれの国の言語で、各国ごとに指定されるフォーマットにおいて、対応しなければならなかったのです。登録情報と仕様を統一することにより、EU全体の企業におけるコスト削減は5億5千ユーロに上ると試算されました。


最新の改正案

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中毒センターへの登録情報を調和させるCLP規則改正案が検討された当初、産業界は、この改正により加盟国間の相違が解消され、1つの混合物を1回登録すれば全ての加盟国で適用されるものと期待していました。また、緊急時の健康被害に対応するために必要な情報だけを、使いやすいフォーマットやツールにより提供することが可能になり、いくつかの国で要求されている登録費も必要でなくなるかもしれないという期待を抱いていました。しかし、ふたを開けてみると、産業界の期待が必ずしも満たされた内容とはなっておらず、さらなる検討の必要性が産業界より叫ばれています。

たとえば、最新の改正案によれば、混合物の輸入者や調合者は、CLP規則に則り危険有害と分類された混合物 6 をEU加盟各国で初めて上市する前に、その上市する量に関わらず(1トンなどの下限値はありません)、指定される中毒センターに登録しなければなりません。この際登録に使用するフォーマットとしては、ECHAが提供するXMLファイルをどこでも使用できるのですが、上市する加盟国のそれぞれの中毒センターに対して、その加盟国が指定する公用語によって登録されなければならないとされています。これでは、1つの混合物について複数の登録を繰り返す手間は削減されず、また登録した内容に変更が生じた場合にも、複数国でそれぞれ更新しなければなりません。

また、登録情報にしても、原則的にはすべての成分情報を中毒センターに開示する必要があります 7 。正確な混合割合の代わりに3-4%といった混合率の幅で開示することも認められますが、有害性分類と区分、また全体に対する混合割合により、認められる幅が異なります。具体的には、急性毒性区分1〜3、特定標的臓器毒性(単回ばく露又は反復ばく露)区分1, 2、皮膚腐食性区分1、目に対する重篤な損傷性区分1に分類される物質については、その混合割合に応じて0.1%ユニットから5%ユニット幅、その他の有害性区分と区分外の物質については1%ユニットから20%ユニット幅が上限とされます。サプライヤから購入した混合物を原料(Mixture in Mixture : MIM)としてさらに調合したような製品で元の混合物の成分に関する情報が得られない場合には、その混合物の製品区分とUFIコード、含有割合を記載します。UFIコードを持たない混合物の場合には、SDSとサプライヤの連絡先を届け出ることになります。工業用途の混合物については、消費者用途や業務用途の混合物よりも限定的な情報のみの提出が認められますが、それでもSDSのみを提出すればよいというものではなく、また24時間365日対応できる連絡先を提供する必要もあり、企業にとっては提出情報をそろえる労力が今まで以上にかかる可能性があることに変わりありません 8

さらに、加盟国間の議論の焦点は混合物による中毒事例の「統計的分析」に移り、問題が生じ得るエリアを迅速に特定し、適切なリスク管理手法を策定するために登録情報を活用することが、改正草案に明記されました。中毒センターへの登録は、緊急の健康被害に対応するための情報提供としてのみならず、より包括的な情報を要求する「製品登録」としての側面を持つようになってきたのです。そのため、今後ECHAが開発する製品区分システムにより製品を区分し、その区分を登録内容に含めることが必須とされました。加えて、健康被害情報を受けた中毒センターによる迅速な製品–登録情報のマッチングを確実にするために、登録者はECHAが提供するウェブツールを使用して、登録された個別の混合物に固有なUFI (Unified Formular Identifier)を割り当てることになります。最新の改正案は、このUFIを製品ラベルに記載することを、消費者用途と業務用途製品について義務付けています 9 。ラベルへの記載は中毒センターへの登録後遅滞なくとされていますが、自ずと登録期限とリンクするものと考えていいでしょう。なお、成分構成などに大きな変更があった場合にはUFIも更新され、したがって当該製品のラベルも更新される必要があります。


結論

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産業界の期待とは裏腹に、中毒センターへの情報登録は、C&LインベントリやREACH登録とは別の、製品登録としての側面を持つ巨大な化学品データベース構築の様相を見せてきました。前2者とは異なり、企業は加盟国それぞれで個別に、異なる言語で、詳細な成分情報を提供しなければならなくなり、調和によるコスト削減が本当に実現するか、産業界の疑念と不安は募っています。それを受けて、欧州委員会はECHAに対し、ひとつのウェブサイト上で複数国への登録を一度に実施できるセントラル・ポータルサイトの設定について検討するよう要請しました。ECHAは2017年中にその実現可能性について検討を進める予定です。一方で、情報の集中化は情報管理の脆弱性を高める恐れもあります。企業秘密である成分情報の詳細が確実に守られることが担保されなければ、産業界の不安は払拭できないでしょう。

改正案は2017年に正式に発効するものと期待されていますが、その施行までにはまだ解決されるべき課題が残されています。登録フォーマット、製品区分システム、UFI作成ツールなども、今後最終化される必要があります。企業秘密である詳細な成分情報の(中毒センターへの)開示が統一的に要求されること、その登録手続きの予想される煩雑さを鑑みると、EUで現在進行中のさらなる検討がどの方向に向かっているか、日系企業も注視する必要があると考えます。ブリュッセルに本社を置くEnhesaでは、EU及び各加盟国の化学品規制に精通した社内コンサルタントが、それぞれの政策・法改正動向を日々ウオッチし、定期的にレポートを配信しています。また、加盟国間における中毒センター登録義務の詳細な比較分析も提供しています。EU及びその加盟国、トルコ・ロシアなどのEU周辺国における化学品規制や製品規制について情報収集・コンサルテーションを希望される方は、下記までご連絡下さい。


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1 draft Commission Regulation amending Regulation EC/1272/2008 on classification, labelling and packaging of substances and mixtures [CLP] by adding an Annex on harmonised information relating to emergency health response及びAnnex to the draft Commission Regulation amending the CLP Regulation by adding an Annex on harmonised information relating to emergency health response
2 中毒センターに提供された情報は、緊急時の健康被害対応又は、リスク管理手法の改善のため加盟国により要請された統計的分析のためのみに使用されるものであり、その他の用途に使用されてはならないと定められている (CLP規則第45条(2))。
3 Study on the harmonization of the information to be submitted to Poison Center, according to article 45 (4) of the regulation (EC) No.1272/2008 (CLP Regulation)
4 既にフランス市場に出回る化学品については、その有害性分類に基づき、2014年から2022年にわたる数度の猶予期限が設けられている。
5 バイオサイド製品については、イギリスで初めて上市された際の登録が義務付けられている。
6 R&D目的、高圧ガス、爆発物は登録より免除される。
7 正確には、CLP規則に基づき有害分類された物質又はMIMで0.1%以上混合物中に存在するもの (ただし緊急時の健康被害対応に影響する可能性があるものについては、この限りではない)。区分外の物質・MIMについては、1%以上。香水・香料については別の規定あり。
8 登録情報の詳細は改正案付属書Part Bに記載されている。
9 工業用途製品については、SDSへの記載に留まる。


著者:宮田祐子(Enhesa SA シニアプロジェクトマネジャー兼シニアコンサルタント)
※本稿の著作権は著者個人に帰属します


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Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境・労働安全衛生)法令遵守を支援しています。2015年10月には東京八重洲に日本法人を開設し、日系企業のお客様に応対しております。ビューローベリタスジャパン株式会社との緊密な連携により、EHS法規制動向のモニタリング、遵法監査ツールの提供、遵法監査代行、製品規制調査等、日本企業の国内及びグローバル市場における事業展開・事業運営、輸出に関する法令遵守を支援しています。


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