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アジアで進む化学品登録制度の動き〜その後は?


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2012年よりビューローベリタスとパートナーシップを結ぶEnhesa (エンヘサ) 社が執筆する、「海外における法規制」に関する記事を連載しています。
Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境、労働安全衛生) 及び製品の遵法を支援しています。
2015年10月には日本法人として日本エンヘサ株式会社を設立、日系企業のお客様に対して、よりきめ細かな支援をお届けする体制を整えました。

グローバルな環境・健康問題について、ある政府がまったくの新しい法制度をゼロから設計するということは、必ずしも多くはありません。多くの場合、まずごく少数の国が技術的・社会的な懸念に注意を向け、対応するべく、法制度を試行しようとする中、他の多くの国はそのような試みの効果と成功例、または失敗例を注意深くウオッチし、規制先進国の経験から学ぼうとします。


有害化学物質の管理制度

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このような一般的な傾向は、近年のトレンドとも言える化学物質の包括的な管理制度の確立に顕著に現れています。EUのREACH規則は、2006年の採択と、続く2007年の施行から、他国に大きな刺激を与えてきました。REACH規則は、既知の有害物質を指定して規制する従来の手法と大きく異なり、全ての化学物質を包括的な枠組みで管理するという画期的な取組みです。また、企業が、少なくともこれまでは、その複雑な手続きプロセスにも関わらず大規模なリスクアセスメント・登録義務に応じることができた事実は、他国の行政当局に自信を与えたとも言えるでしょう。

REACH規則の成功体験は、少なくない国に包括的な化学物質規制を立案するきっかけを与えました。アジアにおいても、近年採択・施行された化学管理制度が、日本版REACH、中国版REACH、K-REACH、スマートREACH(台湾)などとして、EU REACH規則に倣って呼称されています。しかし、それらが本家とどれほど似ているかは、個別の検証が必要です。

本家REACH規則は新規と既存の区別を問わず全ての化学物質を対象にしていますが、いずれのアジアの国もそこまでは踏み込めていません。政府がまず手がけることは、今現在国内で流通する既存化学物質のインベントリを作成することです。日本や韓国のように、既存法令の下で既に十分な化学物質データがそろっていた国では、この作業は容易なことでした。たとえば、今日、日本では27,000物質、韓国では45,000物質がインベントリに収録されています。インベントリ作成に着手したばかりの国もあり、たとえば台湾は、1993年1月1日から2011年12月31日の間に製造、取扱い、使用、または販売された化学物質の届出を締め切ったところ、90,000物質を超える物質が届け出されたと推定されています。

タイの既存化学物質インベントリ

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タイも、化学物質管理制度の変革期に向き合う国のひとつです。従来、化学品を1類〜4類(4類になるほど有害性が大きい)に分類する独自の管理制度を運用してきていましたが、実際に規制されている物質の数は限られていました。2015年2月、工業省は同国の主要な法律である有害物質法を改正し、これまでタイで規制対象となっていなかった物質を新規化学物質として管理することとしました。この新しい区分は、付属書5.6物質とも呼ばれています。2016年12月31日までに、工業省産業局(DIW)に届け出された化学物質とその有害性情報は、既存化学物質インベントリを作成するのに使われます。換言すれば、インベントリに収載されなかった物質は新規化学物質と見なされ、将来の新しい規制の対象になるということです(ただし、新規化学物質に課される規制の詳細は未定)。

この付属書5.6で課される届出の対象は「有害物質」に限られ、それは次の性質を有するものとされています:爆発性、可燃性、酸化性または過酸化物、毒性、変異原性、腐食性、刺激性、発がん性、生殖毒性、環境有害性。一見、GHSでなじみのある有害性分類に見えますが、実際の分類基準は定かにされていません。タイでは既にGHS改訂3版が国内法で運用されていますが、今回の付属書5.6のどこにもこれが基準となることは明記されておらず、DIWによる「有害性」の判定に拡大解釈がされる余地が残されているのです。実際、DIWの担当官によれば「水以外は全ての物が対象になり得る」との回答でした。さらに、混合物に含まれる「有害物質」の濃度下限値は設定されておらず、あらゆる混合物が対象になり得ます。

今年末の期限が近づくにつれ、事業者、特にタイに多くの混合物を輸出する企業の間での混乱とフラストレーションが高まってきています。有害性のあいまいな定義と、将来の規制の不確実性があいまって、事業者としては全ての物質と混合物を今後3カ月間に届け出る傾向にあるようです。その際、タイではOR制度を採用していないため、輸入品についての届出義務は、タイ国内に所在する輸入者にあることに注意が必要です。これにより、企業秘密(CBI)をどう取り扱うのかという疑問について、DIWはオンラインでCBI case flowchartを提供し、説明しています。フローチャートによれば、輸入者が届出手続きを開始した後、サプライヤに対して、DIWに直接全ての情報開示をすることを求めることになります。DIWに対する情報提供は、そのセキュリティ上の懸念や、DIWが届出を裁ききれるだけのキャパシティがあるかの疑問はあるとしても、Eメールで行わなければなりません。提供情報により有害物質と判定された場合には、輸入者はサプライヤに、情報開示の許可レターを発行してもらわなければなりません。許可レターが発行されない場合には、届出手続きが完了しないことになります。

今後の展望

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このように多くの国でインベントリが作成された後は、何が起こるのでしょうか?集められた化学物質情報は、各国行政当局によりレビューされ、評価されることになります。政府や事業者が実施した数多くの有害性試験の結果は、化学品の有害性とリスクの知見を大いに引きあげるでしょう。特定された、また疑わしい有害情報は、GHS分類を通じて瞬く間に他国に共有されます。それにより、各国政府はさらなる規制や制限を課すことができるようになります。化学物質のインベントリ作成は、そのような大きな流れの第一歩にしか過ぎず、それは確実にアジアでも実現しつつあるのです。

Enhesaでは、アジア諸国の化学物質規制の法改正動向と具体的な事案も含めた法執行の状況について、定期的にレポートを配信しています。同一情報を英語と現地語両方で提供することで、現地スタッフと、現地法令を原文では読み込めないマネジメント層との間の円滑なコミュニケーションにも役立てていただいています。アジア地域の環境・労働安全法令について最新の情報を取得されたい方は、下記までご連絡下さい。


著者:宮田祐子(Enhesa シニアプロジェクトマネジャー兼シニアコンサルタント)
※本稿の著作権は著者個人に帰属します


【お問い合わせ】
日本エンヘサ株式会社
〒103-0027 東京都中央区日本橋3-4-15 八重洲通ビル4F & 5F
TEL:03-6870-3527

japan@enhesa.com
http://www.enhesa.com/

Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境・労働安全衛生)法令遵守を支援しています。2015年10月には東京八重洲に日本法人を開設し、日系企業のお客様に応対しております。ビューローベリタスジャパン株式会社との緊密な連携により、EHS法規制動向のモニタリング、遵法監査ツールの提供、遵法監査代行、製品規制調査等、日本企業の国内及びグローバル市場における事業展開・事業運営、輸出に関する法令遵守を支援しています。


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