Business Vision

ベトナム海洋汚染、台湾系企業に510億円の罰金


PDF版はこちら PDF


2012年よりビューローベリタスとパートナーシップを結ぶEnhesa (エンヘサ) 社が執筆する、「海外における法規制」に関する記事を連載しています。
Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境、労働安全衛生) 及び製品の遵法を支援しています。
2015年10月には日本法人として日本エンヘサ株式会社を設立、日系企業のお客様に対して、よりきめ細かな支援をお届けする体制を整えました。

2016年6月30日に開かれた記者会見にて、ベトナム政府は、同国ハティン省、クアンビン省、クアントリ省、及びトゥアティエン=フエ省沖合いで起きた魚の大量死は台湾プラスチックグループのフォルモサ・ハティン社からの違法な廃液の排出が原因であるとして、同社に5億米ドル(約510億円)の罰金を命じたことを公表しました。この案件は、同国における一企業に対する罰金としては最高額に近いものであること、また同社が国家的プロジェクトである製鉄所を建設中であり、その操業開始を遅らせることになることが容易に予想される中で下された決定であることから、国内外の大きな関心を集めています。


ベトナムにおける環境保護政策と法執行の強化

-

ハティン省及びその周辺地域で起きた70トンもの魚の大量死は、同地域の漁業に深刻な打撃を与え、26万人の生活に影響を与えたと試算されています。その原因がハティン省で製鉄所を建設中のフォルモサ社ではないかと推定されてから間もなく、2016年5月初旬にベトナム天然資源環境相とハティン省政府が共同で、廃水を海洋排出する同社を含む複数の企業のサイトに立入査察に入りました。査察の結果、同社から地下に埋設されたパイプを通じて排出された廃液に排出基準以上の濃度で含まれるフェノールとシアン化物が、エコシステムに直接的に深刻なダメージを与えたと考えられています。汚染の発覚から数カ月以内に推定原因企業に強制的な調査が入り、汚染原因者が特定され、罰金額が決定され、記者会見で公表されたわけで、同社の誘致が鉄鋼の国内生産という同国の悲願に基づく国家的に重要なプロジェクトに関連していたことを考えると、ベトナム政府が実に迅速に思い切った決定を下したという印象です。フォルモサ・ハティン社の会長は6月30日の政府記者会見で流されたビデオメッセージを通じて、同社の事業が汚染の原因であることを認めて謝罪し、5億米ドルの罰金を支払うことと今後の政府のさらなる調査と汚染対策に協力することに同意しました。6月25日に予定されていた製鉄所の操業開始は大きく遅れることが予想されています。

実は、ベトナム政府による経済発展偏重から環境影響を考慮した政策への転換は、過去数年間の法令採択に顕著に現れていました。2013年中には環境法令の強化と執行のために行政庁間の役割・責任分担が整理され、同時に229の汚染原因サイトが詳細に分析されました。その結果も受けて2014年6月23日に採択された新環境保護法には、特定された環境汚染の原因者である企業が、汚染対策の実施と汚染によって生じた被害の保障に責任を持つことが明記されました。新環境保護法の下、2015年から2016年にかけて複数の下位規則が採択又は改正され、罰則の引上げと監視の強化が図られてきています。たとえば、2015年3月1日から、水質、土壌、エコシステム、保護対象の生物種に対する甚大な汚染を起こした汚染原因者は、その汚染除去や環境修復にかかるすべての費用を負担する責任があります。同年12月からは、一定量以上の排水、排気、又は廃棄物を排出する企業は、環境影響評価を実施しその内容について政府の承認を得なければならず、さらにその結果によっては、環境マネジメントシステムや排気・廃水の自動監視システムを導入しなければなりません。さらに、刑法が改正され、2015年7月1日以降に特定された排水、排気、放射性廃棄物を含む廃棄物に関する法的要求事項に対する違反や、天然資源保護区内における環境法令違反には、従来より高額の罰金が課されています。

法改正の一方で、実質的な監視の強化も図られてきています。2010年には中央政府公安省と各省・区の公安局の中の特別局として「環境警察」が組織され、環境汚染の推定関係者に対する捜査権が与えられました。環境警察には、推定される環境犯罪や法令違反者に対して製品サンプルや書類、資料を要求又は押収し、当該違法行為に関連するとみなされる行為を取り調べ、必要に応じて業務停止命令を出す権限が認められています。さらに2015年12月5日より、環境法令に違反するような企業活動や犯罪に関与すると疑われる企業は、環境警察による定期的な監視と不定期の立入査察の対象となりました。フォルモサ社の事案はその高額な罰金により内外メディアの大きな注目を集めていますが、その他にも同国で環境汚染の原因者と特定された外資系企業に多額の罰金や業務停止命令が執行されるケースが複数公表されており、天然資源環境省は、同国の経済発展は自然環境を犠牲にするものであってはならないことを明確なメッセージとして打ち出しています。

その他のアジア諸国における動向

-

企業の環境法令遵守の監視を強めるのはベトナムだけではありません。

タイでは、2007年に複数の政府機関により組織された「国家調和環境法令執行コミッティ」が、2016年8月13日よりようやく実質的な活動を開始します。2015年末から今年始めにかけて同コミッティの運営ルールが公表され、法令執行強化の対象とする環境法令が具体的に特定されたことで、コミッティを組織する産業活動省や天然資源環境省が法令遵守の監視を強めることが予想されています。対象となる法令には、天然環境品質の強化と保護法、工場法、公衆衛生法、有害化学物質法、産業不動産法、土地計画法とその下位規則が含まれます。また、今後の方向性として、環境保護政策の主要法令である天然環境品質の強化と保護法の大幅な改正とともに、環境法令違反を審議する独立した裁判所の設立も議論されています。環境裁判所が設置された場合、懸念とされる環境汚染について一般市民やNGOが自由に訴訟を提起し、また案件が迅速に審議・裁定されることが期待されています。

フィリピンでは2016年4月に、最高裁判所が各判事に宛てて、環境法令を執行する政府機関に対する差止命令を出すことが法律上許されているのは最高裁判所だけであることを再確認する通知を出しました。この通知は、環境汚染を起因する可能性のある企業や個人の活動について執行当局が一定の行動をとる裁量を認め、環境問題の迅速な解決を図ることを意図しているものと推測されています。

インドネシアでは2013年に環境法令違反に対する行政罰の執行に関する通知が発行され、環境省の下位機関における行政罰の適用ルールが統一されてきています。ベトナムのケースほど高額の罰金こそないものの、外資系企業が行政罰の対象となる事案や、同じ河川域に立地する10以上の複数の企業が一度に行政罰の対象となった事案、さらに刑事罰の対象として捜査が開始された事案も報道されています。

結論

-

ベトナムにおけるフォルモサ社の事案では、その後も、同社に向けられる市民・政府による厳しい責任追求とその他の違法行為の可能性について、同国内で頻繁に報道されています。科学者の試算によれば、ハティン省とその周辺地域沿岸の海洋エコシステムの回復には少なくとも50年を要するとされます。同国中央政府はさらに、省行政庁による同社の操業許可や排水許可手順の見直しを始め、その手順に過誤・過失、違法性がなかったか、またその責任者が誰かも特定する厳しい調査を進めています。加熱するメディアの追及は同社のその他の潜在的な違法行為に及び、廃棄物の違法投棄や脱税の可能性などが追及されています。また、同国警察は、フォルモサ・ハティン社と責任者個人に対して刑事罰を課す可能性を検討しています。

東南アジア諸国は、ポスト中国の製造拠点としてその重要性が増す一方、中国などの主要市場と比較すると1カ国の製造・市場規模が小さく、企業としては、より少ないリソースでコンプライアンスを確保しようとせざるを得ない傾向にあります。多くの日系企業において、現地法人のマネジメント層の大半を日本人が占める傍ら、実務は現地採用のスタッフに任せているというのが現状でしょう。弊社は外資系企業のアジア現地法人の環境遵法監査を数多く手がけていますが、企業にとってリスクが高い法令違反が指摘されたケースにおいて、マネジメント層と現地スタッフの間で理解・意思疎通のギャップが見られることが少なくありません。現地スタッフが法令が意味するところを正確に理解していない、これまで法執行が比較的緩かったことでリスクとして認識されていない、違法状況が事業や経営陣にもたらすリスクが社内で適切に共有されていないなど、マネジメント層の悪意なき違法であることが多いのです。日々の業務管理の中で、現地スタッフに対する信頼と適切な監督の間のバランスをとり、ブラックボックスではなくマネジメントシステムの中で確実に遵法を担保することは、当地における企業活動の安全な遂行のみならず、最終的な責任者であるトップマネジメントを刑事責任から守ることにもつながります。

Enhesaでは、アジア諸国における最新の法改正動向と具体的な事案も含めた法執行の状況について、定期的にレポートを配信しています。同一情報を英語と現地語両方で提供することで、現地スタッフと、現地法令を原文では読み込めないマネジメント層との間の円滑なコミュニケーションにも役立てて頂いています。アジア地域の環境・労働安全法令について最新の情報を取得されたい方は、下記までご連絡下さい。


著者:宮田祐子(Enhesa シニアプロジェクトマネジャー兼シニアコンサルタント)
※本稿の著作権は著者個人に帰属します


【お問い合わせ】
日本エンヘサ株式会社
〒103-0027 東京都中央区日本橋3-4-15 八重洲通ビル4F & 5F
TEL:03-6870-3527

japan@enhesa.com
http://www.enhesa.com/

Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境・労働安全衛生)法令遵守を支援しています。2015年10月には東京八重洲に日本法人を開設し、日系企業のお客様に応対しております。ビューローベリタスジャパン株式会社との緊密な連携により、EHS法規制動向のモニタリング、遵法監査ツールの提供、遵法監査代行、製品規制調査等、日本企業の国内及びグローバル市場における事業展開・事業運営、輸出に関する法令遵守を支援しています。


www.bureauveritas.jp

© Bureau Veritas Japan