Business Vision

アセアンが目指す環境・労働安全政策の域内調和


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2012年よりビューローベリタスとパートナーシップを結ぶEnhesa (エンヘサ) 社が執筆する、「海外における法規制」に関する記事を連載しています。
Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境、労働安全衛生) 及び製品の遵法を支援しています。
2015年10月には日本法人として日本エンヘサ株式会社を設立、日系企業のお客様に対して、よりきめ細かな支援をお届けする体制を整えました。

東南アジア地域は日系企業にとって、ポスト中国の製造基地として、また市場としての重要性が増しています。一方、市場の成熟とグローバル取引の増大に伴い、アジア各国の環境・労働者保護に対する姿勢は、近年大きく変わってきました。たとえば、過去3年間 (2013年5月〜2016年4月) に採択された環境・労働安全法令/法改正は、アセアン主要6カ国 (インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム) 全体で224件(*1)に上ります。特にベトナムはこの間、環境・労働者保護政策を強めており、昨年のアセアン主要6カ国全体の法改正件数の半数をベトナムが占めました。東南アジア各国は、それぞれ固有の法体系と歴史的背景を有しており、企業としては、国ごとに相当異なる法令に対応しなければなりません。アセアン加盟10カ国により2015年末に発足したアセアン共同体 (ASEAN Community) と、それを構成するアセアン社会・文化共同体 (ASEAN Socio-Cultural Community) は、域内の一定の分野の政策の調和において、1つの道筋をつけてくれるかもしれません。

(*1)Enhesaが過去3年間に顧客企業に配信した環境・労働安全法令の改正動向に関する報告書件数に基づく。実際の法令の数ではありません。


環境

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主要な河川が国境を越えて流れ海に注ぎ込み、汚染された大気が越境し、隣国と森林・海洋資源を共有する一方、国による経済・社会発展度合いの差異が著しい東南アジア諸国にとって、地域全体の環境の維持は大きな課題の1つです。アセアンでは、加盟国間の政策の枠組みを調和するために、2009年から2015年にかけて「アセアン社会・文化共同体ブループリント」を採択・運用していましたが、2016年3月にはアセアン社会・文化共同体が、2025年に向けた「ブループリント2025」を発刊しました。その中で、社会の持続発展性と回復力が、2025年に向けた5つの大きな目標の中の2つに挙げられています。持続発展性には生物多様性と天然資源の保全、環境的に持続可能な都市設計、持続可能な気候、持続可能な消費と生産が含まれ、回復力には、自然災害からの回復力の強化や気候変動への適応が含まれます。

アセアン社会・文化共同体ブループリントに基づいて、持続的な発展のための具体的なアクションを協議し、加盟国間の環境政策の調和を図るため、アセアン加盟国の環境大臣は定例会議を開催しています。2015年10月28日には第13回会合がハノイで開かれ、議長国ベトナムの主導により、「アセアン 2015年以降の環境持続可能性及び気候変動アジェンダ」のドラフトが進められました。このアジェンダには、2015年以降のビジョンを達成するため、アセアンが従来より抱える、また今後顕在化する可能性のある気候変動に対する課題を整理し、それら課題に対応していくというコミットメントが示されています。

2015年以降のビジョンとして、環境大臣らが「アセアン 環境協力の実行に関する戦略計画」「環境報告書第5版」「煙霧のないアセアンに向けたロードマップ」及び「アセアン-国連 2015年以降の環境・気候変動ワークプラン」を作成していくことで合意しました。併せて、「アセアン 統合された水資源管理のパフォーマンスモニタリング指標に関する枠組み」を推進することも合意されました。この枠組みは、域内全体の水資源管理の目標到達度を評価するツールとして機能することが期待されています。次のアセアン環境大臣会合は、2017年にブルネイ・ダルサラーム国で開催される予定です。

労働安全

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アセアン域内では、近年ますます労働力が流動化しており、各国がそれぞれ、労働力の供出国であると同時に受入国でもあります。現在では3,400万人の人々が、出身国と異なる域内国で働いていると推計されています。元々多くのアセアン加盟国は多言語文化であり、他国からの労働者の流入もあいまって、1つの工場の中でも多くの言語が使われ、労働安全に対する文化・姿勢、知識・スキルが異なる人々が一緒に働いているというのが現状です。

そのような労働環境の変化を背景にして、域内の労働者保護政策の調和化が長年議論されてきました。一つのスキームとして、ILO (国際労働機関) の支援を受け、アセアン10カ国の代表が集う「アセアン労働者の安全衛生ネットワーク (ASEAN-OSHNET)」が運用されています。2016年4月26日・27日、アセアン加盟10カ国の代表がベトナムに集い、第17回会合を開きました。会合では、2016年2月にシンガポールで開かれた政策対話で提起された「2016年〜2020年の行動計画」を採択し、労働安全衛生基準の改善と域内共通の労働安全衛生標準を導入することが合意されました。行動計画の中では、労働監督の強化、労働安全衛生基準と対応力、そして職場におけるHIV予防と管理のテーマの下に、23のプロジェクトが設定され、5年以内に導入されることが予定されています。

具体的には、次のような活動が計画されています:
● 労働安全衛生監督(査察)基準のチェックリストの共通化
● 国際労働条約第187号「職業上の安全及び健康促進枠組条約」 (2006年) と調和した地域共通の労働安全
  衛生基準の設立
● 労働環境におけるHIVカウンセリング及び試験に関するアセアン共通指針

アセアンでは、ILOや国連の支援も受けながら、域内全体の対応力を強化する取組みが進んでいます。シンガポールは、自国の労働監督手法を他の加盟国当局者に対してレクチャーしています。また、労働安全衛生管理上のリスクやその適切な管理がもたらす経済的な利益について、域内の調査を進めるべく、インドネシアとシンガポールが共同して計画をするなど、国を超えた共同作業が進んでいます。

結論

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これら政策の調和が実現した場合、企業にとって望ましいものでしょうか。ある意味では、そうでしょう。多国籍な環境においてしばしばアジアは一括りにして語られがちですが、アジアに主要拠点を多く持つ日系企業の日々の現場では、地域内に厳然として存在する言語、商慣習・文化、法体系等の相違に対応するため、多くの担当者が苦労しながら実務をこなしているのが現状です。中国やインドといった、製造スケール・市場規模が大きく、サプライチェーンの中で重要な位置を占める国には、環境や労働安全法令への対応にも相応の予算や人手を割くことができるのに対し、東南アジアの国々は1カ国の規模が小さく、製造拠点も1カ国1カ所、多くても数カ所といったところであり、企業には、より少ないリソースで遵法を確実にすることが要求されています。政策が調和されるということは、ある程度先が読みやすくなるということであり、より効率的に遵法対応が可能になることが期待されます。一方で、目指されているのは調和であり、限定的な場合を除いては共通化ではないことに留意すべきです。経済力、自然環境の条件、労働力、政府及び民間の能力・キャパシティは国ごとに異なり、法令の実務的な運用が調和されるまでには、かなりの時間と試行錯誤が予想されます。調和された政策の中で生じる国の間の微妙な差異に、より細やかな注意を払っていくことが必要とされるようになるでしょう。

Enhesaでは、アセアン及びその加盟国における最新の法改正動向、政策動向、また提案中の法案について、定期的にレポートを配信しています。アセアン地域の環境・労働安全法令について最新の情報を取得されたい方は、下記までご連絡ください。


著者:宮田祐子(Enhesa シニアプロジェクトマネジャー兼シニアコンサルタント)
※本稿の著作権は著者個人に帰属します


【お問い合わせ】
日本エンヘサ株式会社
〒103-0027 東京都中央区日本橋3-4-15 八重洲通ビル4F & 5F
TEL:03-6870-3527

japan@enhesa.com
http://www.enhesa.com/

Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境・労働安全衛生)法令遵守を支援しています。2015年10月には東京八重洲に日本法人を開設し、日系企業のお客様に応対しております。ビューローベリタスジャパン株式会社との緊密な連携により、EHS法規制動向のモニタリング、遵法監査ツールの提供、遵法監査代行、製品規制調査等、日本企業の国内及びグローバル市場における事業展開・事業運営、輸出に関する法令遵守を支援しています。


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