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化学物質のリスクアセスメントが義務化されました


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2016年6月1日より改正労働安全衛生法が施行され、化学物質のリスクアセスメントの実施が義務となりました。
今回の改正は、化学物質による健康被害が問題となった事案の発生やうつ病等による労災認定件数の増加が背景にあり、労働者の安全と健康の確保をいっそう充実するため、2014年6月25日に公布された「労働安全衛生法」における改正された6項目のうちの1つです。
本改正では、対象となる化学物質が大幅に増加すること、業種や規模を問わず、上記の対象化学物質を製造、または取り扱う事業者を対象としていることから、これまで化学物質に関してのリスクアセスメントになじみのなかった業種であっても、今後はリスクアセスメント実施を求められる可能性があります。そこで本稿では、事業者としてやらねばならないことを紹介します。


1.改正の概要

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本改正では、一定の危険性・有害性が確認されている640の対象化学物質を製造、または取り扱う事業者に対して、業種や規模を問わず、危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)を実施することが義務付けられました。これら640の化学物質は、これまでも労働安全衛生法第57条の2及び同法施行令第18条の2に基づき、事業者間で譲渡または提供する際には安全データシート(SDS)の公布が義務付けられていましたが、改正後は製造、または取り扱う場合、リスクアセスメントも行わねばなりません。
そして、事業者は、リスクアセスメントの結果に基づき、労働安全衛生法及び労働安全衛生規則や特定化学物質障害予防規則において規定が定められている場合には、当該規定に基づく措置を講じることが必要(義務)である他、法令に規定がない場合でも、事業者の判断により、結果を踏まえて、労働者の危険又は健康障害を防止するために必要な措置を講じることが求められます(努力義務)。


図1:化学物質等に関する規制の変更の様子

(出典:厚生労働省資料)


2.リスクアセスメントの作業

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改正労働安全衛生法の公布後、2015年9月18日にリスクアセスメントの指針として「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」が制定・公示されました。この指針は、事業者が、労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのある化学物質等についてのリスクアセスメントを実施し、その結果に基づくリスク低減措置が各事業場において適切かつ有効に実施されるよう、リスクアセスメントからリスク低減措置の実施までの一連の措置の基本的な考え方と具体的な手順の例と実施する上の留意事項を定めたものとなっています。


(1) 手順

リスクアセスメントは、以下の手順で行う必要があります。
図2:リスクアセスメントの手順(出典:厚生労働省資料)



(2) リスクアセスメントの体制

リスクアセスメント及びその結果に基づく措置は、以下に示す体制で実施する必要があります。また、安全衛生委員会の活用等を通じ、労働者を参画させなければなりません。

役職

役割

総括安全衛生管理者等、事業の実施を統括管理する者 リスクアセスメント等の実施を統括管理する。
安全管理者、衛生管理者等
職長その他の当該作業に従事する労働者を直接 指導し、又は監督する者としての地位にある者

リスクアセスメント等の実施を管理する。

化学物質管理者 リスクアセスメント等の技術的事項を実施する。
化学物質等に係る危険性及び有害性、化学物質等に係る機械設備、化学設備、生産技術等に係る専門的知識を有する者 リスクアセスメント等への参画

なお、事業所に安全衛生委員会、安全委員会又は衛生委員会が設置されている場合には、これらの委員会においてリスクアセスメント等に関して調査審議させたり、上記委員会が設置されていない場合には、リスクアセスメント等の対象業務に従事する労働者の意見を聴取する場を設ける等、リスクアセスメント等の実施を決定する段階において労働者を参画させる必要があります。また、化学物質等に関してのリスクアセスメントに関わる人に対して必要な教育を実施する必要があります。


(3) 実施時期

労働安全衛生規則第 34 条の2の7第1項に基づき、リスクアセスメントは、事業場におけるリスクに変化が生じ、又は生ずる恐れがある時に実施します。



化学物質等を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。
化学物質等を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。
化学物質等による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。(具体的には、化学物質等の譲渡又は提供を受けた後に、当該化学物質等を譲渡し、又は提供した者が当該化学物質等に係る安全データシートの危険性又は有害性に係る情報を変更し、その内容が事業者に提供された場合等が含まれること。

この他に、以下のような場合でも実施する必要があります。




化学物質等に係る労働災害が発生した場合であって、過去のリスクアセスメント等の内容に問題がある場合
既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメントの対象物質として新たに追加された場合等、当該化学物質等を製造し、又は取り扱う業務について過去にリスクアセスメント等を実施したことがない場合
前回のリスクアセスメント等から一定の期間が経過し、化学物質等に係る機械設備等の経年による劣化、労働者の入れ替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合

(4) 対象作業の選定

定常・非定常に関わらず、対象の化学物質等を製造、又は取り扱う業務が対象となります。評価に当たっては、対象の化学物質等を製造、又は取り扱う業務ごとに行う必要があります。
なお、過去に労働災害や危険な事象が発生した作業等、労働者の就業に係る危険性又は有害性による負傷又は疾病の発生が合理的に予見可能である作業については、リスクアセスメントを実施しなければなりません。


(5) 情報の入手

リスクアセスメント等の実施に当たり、以下の資料等を入手します。

入手すべき資料の例
● 安全データシート(SDS 等)、作業標準、作業手順書等、機械設備等に関する情報
● 化学物質等に係る機械設備等のレイアウト等、作業の周辺の環境に関する情報 等
● 作業環境測定結果等
● 化学物質等による災害事例、災害統計等

(6) 危険性又は有害性の特定

化学物質等による危険性又は有害性は、作業標準等に基づき、対象の化学物質等を製造、又は取り扱う業務ごとに、GHSで示されている危険性又は有害性の分類等に則して特定します。


(7) リスクの見積り

リスク低減の優先度を決定するため、危険性又は有害性により発生する恐れのある負傷や疾病の重篤度とそれらの発生の可能性の度合の両者を考慮してリスクを見積もります。

リスクの見積もりに関して、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に関する都道府県労働局長向け指示文書では、
● (別紙2)リスク見積りの例
● (別紙3)化学物質等による有害性に係るリスク見積りについて
において、リスク見積もり事例が紹介されているほか、厚生労働省では、化学物質のリスクアセスメントの実施支援ツールとして、「化学物質リスク簡易評価法」(コントロール・バンディング)を開設しています(無料)。現在、使用している化学物質の安全データシート(SDS)を用意すれば、化学物質に詳しくない方でも、リスクアセスメントが実施できるようになっていますので、目を通してみて下さい。

リスク低減措置の検討及び実施
リスク低減措置は以下の手順で実施します。法令で規定された事項がある場合には実施が必要です。


図3:リスク低減策の手順

(出典:厚生労働省資料)


(8) 労働者への周知・記録

安衛則第34条の2の8に基づき、リスクアセスメント実施後、リスクアセスメント結果等の労働者への周知等を、作業場の掲示板等での常時掲示や、文書等による配布等により、速やかに行わねばなりません。

労働者への周知内容
● 対象の化学物質等の名称
● 対象業務の内容
● リスクアセスメントの結果(特定した危険性又は有害性、見積もったリスク)
● 実施したリスク低減措置の内容

また、リスクアセスメントの実施記録及び、アセスメントに基づく措置の実施記録に関して、上記の情報を次回調査等を実施するまで保管する必要があります。


3.必要な対応

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我々が日常的に使用する製品には、健康障害に対するリスクが広く知られている化学物質から、リスクがあまり知られていないものまで数多くの化学物質が使用されています。本改正では、新たにリスクアセスメントが義務づけられた化学物質が500以上増加しました。いずれも使用量や使用法によっては健康障害が発生するリスクがあると言われてきた化学物質ではありますが、リスクアセスメントの抜け漏れを防ぐために、一度ゼロベースで確認が必要です。
また、本改正では、リスクアセスメントの対象者を、化学物質を製造または取り扱う事業者と定めています。対象者の中には、これまでリスクアセスメントになじみのなかった事業者も多いことと思われます。これまでリスクアセスメントになじみのなかった企業は、対象プロセス・対象化学物質の特定にはじまる一連のリスクアセスメント手順を理解する必要があります。
今回の改正は、事業者にとって非常に負担が大きいものとなりました。ただ、化学物質に関しての規制強化の流れは変わらず、一層管理が厳しくなっていくものと考えられますので、今回の改正を化学物質管理に対してシステマチックに対応する好機として、捉えてみて下さい。


ビューローベリタスは、OHSAS18001(労働安全衛生マネジメントシステム)の認証や、労働安全衛生法及び労働安全関連法の遵法監査サービス、内部監査員トレーニング等を通じて、事業者の化学物質取り扱いのお取り組みをサポートします。
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参考資料(関連法規等)
化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成27年9月18日付指針公示第3号)
● 指針本文
● 都道府県労働局長向け指示文書


システム認証事業本部 木下徳彦


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