欧米と日本:環境・労働安全衛生遵法監査の異なるアプローチ
 

2012年よりビューローベリタスとパートナーシップを結ぶEnhesa(エンヘサ)社が執筆する、「海外における法規制」に関する記事を連載しています。

読者企業の多くが、国内外の拠点においてISO14001やOHSAS18001の認証を取得されていると思います。では、そのうち、環境・労働安全衛生 (EHS) 遵法監査を実施している企業はどのくらいでしょうか?2013年11月にEnhesa社とビューローベリタスジャパン株式会社との共催により東京で実施されたセミナーでは、セミナー後のアンケート回答者67名 (日本企業のEHSやコンプライアンス・法務担当者) のうち半数が、ISOとは別に、外部コンサルタントや自社社員によるEHS遵法監査を実施していると回答しました。残り半数の企業では、ISO認証審査や内部監査において遵法を確認しているとの回答でした。本号では、環境・労働安全衛生遵法監査のアプローチについて、特に日本と欧米との違いに着目して解説します。

企業の環境・労働安全衛生管理において、現地法令への遵法は基礎をなします。本来であれば、自社拠点や製品に適用される法令及び法的要求事項を特定し、実際の遵法状況を評価・検証し、その結果を継続的に記録管理することで、マネジメントシステムにフィードバックしていくサイクルが確立されてあるべきです。遵法監査は、遵法状況を客観的に評価する手段であり、EHSに限らずあらゆる分野で採用されています。

しかし、特に海外拠点における遵法状況を真に効果的に評価するのは、容易いことではありません。先のセミナー参加者によるアンケート回答では、その主な理由として、最新の現地法令情報の取得や法令・要求事項の正しい理解が難しいことに加え、現地実務の効果的な評価、現地従業員の啓蒙・教育、育成の際の困難が挙げられました。EHS監査が法的に求められることは少なく、多くの国では営業の許認可等と関連して、また環境影響評価として特に環境負荷が高い業種・操業内容に限定的に要求されています。また、自主的な監査を実施する場合の指針等 (法的な拘束力をもたない)の提供などに留まっている場合もあります。そのような環境で、現地拠点に遵法監査を受け入れ協力してもらうことは、特に日系企業にとってやや敷居の高いことであるようです。

監査員は、通常、書類レビュー、現地目視、関係者へのインタビューにより、評価に必要な客観的データを収集し、事実に基づく評価を行います。最も避けるべきは、推測、風聞・うわさ、印象により、評価結果にバイアスがかかることです。このため、米国の The Institute of Internal Auditors (https://na.theiia.org) は、監査員の倫理規定として Integrity (誠実さ), Objectivity (客観性), Confidentiality (守秘), Competency (適正な能力) を挙げています。また、監査員と被監査者 (拠点や関係者)との間の利害関係を禁じ、監査員の倫理規定に Independence (独立性) を追加する機関もあります。米国で実施された企業内EHS担当者アンケート (Bloomberg BNA & Enhesa Global Auditing Benchmark Survey 2013: http://www.bna.com/global-auditing-benchmark-p17179875493/) によると、EHS遵法監査を実施する企業の実に80%以上が、グループ本社を発注主として、外部コンサルタント (監査員) に世界各地における監査を依頼しています。監査報告書は、依頼主である本社担当者やEHS担当役員、企業によってはCEO・上級役員に直接提出されます。Enhesaも顧客から依頼を受け、世界各地で多くの第三者監査を実施していますが、監査結果報告書を被監査拠点に直接提出することはまずありません。もちろん、現地滞在中に問題点を発見した場合はその都度指摘し、監査最終日のクロージャー会議の場で結果の速報を拠点の責任者等と共有します。しかし、正式な監査結果報告書は依頼主である本社に向けてのみ作成・提出され、そこには、拠点と直接の利害関係がない第三者による公平で客観的な評価結果のみが記載されているのです。

欧米流の遵法監査は上述のように「評価」が主眼であり、往々にしてEHS管理部署から分離された監査部署や監査事務局が、監査結果を管理部署と拠点につきつけ、自助努力による改善を促し、是正活動の進捗と結果のみを報告させます。Global Auditing Benchmark Survey では、72%の回答者が「甚大な指摘 (法令違反) 事項の数」「指摘事項の数」「違反のリピート数」のいずれかまたは全ての掛け合せにより、監査結果をスコア (数値) 化しています。この結果が、拠点のEHS担当者のみならず現地法人社長や工場長の評価に、直接的または間接的に影響を及ぼし得るのです。したがって、EHS遵法監査の結果は関係者に非常に深刻に受け止められており、監査員による現地訪問前や訪問期間中は、現地の経営層始め全ての関係者がぴりぴりとしたムードで準備に取り組みます (監査員との想定問答集が準備されることもあります)。また、訪問後の是正活動には、現地経営層のコミットメントとリーダーシップが強く発揮されます。是正活動には組織や業務プロセスの構造的な改革や、大規模な予算を必要とする設備更新など、EHS担当者の責任権限を超えた経営判断が必要なことがあり、さらに、違法状態を許容し続けることは、場合によっては大きな経営リスクとなり得るからです。

一方で、日系企業は監査員に対して、遵法状況の評価と共に、「なぜ違反事態が生じてしまったのか」「構造的原因があるのではないか」といった原因分析や根本問題の特定、「問題点の具体的な解決手段は」「今後、同様の問題を未然に防ぐために現地担当者はどうしたらよいか」といった「改善指導」を期待する傾向があるように見受けられます。もちろん全ての日系企業がそうではないでしょうが、一般的には、拠点に監査を“受け入れて頂く”姿勢であり、拠点の受け止め方としても、本社の評価機能よりサポート機能への期待の方が高いように思えます。監査前に十分な余裕をもってチェック項目を送付し、主な項目については現地担当者に事前ブリーフィングをする (それにより監査当日までに対応してもらう) という企業もあります。監査結果を本社役員に提出した際、なぜ現地を指導して違反事項をゼロにしてから持ってこないのか、と注意を受けたという別の企業の例は、経営層自らが本社担当者のサポート機能を強く期待していることを顕著に示しています。

この日本式アプローチには複数の良い側面があります。まず、本社と拠点とのオープンなコミュニケーションが促進され、拠点によって問題が意図的に隠蔽されるリスクが下がると考えられます。また、本社が当事者として是正活動に関ることで実務レベルの相互理解が深まり、改善活動に全社として取り組む可能性が広がります。加えて、日系企業は一般的に、現地従業員の教育研修を重視する傾向がありますが、この「監査兼改善指導」と組み合わせることで、現地従業員の知識・ノウハウレベルの全体的な底上げを図ることができます (この点、現地におけるEHS管理に問題があると見るや外部から専門家をマネージャークラスに採用し、上からの管理を強めることが多い欧米企業とは対照的です)。

一方で、ネガティブな側面があることも否めません。本来、ある期間の遵法状況を厳密に評価するべき監査結果に、一定のバイアスがかかってしまう可能性が生じてしまうからです。拠点としては事前に準備をしその場での対応はできたかもしれませんが、監査員にその情報が見えない以上、根本的な問題の種が見過ごされ将来再び違反が生じてしまうこともあり得ます。また、問題点として指摘された事項について、本社がどこまで強く是正を求めていけるか、難しい舵取りを求められることもあるでしょう。労働流動性の高い国では、せっかく教育訓練した現地従業員がそのノウハウをもって他社に移ってしまう可能性もあります。さらに、拠点から第三者監査に強いアレルギー反応を示された結果、外部専門家ではなく本社社員が自ら監査員として現地訪問するケースもよく見聞します。このような場合、特に日本と全く異なる法体系・法規制を基準とする海外拠点の遵法監査については、単なる現地表敬訪問では終わらせない実効性の高い監査を実現させるためにも、かなりの工夫が必要です。

私は、欧米式と日本式のどちらかが優れているかというものではなく、同じ目標に到達するためにそれぞれ異なるルートを登っていると考えています。これまで米系企業を中心にあらゆる遵法監査手法が開発され標準化されてきていますが、世界にはその手法が必ずしも通用しないことを示唆する事例が見受けられます。たとえば、先日来ニュースで騒がれている食品の偽装で摘発された中国の食品加工工場には、外資系親会社や取引先から、過去に数度の監査 (外部専門家による監査) が入っていましたが、いずれもその偽装を見抜くことはできませんでした。監査時期と偽装時期に重複がなかったのか、監査中に何らかの隠蔽が施されたかは、今後の報道を待つしかありませんが、作業員に偽装を指示する管理職クラスの従業員の意識の低さは既に明らかです。外資系親会社が偽装を指示したとは考えづらく、厳しい社内ルールや手順の導入と定期的な監査実施によって、海外拠点を十分コントロールしていたつもりだったのでしょう。しかし、現地管理者や作業員の意識はそれらに全く追いついておらず、むしろ監査のウラをかかれてしまったことになりました。スポット的な監査とその結果のみに依拠する弱点が明らかにされたと思います。

遵法監査は企業リスク管理の決して安くない一手法であり、結果として社会からの信頼を損なうような問題や、将来重大な問題に発展しそうな“気配”・ニアミスを察知するために、周到に設計され効果的に使われるべき手段です。Enhesaでは過去20年間にわたり、あらゆる業種・業態の企業における遵法監査プログラムの設計から実行の支援、第三者監査実施、国毎の監査ツール (遵法チェックリスト) の作成を手がけています。過去10年間に250件以上のEHS遵法監査を率いており、2013年以降、アジア・環太平洋地域、ヨーロッパ、北南米、北アフリカ・中近東の27カ国において、60以上の拠点のEHS遵法監査を実施しています。遵法監査に関するお問合せについては、下記窓口までお寄せください。

Enhesa 事業開発&プロジェクトマネジャー 宮田祐子

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Enhesaは、ベルギーのブリュッセル及びアメリカのワシントンDCに本社を置くグローバルコンサルティング会社であり、企業のEHS (環境、労働安全衛生)法令遵守を支援しています。日本にもサテライトオフィスを開設しており、日本時間に日本語での対応が可能です。ビューローベリタスジャパン株式会社との緊密な連携により、法規制動向のモニタリング、コンプライアンス監査ツールの提供、コンプライアンス監査代行、製品規制調査等、日本企業の国内及びグローバル市場における事業展開・事業運営、輸出に関する法令遵守を支援しています。

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